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6章  7話 クリスマスと絶対遵守のティアラ

「この人数ならイケるだろ」

 そう言って美裂が取り出したのは――割り箸だった。

 何の変哲もない割り箸。

 しかしその先端には数字が書かれていた。

「こうなりゃ、やるしかないだろ。――王様ゲーム」

 彼女が提案したのはパーティではお馴染みの遊びだった。



 全員で数字を隠した状態の割り箸を引く。

 そして王様の箸を引いた人間が王様となり、命令を下す。

 その際、相手を名前で指定するのではなく数字で指定する。

 これにより、誰が命令を実行するのかは王様自身にも分からない。

 ――そして、王様の命令は絶対。

 多少のローカルルールはあれど、王様ゲームの概要はそんなところだろう。

「わたくしが王様ですわね」

 王様ゲームの第一回目。

 王を引き当てたのはアンジェリカだった。

「そうですわね……」

 アンジェリカが思案する。

 彼女が出す命令となるとおそらく――

「それでは2番は、4番を乗せて腕立て伏せ20回ですわ」

 ――肉体系だ。



「大丈夫ですか?」

 頭上から彩芽の声が聞こえてくる。

「まあ……ギリギリ」

「……そんなに重かったんですか……?」

 天の返事に、彩芽はわずかに傷ついたような様子を見せた。

 とはいえ、天にその余裕はない。

 なぜなら――

(お尻が……柔らかい)

 今、彩芽が腰かけているのは天の背中だからだ。

 アイドルである前にALICE。

 《ファージ》と戦っているのだ、一人分の体重など問題にならない。

 しかし、伝わってくる柔らかな感触が毒だった。

 程よく肉がついているため、彩芽の臀部が生み出す感触は悩ましい刺激を与えてくる。

「ああ大丈夫だ。に、20回なんてすぐ終わる。そうだ、頑張ればすぐ終わる」

 天はそう自分に言い聞かせた。

 彩芽は大切な仲間だ。

 しかし、特別な女性は蓮華だけと決めている。

 なら他の少女の体などどうとも思わなくて当然。

 そう言い聞かせた。

「………………決死の覚悟を決めるくらい重かったんですか……?」

 しかし天は気付いていなかった。

 自分の覚悟の裏で、涙を流した女性がいたことを。



「じゃあ次はアタシだな」

 美裂が笑う。

 王様ゲームの醍醐味といえば命令権。

 言い出しっぺである彼女が王様になったのだ、ある意味でその反応は当然と言える。

「女同士だからな、ちょっとくらい攻めてもイケるだろ」

 王様ゲームとは男女混合の場でも行われることがあり、そのため異性同士で過剰にも思えるスキンシップを強いられることもある。

 それに対し命令を抑えた内容にするかは各自の判断にゆだねられるのだが、どうやら女ばかりということで美裂はそれほど自重する気がないらしい。

「じゃ、1番は5番のおっぱいを揉みしだくってことで」



「揉み……しだく」

 1番――天は悶々としていた。

 そして同時に、悩んでいた。

 揉む。揉みしだく。

「………………どうやって?」

「これ……ぶっ飛ばしてもいいのかしら」

 首をかしげる天に、5番――蓮華は頬をひくつかせる。

 そんな二人を見て、美裂が冷や汗を流していた。

「やべぇ。揉める胸がなかった場合を想定してなかった……」

「二人ともほんと殴るわよッ!?」

 蓮華が激情とともに叫んだ。

 ――瑠璃宮蓮華の胸はかなり控えめなサイズだ。

 少なくとも、揉みしだくという表現が不適切な程度には。

「仕方ねぇ。命令の条件を緩めるしかないか……天、つまむんだ!」

「人の胸を馬鹿にしすぎじゃないかしら!?」

 蓮華の猛抗議も、王の権威の前では無駄だった。

 というより、若干ながら天も乗り気だった。

「め、命令だから仕方ないよなー……」

 相手は他ならぬ蓮華だ。

 恋人が相手となれば、恥ずかしさよりも男の子な面が出てしまうわけで。

「王様。つまむって具体的にはドコを……?」

「まあ……あそこじゃねぇの?」

「そうか……えいっ」

「ひゃぁぁぁっ!?」

 蓮華が悲鳴をあげた。

 彼女の体が跳ねあがる。

 服越しだったが、どうやらクリティカルヒットだったらしい。

「ぉぉ。貧乳は感度が良いっていうのは都市伝説じゃなかったのか……」

「ぃ、良いから……! もぅ、命令は達成した、わよねッ……!」

 蓮華は切羽詰まった様子でそう美裂を問い詰める。

 もっとも、彼女の言葉には驚くほど圧がこもっていなかったのだが。

「じゃあ……めぇーいーれぇーいーたぁーっせぇぇぇ――」

「わざとゆっくり言うなぁ!」

 追い詰められ、口調さえ崩れかけた蓮華だった。



「にゃ、にゃ~ん」

 蓮華の鳴き声が響いた。

 彼女は現在、猫耳だった。

 どうやら以前に撮影で使った小物だったらしく、莉子が倉庫にあることを覚えていたのだ。

 ――ちなみに、猫のモノマネは莉子の命令だった。

 そのオーダーの標的となった蓮華は今、床に四つん這いになって猫撫で声を出している。

(か……可愛い)

 天は心臓を掴まれたかのような錯覚に陥る。

 それほどに蓮華の姿は衝撃的だった。

「なんというか――さっきので濡れてることもあってフェロモンが出てるな」

「濡れッ……て……濡れてないわよ!?」

 美裂の言葉を前に、蓮華は慌てて抗議する。

 しかし、蓮華の表情には隠し切れない動揺が広がっていた。

「……蓮華。ズボンに染みる前に下着だけでも替えてくるか?」

「そこまでは濡れてないわよ!」

 ――冷静さを失うと、人は墓穴を掘ってしまうらしい。


 ドキッ。女だらけの王様ゲームでした。


 それでは次回は『年末ライブ』です。



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