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5章  4話 箱庭の外で二人with蓮華3

 激闘の後、天たちは近くのファミレスに立ち寄っていた。

 のだが――

「それで足りるのか?」

 天は卓上にある皿を見てそう言った。

 蓮華が注文したのはシーザーサラダのみであった。

 女性となったことで胃が小さくなった天だが、そんな彼女でもあの数倍は食べている。

「ダイエットでもしてるのか?」

 ゆえに過度な食事制限を予想したのだが――

「してないわよ」

 どうやらあれが普段通りらしい。

 蓮華は小食なのだろう。

 小柄であることを差し引いても少なすぎる気がするが。

「……ふぅん」

 食べる量も人それぞれということか。

 そう結論付け、天はフォークでパスタを巻き上げた。

 だからだろう。

 天は気付いていなかった。

 

 時折、蓮華が口元を押さえたまま沈黙していることに。



「もう帰るわ」

 食事を終えた後、蓮華はそう切り出した。

「まだ昼だぞ?」

 門限にはまだ時間がある。

 ゆえに天はそう問いかけた。

「何か予定があるのかしら?」

「いや……別にないけど」

 蓮華と親交を深めるための外出。

 しかし、それほど細かいプランがあったわけではない。

 適当に街を歩いてみようくらいにしか考えていなかった。

 つまり、予定はない。

「なら、アタシは帰るわ」

「そっか……」

 案外、蓮華にも用事があったのかもしれない。

 天の提案のため、都合をつけたのだろうか。

 そう思い、深くは追及しなかった。

「それじゃあ帰るか」

「別にアンタは帰らなくてもいいのよ?」

「いや……さっきので結構疲れたし、今日はもう良いかなって思ったんだよ」

 一人で街を出歩いても仕方がない。

 そう思い、事務所に戻ることを決めた天だった。

「勝手にしなさい」

 一方で、蓮華に天を待つ気はないらしく、一人で歩き始めてしまった。

 置いていかれかけた天は蓮華を追う。

「ちょっと待――」

 天が蓮華に追いつきかけたその時、蓮華が立ち止まった。

 勢い余って天は蓮華の背中にぶつかる。

「何を――」

「道を間違えたわ」

 蓮華は道を引き返し始めた。

 だが――

「いや。間違ってないと思うけど。ここからまっすぐ行けば事務所だろ」

 天は蓮華の言葉を否定する。

「てか、もう事務所見えてるし」

 もう事務所まで大した距離はない。

 すでに事務所は目視できる場所にあった。

 なのに道を間違えた?

 蓮華の発言に違和感を覚える。

「うるさいわね。そう思うなら、まっすぐ行きなさいよ」

「いや。遠回りしてどうするんだよ」

 天は蓮華の手を取った、そして直進するも――

「やめてッ……!」

 蓮華は天の手を振り払う。

 妙に切迫した声音だった。

 だから腕を振り払われたことより、彼女の異変が気になってしまう。

(どういうことだ……?)

 天は事務所へと続く道を見た。

 なにも変わったところはない。


 強いて言うなら――()()()()()()()()()()()


 重機が鉄骨を持ち上げ、作業をしている。

(まさか、な……)

 工事現場の下を通ることを怖がっているのかと思ったが、すぐにありえないと一蹴する。

 蓮華がそんなことを恐れるとはとても思えない。

「なあ。なんで――」

 結局、本人に聞いてしまったほうが手っ取り早い。

 そう判断し、天は蓮華へと向き直ったのだが――

「……蓮華?」

 すでに蓮華の姿はそこになかった。

 天は周囲に視線を走らせ、彼女の姿を探す。

「……あそこか」

 ほんの一瞬。

 青髪が路地裏に消えていくのが見えた。

 天を無視して回り道をしようとしているのだろうか。

 しかし――

「……仕方ないか」

 天は肩をすくめる。

 あんな路地裏を歩いていてもしものことがあったら最悪だ。

 蓮華に限ってという気持ちはあるが、物事に絶対はない。

「俺も回り道するか……」

 天は蓮華の後を追い始めた。

 そして彼女は蓮華の入った路地裏に足を踏み入れ――

「っ……どうしたんだッ……!?」


 道端で嘔吐している蓮華を見つけた。


 ただの嘔吐ではない。

 吐瀉物には血が混じっている。

 あきらかに無視して良いものではない。

「蓮華ッ……!」

 天は蓮華に駆けよる。

 そして、彼女の肩を抱いた。

「どうした!? 怪我でもしてるのか……!?」

 蓮華に持病があるなんて話は聞いたことがない。

 ――戦闘に支障があるような疾患を持っているのなら、最初の時点で周知されているはずだ。

 病気じゃないとして、血反吐を吐く理由は内臓の損傷くらいしか考えられない。

「……《悪魔の眼》」

 天は蓮華の体を解析する。

 彼女の体に起きた異変を解き明かす。

(……重度の胃潰瘍?)

 どうやら胃の中で出血が起き、それを吐いているようだった。

 それだけではない。

 長期間の睡眠不足。過度のストレス。

 様々な要因によって、彼女の体は蝕まれていた。

 大病はない。

 しかし、体の中には健康と呼べる部分のほうが少なかった。

 そして、それらほどんどの原因となっているのが睡眠障害とストレスだ。

(しかも……精神安定剤を服用している形跡もあるな)

 蓮華の血中に薬効成分が混じっていることも解析できた。

 ――どれも天の知らなかった蓮華の姿だ。

 彼女が体調不良を訴えているところを見たことがない。

 彼女が不眠症だなんて知らなかった。

 彼女が弱音を吐いたところなんて見たことがなかった。

 彼女が精神を整えるために薬を飲んでいるだなんて知らなかった。

 今日一日で、以前よりも親しくなれたと思っていた。

 でも、違った。

 思い違いで、思い上がりだった。

「…………蓮華」


 天宮天は……瑠璃宮蓮華のことなど何も知らなかったのだ。


 ついに蓮華のストレスが限界に。

 はたして、天は彼女の心を救えるのか。


 それでは次回は『近づく破綻』です。 



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