7章 9話 突然の来訪
すいません。投稿忘れてました。
なので今日は2話更新します。
「あれ? もうお出かけは終わったんですか?」
箱庭に戻った天たちを出迎えたのは莉子だった。
莉子。
以前、《ファージ》に喰らわれたことで世界の記録から消えてしまった少女。
身寄りのない彼女は、箱庭のスタッフとしてここで生活していた。
「今日はお二人とも、終日まで外出申請をしてたんじゃ……」
「? なんで知ってるんだ?」
外出申請にはある程度の時間指定をすることができる。
午前。午後。一日中。
そうやって時間を決めておくことで、箱庭にALICEが一人も待機していないという事態を防ぐのだ。
しかし誰が何時まで外出の申請をしているのかは、本人に聞かない限り分からないようになっているはずなのだが――
「ああ……えっと」
わずかに言いよどむ莉子。
「実は……神楽坂さんの部屋を掃除していたら机に申請書が置いてあって……」
どうやら助広の部屋で見たらしい。
神楽坂助広。
彼は箱庭においてアイドル部門を担当しているオッサンだ。
莉子の仕事にはスタッフの部屋の掃除も含まれているらしい。
以前に彼の部屋を訪れた時、確かに散らかっていた記憶がある。
「莉子は他のスタッフの部屋に入ったことがあるのか?」
天は尋ねる。
彼女はALICEのメンバーはともかく、スタッフの部屋までは把握していない。
もしかすると莉子ならば天の知らない情報も持っているかもしれない。
「……はい。私にできる仕事はそれくらいだから……」
莉子はまだ子供だ。
難しい書類や、力仕事を任せるわけにはいかないのだろう。
結果として、掃除などの職場環境を整える仕事を振られているといったところか。
それが今回は好都合だった。
「なあ莉子」
「はい?」
「スタッフの部屋で妙なものを見なかったか?」
莉子なら天以上にスタッフについて詳しいはず。
情報を集めるにはうってつけの人材だった。
「ほら……なんか怪しげな金庫とか。いや……逆に、頑なに部屋に入れたがらないとか」
マリアの素体を隠しているであろう場所。
あるいは、露見を恐れて他人を入れることを拒む人間。
それが分かれば、素体探しも前進するかもしれない。
《象牙色の悪魔》の演算精度を上げるためにも、些細な情報も欲しい。
「怪しい金庫は…………あ」
何かを思い出したかのような声を漏らす莉子。
「どうしたんだ?」
天は食い気味に問いかけた。
もしかすると、思ったよりも早く目的が達成できるかもしれない。
そんな期待が膨らむ。
「怪しい部屋はなかったけど……妃さんと生天目さん……あ、社長の部屋には入れてもらえなかった……です」
妃氷雨。生天目厳樹。
箱庭の幹部とトップ。
ズボラな助広はともかく、二人の場合は単純に機密書類を見せないためという可能性もある。
しかし気に留めておいて損はないだろう。
「他にはちょっと……思いつかない……です」
「そうか。ありがとな」
「あ……」
「今度はどうしたんだ?」
「神楽坂さんが『クローゼットだけは開けないでくれ』って……」
「……ぁあ」
天は苦い顔をする。
助広のクローゼットには心当たりがあった。
「莉子」
「はい?」
「開けなかったよな?」
「はい。ダメって言われていましたし」
「ああ……。それで良いんだ」
――男の野獣な部分を、彼女に知らせるわけにはいかない。
もうちょっと大人になってからでも良いだろう。
無垢な少女の心が汚れなかったことに安堵する天であった。
「――――ん?」
そんな時、再びゲートが開く音がした。
つまり、この箱庭を誰かが訪れたということだ。
「……誰か外出していたのかしら?」
「いえ。そんなことは――」
蓮華の疑問に莉子が答える。
――ALICEのメンバーのうち、外出していたのは天たちだけ。
スタッフに外出予定があったのなら莉子が把握しているだろう。
この場にいる誰も知らないということは、来訪者は箱庭の外部の人間ということだろうか。
「VIPか?」
ゲートから入ってきたのは高級車だ。
重要な取引先の社長か。はたまた――
車が止まる。
すると後部座席から二人の男性が現れた。
「あれは――」
天は彼らに見覚えがあった。
1人は、見ているだけで気圧されそうなほどの威圧感を放つ男性――生天目厳樹。
もう1人は、いかにも資産家といった雰囲気の老人――財前貴麿。
厳樹は箱庭のトップ。
貴麿は箱庭に多くの資金を援助している筆頭株主。
ある意味、ここを訪れることは不自然ではないだろう。
だが――タイミングが良すぎる。
偶然か必然か。
今日、箱庭には関係者の多くが集まっているということになる。
天たちは女神の素体を見つけなければならない。
そのためには、素体を隠している人物の特定が必須。
であれば関係者が揃った現状は幸運か。
あるいは、天たちの行動を縛る枷となるのか。
それはまだ――分からなかった。
次回で裏切り者の正体が判明します。
それでは次回は『そして悪魔は真実に至る』です。