5章 エピローグ2 無月
「失敗、してしまいました」
とある廃墟に月読はいた。
時間は真夜中。
本来なら、彼女のような少女が出歩くには危険な時間帯だ。
しかしもう、彼女に帰る場所はない。
以前までは橋の下にテントを設置して暮らしていたが、あそこは天に場所を知られている。
もう戻るわけにはいかないだろう。
「さすがに一筋縄ではいきませんね」
もしかするとここは学校。あるいは塾だったのだろうか。
そんなことを思いながら、月読は大量に置かれていた机のうちの一つに腰掛けた。
大きなため息が漏れる。
「……本当に、疲れました」
思っていた以上に消耗していたのだろう。
気が付くと、月読は机に寝転がっていた。
何の準備もしていないが、このまま眠ってしまいそうだ。
すでに12月に近づきつつあるこの時期にこれでは風邪を引くどころではないかもしれないが起き上がれそうにない。
「――見つからなかった」
絶好のタイミングで行った箱庭への侵入。
時間があまり確保できなかったということもある。
しかし、目的のものを見つけることはできなかった。
「いえ……想像はできていましたことでしょう」
――まだ、焦る必要はありません。
そう言い聞かせる。
失敗は予想できていたことだ。
月読が探しているものの重要性を思えば、巧妙に隠されていて当然。
なんのアテもなく見つけること自体が無茶なくらいだ。
一度目の侵入で見つけることは不可能に近い。
頭ではそう分かっているのに、気が急いてしまうのだ。
月読は微笑む。
余裕を演じて。
妖しく、底知れない自分を演じる。
――だけど、その笑みもすぐに消えてしまった。
「早く……見つけないと」
なんとなく分かる。
自分の心が、どんどん追い詰められていることが。
それでも、仕方がないのだ。
これは月読の使命。
もしそれを果たせないとなれば――
「早く見つけないと――世界が滅んでしまう」
この世界が――終わってしまうのだから。
ALICE。
そして――箱庭。
そこに眠る秘密。
取り扱いを間違えてしまえば、それは世界を滅ぼすトリガーとなる。
都市が滅ぶ。
多くの人が死ぬ。
そんな小さな話ではない。
何の比喩でもなく、世界そのものが滅んでしまうのだ。
「わたくしは……絶対に諦めるわけにはいかない」
なにせ月読は月だ。
世界が暗闇に覆われても、最後の一人になっても輝けと太陽に命じられた月なのだから。
かつての仲間を裏切ってでも、世界を救わねばならない。
今回は短かったので、もう一話投稿します。
それでは次回は『月夜の下で二人』です。