6章 エピローグ1 夜明け
「あらあら」
少女――月読は意外そうに言った。
現在、彼女の前には異空間が開いている。
そこから見えるのは天たちだ。
彼女たちが、《ファージ》の王と対峙する姿。
そして、ギリギリながらも生き延びた光景だった。
「てっきり、みなさま亡くなられるかと思っていたんですが」
月読は微笑む。
優雅に紅茶でも飲んでいそうな呑気さで。
「それとも――」
月読の口の端が吊り上がった。
そして彼女は首だけで振り返る。
「貴女には予想通りだったんですか?」
月読と同じ空間にいる女性に問う。
「……ねぇ。マリア様?」
「ほへ?」
シャボンの浮かぶ無限の草原で、少女――マリアは首をかしげていた。
「ぅ、うんっ。そうだよ☆」
「信頼なりませんね……」
月読はマリア――女神の言葉に嘆息する。
最果ての楽園。
女神マリアのためだけにある世界で、二人は語らっていた。
「それじゃあ月読ちゃん」
「なんですかマリア様」
「――お願い」
マリアはそう言った。
普段の幼げな言動とは違い、真剣な声音で。
「ええ。分かっています」
だから自然と、月読からも飄々とした態度が消えてゆく。
「世界はちゃんと。わたくしが救いますから」
月読は立ち上がった。
そして、虚空をノックする。
すると世界が裂け、元の世界が見えてきた。
あれを通り抜ければ、月読が住む世界へと行ける。
月読は踏み出してゆく。
救うべき世界へと。
世界を救うという役割を果たすために。
「月読ちゃん」
そんな彼女をマリアは呼び止める。
マリアは小さく微笑むと。
「一人で戦わなくていいんだからね?」
「君は――神様じゃないんだから」
そうマリアは言った。
それを聞いて、月読は微笑む。
「だからマリア様は一人で戦うんですね。貴女は神様だから」
「適材適所だよぉ☆」
マリアは背を向けた。
彼女の表情は――見えない。
きっと、見せる気はないのだろう。
彼女は女神として、数えきれない世界を救ってきたのだから。
ずっと、一人で戦ってきたのだから。
月読が背負っている重荷など、飽きるほど背負ってきたのだから。
「適材適所。確かにそうですね」
月読はマリアに背を向けた。
救うべき世界と向き合った。
「わたくしは、物語を綴るような神様にはなれない」
――でも、
「それでも、ページをめくる助手くらいにはなれますから」
月読は、そのまま元の世界へと踏み出した。
☆
一人になった世界。
そこでマリアは宙を見つめていた。
何を見るでもなく、呆けたように。
そして笑った。
「おいでよ天ちゃん」
マリアはそう呟いた。
すでにメッセンジャーは送ってある。
あとは待つだけだ。
「教えていなかったこと、今度は教えてあげられるから」
本当の意味で、今度こそ託せる。
世界の命運を。
「だから、天ちゃんにも教えてほしいんだよ」
まだ、あの世界の破滅は避けられていない。
避けるための突破口も見えていない。
もしもあるとするのなら――天宮天という少女。
彼女の頭脳に潜んでいる悪魔だけだ。
「解き明かしてよ」
「この世界を救うための公式を」
神にさえ見いだせない、救済の道を。
天ならば見つけ出せる。
そう、信じているから。
エピローグが終わると、ついに7章「悪魔は真実に至る」が始まります。
5章で示された裏切り者の正体を明らかにする章となっております。
7~8章は、完結章となる9章に向けで戦いの構図が大きく変わる話となっていきます。
それでは次回は「たとえ何を差し出したとしても」です。