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7章  7話 救世は悪魔の手に

「つまり箱庭に、マリアに干渉されたくないって考えてる奴がいるってことか?」

「そうだね☆」

 マリアは軽くそう答えた。

「偶然ってことはないのか? それが、マリアの素体だなんて知らないってことは」

 そもそも現代において、神の存在なんて知らない人間のほうが多いだろう。

 超自然的な力を扱うALICEでさえ、神の実在を信じているわけではない。

 にもかかわらずマリアの存在を認識し、それを封じる手立てを用意する。

 もはや奇跡と呼ぶべき確率だろう。

 マリアの素体だから封じた。

 何らかの意図で封じたものが偶然マリアの素体であった。

 どちらのほうが現実的だろうか。

 必然ではなく偶然。

 故意ではなく無自覚。

 そう考えるほうが自然に思えた。

「天ちゃん。よく分からないものは封印なんてできないよ。まして女神の素体だもん。ただ拘束してるだけとかじゃなくて、人間としての形を保ってるかさえ分からないくらいだよ?」

 マリアはそう告げた。

 仮にも自分の肉体のはずなのに他人事だ。

 ともあれ、彼女の言う『封印』とは天が思っている以上に大掛かりなものらしい。

「逆に言えば、それくらい変質させられていなかったら自力でどうにかできたんだけどね☆」

「……人間の形をしていないって……どうやって探せばいいんだよ。形も分からないんだろ?」

 たった一人の人間をノーヒントで探すだけでも難しいというのに。

 姿形さえ分からないとなれば手のつけようがない。

「うん。だから天ちゃんを呼んだんだよ☆」

 笑うマリア。

 天は彼女の言葉で理解した。

 マリアが天をここへと呼びこんだ理由を。

「――《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》か」

 それは天が生前から有していた能力。

 未来をも看破するほどの演算能力。

 天が『解』を指定することで、そこに至るための『公式』を組み立てる能力だ。

 もしも解を『マリアの素体の居場所』としたのなら、天の悪魔は彼女が知っている情報から素体の在処を推測してくれるのだろう。

「ご名答☆」

 マリアがノリ良くそう言った。

 どうやら天の答えが満足のいくものだったらしい。

「天ちゃんの能力でアタシの素体の場所を予測してほしいんだよ。封印は……直接見れば解けると思うし」

「じゃあ、素体を探して、またここに持ってくればいいんだな?」

 マリアが天に求めているのは、マリアが自由に動けるための土壌作り。

 素体を見つけることで、マリアが直接世界を救えるようにすることだ。

 だからこそ素体をマリアの下へ連れてゆく必要がある。

 そう思っていたのだが――

「持ってこなくていいよ。月読ちゃんとなら視覚を共有できるから☆」

 マリアはそう語る。

 月読は使徒のような立ち位置だという。

 メッセージを送れるというのは先程聞いたのだが、感覚の共有も可能らしい。

「……てことはまさか」

 そこまで考え、天はある事実に気が付いた。

 マリアは月読を通して素体を見つけようとしている。

 そしてマリア曰く、素体は箱庭にあるという。

 それが意味するのは――


「天さん。わたくしを再び連れて行ってくださいますか?」


 月読が一歩踏み出した。

 そして彼女は天を見つめる。

 彼女の瞳には強い覚悟が宿っていた。

「――箱庭へと」



「はい。かしこまりました」

 妃氷雨は執務室で電話を受けていた。

 ――相手は生天目厳樹。

 この箱庭のトップにして、箱庭の創設者だ。

 そして、復讐にすべてを捧げた男である。

「――お待ちしております」

 事務的な通話が終わり、部屋に静寂が訪れた。

 すると氷雨は立ち上がる。

 ――彼女が向かったのは金庫の扉だ。

 壁に埋め込まれるようにして設置された金属扉。

 これを見れば、ほとんどの人間が金庫だと認識することだろう。

「――――――」

 ディスプレイに手をかざし、掌紋を照合させる。

 そして特定のコードを打ち込むと、扉の鍵が開く音がした。

 開かれる金属扉。

 その先には――部屋があった。

 ただの部屋ではない。

 あの部屋は――エレベーターだ。

 内部の人間にさえ秘匿された、地下へと続くエレベーターだ。

 氷雨が踏み込むと、エレベーターは自動で降下を始める。

 しばらく降りると、再びエレベーターの扉が開く。

「……何度見ても慣れないな」

 氷雨の眼前に広がるのは大広間。

 地下とは思えない広大な空間。

 その中央には肉体が鎮座していた。

 歪なキメラのような肉塊。

 腕、目、あらゆるものの数や配置がでたらめな生物。

 それは氷雨の記憶において、もっとも不気味で醜悪な化物であった。

 そんな化物は今、大量の鎖と鉄杭で拘束されていた。

 化物は眠ったまま覚醒の気配はない。

 それでも、化物は厳重に縛られていた。

「良かったな」

 氷雨はサーベルに手をかけ――抜いた。

 閃光のような抜刀。

 それは肉塊を戒めていた鎖を――断ち切った。


「――――ようやく出番だ」


 天たちは一旦、箱庭へと戻ります。


 それでは次回は『帰還、そして潜入』です。



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