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5章  3話 箱庭の外で二人with蓮華2

「やっべ……」

 天の口から思わずそんな言葉が漏れていた。

 2巡目。

 ――さっきは先攻である天が攻撃して……蓮華に防がれた。

 得点は変わらず0対2。

 しかし、次に攻めるのは蓮華だ。

 これを防げなければ、0対4となり状況はさらに苦しくなってしまう。

「あら。ヤバイって何がヤバいのかしら? 教えてほしいわね」

「こんにゃろ……」

 どうやら独り言を聞かれてしまったらしい。

 蓮華が嗜虐的に微笑んでいた。

「じゃあ、もうそろそろ終わらせてあげるわ」

「バスケに4点取れるルールはないぞ」

「でも、すぐに入るわ」

 蓮華はドリブルをしている。

(このまま……負けられるかよっ……!)

 このままでは敗北する。

 敗北の気配を濃厚に感じ、天は決断する。

 禁忌に近い手段を選ぶことを。


(――――《象牙色の悪魔(アイボリー・ラプラス)》ッ)


 天の眼に幾何学の文様が浮かび上がった。

 彼女の脳内に膨大な情報が叩き込まれる。

 蓮華の体調、骨格、精神状態。

 コートの詳細な状況。

 そこから、蓮華の未来を読む。

(…………ん?)

 気のせいだろうか。

 蓮華の体調をスキャンした際、妙なノイズが見えた。

 体調だけではない、精神もだ。

 鬱々とした――まるで、()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()

(いや……気にするな)

 現実として、目の前に蓮華は立っていて、天を圧倒しつつある。

 演算が少し不完全だっただけだ。

 ただの読み落としだ。

「終わらせるわよ」

 蓮華が動き出そうとする。

 ――天の予知通りに。

 そうなれば簡単だ。

 ボールが通るであろう軌道に、手を伸ばせば良いだけだ。

「なっ……!?」

 蓮華が動き出すと同時に、天の手がボールを弾き飛ばした。

 見てから反応しては間に合わないタイミング。

 さすがの蓮華も驚愕の表情を見せた。

「…………アンタ。使ったでしょ」

「使ったらダメってルールだったのか?」

「……そっちがその気なら受けて立ってあげるわ」

 蓮華は転がるボールを拾うと、天に投げ渡す。

 少し卑怯臭いが、窮状はしのげた。

 次は天の番だ。



「はぁッ……!」

「くッ……!」

 ついに天は蓮華の防御を突破した。

 彼女がディフェンスのために取る動作を予知し、かいくぐったのだ。

 蓮華の表情が悔しそうに歪む。

 だが、もう遅い。

「たぁッ!」

 一瞬、天は《悪魔の四肢》で右足を強化する。

 そのまま彼女は右足で踏み切り、跳躍する。

 彼女の体はふわりと跳び――ボールをゴールへと直接叩き込んだ。

 

 現在の得点は――2対2。



「ルール無用なら遠慮なしよ」

 蓮華の指先からチラリと火花が散る。

「《紫色の姫君(パープル・プリンセス)》」

 一条の紫電が伸び――ゴールリングへとつながった。

「なっ……!」

 電気。

 電気を操れるのなら、間接的に磁力を操れる。

 磁力を操れるのなら、間接的に金属に干渉できる。

 そしてバスケットボールのゴール――そのリングは金属でできている。

「そうくるかよッ……!」

 蓮華の体が宙を舞う。

 自分自身を、ゴールと引き寄せ合わせているのだ。

 蓮華はコートの中央からゴールまで一気に飛ぶと――

「はぁッ!」

 ボールを振り上げ、ゴールに叩き込んだ。

 蓮華はゴールリングを掴んでぶら下がる。

 数秒待って、彼女は地面に降りると天へと振り返った。

「ルール無用でも、アタシは負けないわ」

 

 現在の得点は――2対4。



「どうだッ!」

 天の攻勢。

 彼女は蓮華と対峙した瞬間、ボールを構えて飛んだ。

「っ……!」

 いきなりシュート体勢に入ったことで虚を突かれたのだろう。

 蓮華の反応が遅れた。

 天がいるのはコートの中央。

 本来ならシュートが届くような距離ではない。

 だが天はALICEだ。

 本来の身体スペックが違うのだ。

 充分に届く。

 技術的な問題は――《象牙色の悪魔》が補正してくれる。

 シュートフォームを。角度を。力の込め具合を。

 悪魔の導きに従い、シュートを放つ。

 空中に描かれる放物線。

 それは寸分違わずゴールを貫いた。

 スリーポイントラインよりも外側からのシュート。

 その得点は――3点となる。

 

 天宮天VS瑠璃宮蓮華。

 現在の得点は――5対4。


「あー。気が付いたら逆転しちまってたなぁ? いつも通りやってただけなのになー。なあ蓮華、俺っていつ逆転したっけ? 教えてくれねぇか?」

「………………どうせすぐ逆転されるんだから一生忘れてなさい……!」

 ――そんな軽口を叩きあいながら、ゲームは最終盤へと向かってゆく。



(こいつを防げなければ負けだ)

 蓮華の得点は4。

 勝利にリーチがかかっている状態だ。

 なんとしても得点を防がねばならない。

(磁力操作を利用したダンクならさっき見た)

 今度は《悪魔の四肢》で追いついてみせる。

 天の足に光の血管が浮かび上がる。

 彼女の身体能力は蓮華を大きく上回った。

 たとえ蓮華が何をしようとも、追いつける。

 彼女の機微を一切見逃さないという執念で天は集中してゆく。

 そして――

「……ふぅ」

 小さく蓮華が息を吐いた。

 彼女の顔を見ると――笑っていた。

「案外、楽しめたわね」

 そう言って彼女は――シュートを撃った。

「はぁッ……!?」

 さっき天が見せたハーフラインからのロングシュート。

 だが蓮華に《象牙色の悪魔》のような補正機能はない。

 ボールは金属でないのだから、ゴールまで誘導できない。

 まさか――純粋な技術だけでそれを再現するというのか。

「そんなに上手くいくと思って――」

「思ってないわよ」

 蓮華は笑う。

 天の予想は外れることなく、蓮華のシュートはリングに弾き返された。

 しかし――蓮華はそこまで織り込み済みだった。

「しまったッ――」

 天は失策を悟る。

 蓮華の体が――雷となったのだ。

 彼女は一条の雷閃となり、一瞬でゴールの目の前へと移動していた。

 いくら《悪魔の四肢》で筋力を向上させていても、雷速には追いつけない。


「これで――終わりよッ」


 雷から戻った蓮華が空中でボールをキャッチする。

 そのままボールを両手で掲げ――体重を込めてゴールにぶち込んだ。


 現在の得点は――5対6。

 試合のルールは6点先取。


 つまり――蓮華の勝利だ。


 バヌケ勝負の行方は蓮華の勝利となりました。

 ただ彼女の身に不穏な影が――


 それでは次回は『箱庭の外で二人with蓮華3』です。



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