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6章 エピローグ2 たとえ何を差し出したとしても

「所見を聞かせろ。氷雨」

「はい」

 箱庭のトップである生天目厳樹の部屋。

 そこで氷雨は厳樹に報告をしていた。

 内容は無論、《ファージ》の王についてだ。

「今のALICEで勝ち目はあると思うか」

「おそらく……それなりの準備期間が必要かと」

 氷雨の見立てでは、現在の戦力での勝利は難しいというものだった。

 今回で敵の能力は分かった。

 それを活かし、万全の対策をするのはもちろん。

 ALICEの総合的な戦闘力が足りていない。

 あの王を討つには至っていないのだ。


「もしもお前を、現世代のALICEに作り直せば勝てるか?」


 そう厳樹は言った。

 妃氷雨はプロトタイプのALICEだ。

 当然ながら、現世代のALICEに比べてスペックで劣っている。

 だが現世代のALICEに組み込まれた力を氷雨にも施せば。

 きっと氷雨の戦闘力は飛躍的に向上することだろう。

「…………断言はできませんが、充分な勝率が見込めると考えます」

 前回の戦闘において氷雨に足りていなかったのは決定力。

 それを補えたのなら、勝機はあるはずだ。

「お前の再ALICE化について神楽坂はどう言っていた」

「――意味のある自殺行為に終わるだろう、と」

 同時に、それはリスクの高い選択だった。

 氷雨の体は機械ではないのだ。

 パーツを変えればいいという話ではない。

 一度大きく手を加えられた身だ。

 そこからさらに違う技術を取り入れる。

 そうなれば彼女の肉体に不具合が起きるのは必然で――

「勝てたとして、お前の体は壊れるというわけか。それを聞いてなお、ALICEのアップグレード処置を受けられるのか?」

「……もし、望まれるのであれば」

 氷雨はそう答えた。

 それは偽らざる本音。

 もしも厳樹が望むのであれば。

 自らを壊してでも、敵を討つという覚悟が氷雨にはあった。

「そうか」

 厳樹は頷き、氷雨に背を向けた。

「場合によっては、アレの解放も考えねばならないかもしれないな」

 彼はそう口にした。

 アレ。

 おそらく、地下に眠る《ファージ》のことだろう。

 上級を越えた――特級とでも呼ぶべき《ファージ》のことだろう。

「確かにマザー・マリアは、理論値としてクルーエルを越える戦闘力を有しています。しかし実際に戦わせるとなると、結果を断言することはできません」

 マザー・マリアは元より地下に眠っていたのだ。

 調査によると、最低でも1万年は前から地下に存在していたようだった。

 そんな化物の存在に偶然気付いたからこそ、箱庭はここに建てられたのだ。

 マザー・マリアの封印のため。

 マザー・マリアの研究のため。

 マザー・マリアを……切り札として使用するため。

「それに制御の問題もある、か」

「はい」

 だが、規格外の化物だ。

 あれを制御できるかは、試すまで分からない。

 そして制御に失敗したのなら、世界は破滅するだろう。

「あの化物に、まともな理性は期待できそうにありませんので」

「だが、必要となれば躊躇うつもりはない」

 厳樹は断言する。

 実際、彼は躊躇わないだろう。

「守りたいものは壊れた。この世界にあるのは……どうなっても構わないものと、壊してしまいたいものだけだ」

 ――世界ごとであっても、《ファージ》を殺せたのならそれでいい。

 それが厳樹の願いだから。

「私は人間や世界を守りたいのではない。《ファージ》を殺したいのだ」

 人間が救われるのは結果論。

 あくまで、厳樹にとってこれは復讐なのだ。

 それしかないのなら、共倒れになっても構わない。

「暴発するかもしれない銃だとしても。必要なら、そのトリガーは私が引こう」


 ――幕を引くのが、己の手であるのなら。


 それこそが、生天目厳樹という男なのだ。


第一世代のALICEと現世代のALICEはまったく別物であり、ちょっとの手を加えたらアップデートされるわけではありません。

むしろ、すでに別の改造を施しているからこそ負担は大きくなってしまいます。


それでは次回は「月夜の誘い」です。

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