表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/234

6章 13話 影の王

「ッ……!」

 天の頭上を影が覆った。

 彼女の視線が上がる。

 そこには、影の太刀を振り上げたクルーエルがいた。

「っく……!」

 サイドステップで斬撃を躱す天。

 しかし、大剣の鍔が削り落とされた。

 もしも回避が遅れていたら、右手の指ごと削がれていたことだろう。

 だがまだ安心はできない。

 クルーエルはすでに横薙ぎに太刀を振るっているのだから。

「《悪魔の四肢》」

 この瞬間、天は未来を読むことを放棄した。

 未来を知ることよりも、高い身体能力を。

 脚に光の血管が浮き上がる。

 すると天は10メートル以上のバク宙でクルーエルから距離をとる。

「すばしっこいな」

 クルーエルが腕を振るう。

 すると太刀がうねり、ムチのように伸びた。

「っと」

 天は転がるようにして影のムチを躱す。

(やっぱりリーチが長いな)

 影のムチが伸びる距離は10メートルを軽く超えている。

 近距離。中距離。

 そこに隙はない。

 あるいは――

「――――」

 クルーエルが天を指さした。

「がッ……!?」

 直後、天の太腿に激痛が走った。

 クルーエルの指先から影が射出されたのだ。

 爪ほどの大きさしかないそれは、一瞬にして天の太腿を貫いていた。

 射出速度が速かったからだけではない。

 夜という視界の悪さ。影の弾丸のサイズ。

 それらの要因が重なって、天は攻撃を見逃してしまったのだ。

「やべッ……!」

 だがまだ終わらない。

 依然として、クルーエルの指先は天を狙っているのだから。

「ぃぐ……!」

 天が回避のために立ち上がろうとしたとき――太腿の傷口が血を噴いた。

 脚から力が抜け、その場で彼女は倒れてしまう。

 一手の遅れ。

 だが、死へとつながる遅れだった。

「させませんわッ!」

 アンジェリカの声が響いた。

 彼女は一気にクルーエルへと距離を詰め――彼女の手に踵落としを叩き込んだ。

 衝撃でクルーエルの腕が下がり、射出された影は床に穴を開けた。

「決死の覚悟か」

 しかし、同時にアンジェリカは近づきすぎてしまった。

 しかも着地した直後のせいですぐには回避行動に移れない。

「赦す。あやつの命と交換だな?」

 アンジェリカへとクルーエルの影が向けられる。

「《石色の鮫(ストーン・シャーク)》」

 影が彼女を穿つ直前、アンジェリカのいた足場が一気に隆起した。

 影はただ盛り上がった地面を貫く。

「ナイスフォローだったな」

「こちらこそ助かりましたわ」

 アンジェリカは美裂の隣に着地する。

(でも状況は微妙か……)

 天は自分の足を見下ろした。

 すでに彩芽からの治療は受けているが、少し違和感が残っている。

 最高のパフォーマンスを発揮できる時間は長くない。

「仕方ない――やるか」

 一瞬で勝負をつける。



「っ」

 蓮華はバックステップで攻撃を躱す。

 だが回避で終わらせない。

 蓮華は指先から雷撃を放つ。

 しかしクルーエルは首を曲げるだけでそれを避けた。

(強い光で消えるってわけじゃないのね)

 影、と表現しているものの、実際のところ影とは性質が違うのだろう。

 ――蓮華の雷撃はそこまで精密に操作できるわけではない。

 直線に撃つか、できても一度曲がる程度。

 それくらいの操作性ではクルーエルの影の隙間を狙うような芸当は難しい。

 とはいえ拡散して放ったとして、それではダメージはほとんど与えられないだろう。

(ならアタシの役目は――あいつの影を広げさせること)

 上と左右。

 3方向に雷撃を撃つ。

 それらは途中で軌道を変え、クルーエルを囲むようにして殺到した。

「ふむ」

 クルーエルは3方向へと影を展開し、すべての雷を防ぐ。

(できた――)

 蓮華は見つける。

 クルーエルが纏う影がわずかに減り、攻撃可能な場所が増えたことを。

(一気に近づいて攻撃。アタシなら、反撃の前に距離をとれるはず)

 雷速で一撃。そのまま離脱。

 最悪、腕の一本は捨てる覚悟であれば可能なはずだ。

「《紫色の(パープル)――》」

 蓮華が加速しよう前傾姿勢を取ったとき――足首に痛みが走った。

「きゃっ」

 踏ん張れずに蓮華はその場で転ぶ。

「う……そ」

 自分の体に起きた事態を把握しようとして、蓮華は青ざめる。

 足首――ちょうどアキレス腱のあるあたりが食い千切られたように消滅していたのだ。

(地面を掘り進んで影を伸ばしていたってわけね)

 こうして戦いながらも、クルーエルは死角から影を伸ばしていたのだ。

「……まずいわね」

 クルーエルは伸ばしていた影を戻しつつある。

 せっかくの活路が消えてゆく。

 対して蓮華は動けない。

 時間がゆっくりと進むような錯覚が身を包んだ時――


「――――《悪魔の心臓》」


 声が聞こえた。

 声は客席から。

 大きな声ではないが、間違えるわけがない。

 蓮華にとって、もっとも大事な人の声だから。

「――行くぜ」

 少女――天は大剣を構えてそう言った。

 身体強化と未来演算を同時併用した、最強の技を携えて。


 天の最強の技はクルーエルに通じるのか。


 それでは次回は『悪魔と王』です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ