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7章 15話 天秤は傾かない

「マザー・マリアッ!」

 厳樹が叫ぶ。

 それに呼応するようにマザー・マリアの腕が助広を狙う。

 何本もの腕が弾丸のような勢いで助広へと伸びてゆく。

「っと」

 その内の一本を、助広は十字架で弾く。

 そうしてできた隙間に彼は体を滑り込ませる。

 マザー・マリアは伸びた腕を収縮さえ、背後から助広を襲う。

 しかしそれも彼は躱してゆく。

「これだけ巨大になると、腕を落としても意味がないだろうからね」

 助広はマザー・マリアの腕の上を疾走する。

「狙うなら中心部だよね」

 助広は笑う。

 末端を斬り捨てる意味はない。

 マザー・マリアにとって大きなダメージにはならない。

 だから助広は、もっと体の中央部分を狙うことにしたのだろう。

 ――その選択は正しい。

 厳樹はこれまでマザー・マリアについて調査してきた。

 肉塊から大量の腕が生えているという、従来の生物とは異質な形。

 しかし肉塊の中央部にはコアのようなものが存在していた。

 刺激しすぎないようにしていたため、あまり研究が進んではいない。

 だが他の《ファージ》との比較の結果、あれが心臓部と判断したのだ。

 助広もまた、マザー・マリアの核があるとしたら肉塊の中だと考えたのだろう。

(マザー・マリアのコアは肉塊の奥深くにある。本来なら届くような場所ではないが――)

 ALICEが戦ったとして、マザー・マリアのコアを狙うにはかなりの労力が必要となるだろう。

(だが神楽坂の能力なら――届き得る)

 彼の言う通り、助広がマザー・マリアと同等の力を持っているのなら。

 肉塊ごと核を破壊できるかもしれない。

 マザー・マリアの腕を走る助広。

 体に到達するまで20メートル。

(奴に遠距離攻撃の手段はなさそうだ。だからこそ、近づかせるわけにはいかない)

「――――滅ぼせ」

 厳樹の指示。

 マザー・マリアの口にエネルギーが収束する。

 そして――射出した。

「っと」

 横薙ぎの十字架がレーザーを逸らす。

 そのまま黒い閃光は彼方に消え――山を削った。

「まさかの切り札に驚かされたけどね」

 助広は笑う。

 彼はすでに、マザー・マリアの体に到達していた。

「だけど、指示を出さなければ行動しない分、ロスも多い」

 それは仕方のない欠点だった。

 マザー・マリアを自由にさせるわけにはいかない。

 だから、誰かが制御しなければならなかった。

「それも指示を出すのはただの人間。反射神経だってALICEに遠く及ばない」

 生天目厳樹にALICE適性はない。

 単純な反射神経だけで見てもALICEに及ばない。

 厳樹が反応し、指示を出し、マザー・マリアが理解する。

 これらの行程を踏むのは確実にロスだ。

 それでも本来ならスペック任せにねじ伏せることはできただろう。

 ――相手が助広でなければ。

 彼の《極彩色(プリズム・)の天秤(フェアリズム)》とマザー・マリアは致命的に相性が悪い。

「終わりだよ」

 助広が十字架を振り下ろす。

 轟音とともに――マザー・マリアの体が弾けた。

 肉塊が肉片に変わる。

 肉塊の中に埋まっていた球体が砕ける。

「マザー……マリアが」

 厳樹は信じがたい光景にそう漏らした。

 絶対的な力だと思っていたマザー・マリア。

 すべてを引き換えにする覚悟さえあれば、厳樹の復讐を遂げてくれると信じていた悪魔。

 それが――滅された。

「よいしょっと」

 助広は厳樹の前に着地する。

 ――崩れてゆくマザー・マリアを背にして。

「それで……どうするんだい?」

 助広は厳樹に問いかけた。

「もう、貴方の手札はなくなった」

 それはきっと正しいのだろう。

「もう、戦う力はない」

 十字架が厳樹へと向けられた。

 たった一振りで、厳樹は絶命することだろう。

「でも、貴方まで殺すのはバランスとしてどうかと思うんだよね」


「だって……()()()()()()()()()()()()()()()()


 助広は笑う。嗤った。

 生天目厳樹では天秤を傾けるに足らないと。

 彼の尽力など、《ファージ》との戦いに一切の影響がないと。

 お前には――復讐など為し得ないのだと

「だから見逃してあげるよ。別に、人間が憎くて戦っているわけじゃないんだからね」

 助広は十字架を下ろす。

 彼にとって大事なのはバランス。

 そこに影響を及ぼさない厳樹は、殺す必要がない相手なのだ。

 そんな事実が――

「ふざけるなよ……神楽坂」

 ――不愉快だ。

 絞り出すように、厳樹は怨嗟の言葉を吐いた。

「そうか――」

 助広はため息を吐いた。

 そして――十字架を振り上げる。


「なら。さよならしかないね」


 マザー・マリアはスペックだけなら本作最強格なので、助広と戦わなければ本当に世界を滅ぼしていた可能性があったりします。

 多分、作中で他に勝てるキャラが女神しかいないです。


 それでは次回は『戦う覚悟』です。



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