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6章  2話 女帝の部屋

「……これ、本当に大丈夫か?」

 箱庭にて。

 天は廊下の角からとある部屋の扉を覗いていた。

 あの部屋の主は、箱庭でも実質のトップといえる女性だ。

 妃氷雨。

 彼女は指揮官としてALICEを支援してくれている。

 しかし一方で、彼女の私生活は謎に包まれていた。

「でも気になるだろ?」

 渋る天をそう焚きつけるのは美裂だ。

 彼女はニヤりと笑いかけてくる。

「もうすぐ30になる独身の女。仕事に身を捧げ、男の気配はない。これは――」

 彼女は一拍溜める。

 そして真剣な声音で――


「エログッズの臭いがする」


「……とてつもなく汚ぇ臭いを察知したな」

 天は嘆息した。

「職場暮らしで、ストレスの多い日々。でも何か趣味に興じているわけでもない」


「これは……いたしてるだろ」


「………………」

 ある意味、こんな話をできるのは美裂だからだろう。

 異性というよりも悪友に近い彼女。

 だからこういう――ディープな話題も挙げられる。

「でもぶっちゃけ……気になるだろ?」

「…………んぬぅ」

 気には……なる。

 天はかつて男だったのだ。

 女性のそういう話に興味がない……はずがない。

「は……はぁ? そういう下世話なのはちょっと俺的に――」

「なぁにカマトトぶってんだよ」

「ぬひぁっ!?」

 尻を掴まれた。

 しかもスカートの下から。

 下着のおかげで直接は免れたが、それでもあんな薄い布くらいで大して感覚が変わるわけでもない。

「ん~~~~~~~~~~~~~~~!」

 天は後ろ手にスカートを押さえた。

 そして抗議の目を美裂に注ぐ。

 ――よく考えてみると、そもそも私服がナチュラルにスカートになっていることをいまさら自覚した。

 最近、細かな仕草が少女化し始めている気がする。

「それじゃあ、行くか」

 そう言って、美裂は扉に向けて歩き出す。

 そして取り残される形となった天は――

「別に興味ないけどなー。でも、付き合い悪いと思われたくないしなー。仕方ないからついてきてもいいけど」

 言い訳を並べながら追従するのであった。

 しかし緊張のせいで彼女の歩みはぎこちなかった。

 そんな彼女をよそに、美裂は懐から針金を取り出していた。

「こんなの楽勝だな」

 ――箱庭には近未来を思わせる設備がある。

 それこそ訓練室なんかが一例だ。

 しかし氷雨の部屋は一般的な造りをしている。

 カードでもなければ、暗証番号も必要ない。

 普通に鍵で閉じられているだけの扉だ。

 美裂は鍵穴へと針金を挿入する。

 ガチャガチャという音が鳴る。

 その手の知識がない天には分からないが、美裂は迷うことなく針金を動かしてゆく。

 そして――鍵が開く音がした。

 ここを開けば、その先の光景は箱庭最大級のブラックボックスだ。

「それじゃあ行くか」

「――行くか」

 天は思わず生唾を呑み――


「そうか。なら二人で逝くといい」


「ごふッ……!?」

 ――むせた。

 第三者の声が聞こえてきたからだ。

 ――といえば語弊がある。

 聞こえてきた声が……今一番聞こえてはいけない声だったからだ。

「なあ……今、俺たち二人しかいないよな?」

 天の口から漏れた声は震えていた。

 一方で、美裂はどこか諦めた様子で瞑目していた。

「誰かがコックリさんでもやってない限りはな」

「むしろポックリ殺られそうなんだけど」

 その時、二人は顔面から扉に叩きつけられた。

「「っぐッ!?」」

 おそらくこれは蹴りだ。

 ほとんど同時だと勘違いしてしまいそうなほど高速の蹴りを背中に叩き込まれたのだ。

「ちょ……アイドルの顔はダメだろ」

 鼻を押さえながら天は抗議の目を向ける


「何がだ?」


「……ごめんなしゃい」

 天は鬼神の視線によって封殺された。

 そう。そこに立っていたのは鬼だった。

 スーツに身を包んだ怜悧な瞳の女性。

 気配だけで相手を切り裂けそうなほどに鋭い雰囲気。

「まあいい。他人の性生活に追究したことは不問にしておいてやる」

 彼女――妃氷雨は息を吐く。

 彼女は腕を組み、天たちを見下ろす。

「そして二つ目の罪についてだが――私の私室には、お前たちにも見せられない書類があるのだが――」

 氷雨はこの事務所における重要人物だ。

 当然、持っている情報の重要性も高いだろう。


「つまり――死刑だな」


「一つ目の罪を不問にした意味ッ……!」

 天はその場で頭を抱えた。

「まあいい。では教えてやるとしようか」

 氷雨は天と美裂の肩に手を乗せる。

 

「30間近で、男っ気のない女の――いけない趣味とやらを」


 そして、耳元でささやいた。

 なんでだろうか。

 甘い声のはずなのに――怖い。

「ちなみにそれは……」

 天は怯えながらも尋ねる。

 尋ねてしまう。

 すると氷雨は――笑った。

 ――それはな、


「――部下いびりだ」


「……………………………………ひゃい」

(…………ちょっと漏れたかも)

 《ファージ》よりも恐ろしい存在は、箱庭の中にいた。


 氷雨の部屋には何があったのか。

 それは謎のままです。


 それでは次回は『華麗な華には筋がある』です。



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