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07 占い師。



 青い宝玉の髪飾りをつけて、魔法訓練場へ足を運ばせる。

 ピティさんに案内してもらったあとは、迷子にならずに部屋に戻れるから一緒にいなくても平気だと伝える。

 ピティさんはわかりましたと一礼するといなくなった。

 私は誰もいない魔法訓練場に入って、背伸びをする。

 グラー様の許可ももらったことだし、誰もいない隙に全力を試してみよう。

 念のため、魔法訓練場の扉の鍵を閉めておく。

 円形の部屋の中心に立つ。


「……すぅー」


 深く息を吸っては吐いた。

 私に聖女のような巨大な魔力があるというなら、それを発揮させよう。

 先ずは、イメージ。

 記憶を頼りにイメージをした。

 この異世界に来た時のような、冷たくて心地のいい水の中。

 両手を広げて、掌を左右に翳した。

 水を出す。この前の水滴ではない。

 大量の水。心地いい冷たさであり、透明な水。

 ぐるり、と渦を巻くように水が出現する。それは徐々に大きくなっていく。

 両手の前に、水の塊が出来上がる。

 ぶわり、ぶわり、ぶわり。

 膨れ上がる水。

 左右を交互に見た私は、面白くなってきた。

 だから、くるりくるりっと一回転する。

 水はついてきた。掌を追いかけて、水の跡が出来上がる。

 透明な水飛沫が、煌びやかな光を放ちながら、私の掌を追いかけてきた。

 掌を上下に揺らしつつ、くるりくるりと回っていると、水の壁のようになっていく。

 幻想的だった。でも、これは現実だ。

 楽しくてしょうがなかった。

 程よく冷たい水が、私を囲う。

 雫が一つ一つ、舞っていく。

 大きな飛沫のような水が、回る回る。

 いとも簡単に操れる魔法。

 私は確信した。きっと、これは、聖女である証明だろう。

 何分も、くるくるっと回った。

 水とともに踊ったあと、私は壁になった水を消す方法を考える。


「”ーー清らかなる水よ、純白に染まれ、凍て尽くせーー”」


 凍らせる呪文を唱えれば、空気が冷え込んだ。

 ピキピキッと音を立てて、水の壁は凍り付く。オブジェのような氷の出来上がりだ。

 キラキラと白く透ける氷をスッと指で撫でて、初めての詠唱魔法にしては、上々ではないか。


「わっ!?」


 感心していて、水を支える集中力を切らしてしまった。

 支えのない氷の壁は落ちて、粉々に砕け散る。氷の破片が散乱した。

 このままにはしていられない。

 水なら消せるはずだけれど、氷だとちょっと違う。

 これの説明をしろと言われたら、聖女だとバレる。片付けなければ。


「魔法で消そう」


 火の魔法で、氷を溶かして水を蒸発させる。


「大抵の魔法はここで使っても平気なのよね、確か」


 グラー様が言っていた。

「よし」と頷く。


「”ーー純粋なる火種よ、ここに集え、紅蓮の炎になれーー”」


 ちゃんとイメージをする。

 突き出した両手の前に炎が溢れて、熱さを感じながらそれを大きくした。

 部屋を焦がさないように、制御をしつつ、炎の塊を動かす。

 メラメラと赤と橙に燃え上がる炎に当てられて、散乱した氷が溶けていき、そして蒸発していく。

 さっきと違い、ゆっくりと一回転して、氷を片付けた。


「証拠隠滅完了!」


 少々部屋が暑くなったが、ご満悦である。

 聖女らしい無詠唱魔法が使えたし、詠唱魔法も無事使えた。

 あとは、魔法をたくさん学べばいい。

 それから、少しこの異世界ペオリヴィンスの地図を読んで、旅立つ。

 私の第二の人生スタートだ!

 聖女としての使命? そんなの知らないね!

 あくまで聖女のおまけとして扱う人達に、何かしてあげる気はない。

 グラー様も言っていた。聖女の力が必要な問題事は何もない。

 醜い戦争はないし、世界を征服したい魔王もいないのだ。

 異世界ペオリヴィンスは、いたって平和。グラー様が聖女召喚を阻止しようとしていたくらいだもの。

 だから、別に私が何かをする必要性はないのだ。

 なので、心置きなく、旅が出来る。

 異世界ペオリヴィンスを、自由に謳歌するぞ!


 コンコン。


 他の魔法を試そうと考えていた私は、ノック音を耳にして、びくぅううっと肩を震え上がらせた。

 大丈夫。見られていない。

 誰だろうと思いつつ、私は扉の前に立つ。


「はい? どなたでしょうか?」

「中に入れてください!」


 切羽詰まったような声が聞こえた。


「お願いします!」


 見られたくないものはないと確認しつつ、扉を開く。途端に、彼は自分の身体をねじ込むように入って来ると扉を背中で閉めた。

 スミレ色の髪の男性。少しボサッとボリュームがあり、左目は隠れている。長い襟足の髪を結んでいて、左肩から垂らしていた。

 頼りなさげに眉毛を下げているけど、綺麗な顔立ちをしている。

 羽織っているのは、白いローブ。

 占い師だ。確か、名前は……ルム様?


「……まさか、聖女様から逃げて……?」


 追われている心当たりが、レイナしかいない。

 扉に耳を当てるけど、扉が厚すぎて、聞こえない。


「……」


 ルム様は、無言の肯定をする。

 困ったものだ。聖女という立場を利用して、手当たり次第言い寄っているみたい。呆れて、息をつく。


「大丈夫ですか?」


 ちょうど左側にいるから、私は顔を見れない。

 息が乱れているルム様の顔を覗いた。

 隙間から見えた左の瞳を、目にする。

 右の紫色の瞳と、違う色だった。

 薄い紫、アメジスト色。


「だめだ!!」


 肩を掴まれたかと思えば、引き離された。


「うっ!」


 それから左の瞳を押さえて、蹲る。

 えっ。中二病的な症状? 封印した左目がうずく?


「あの、大丈夫ですか?」

「ううっ! うっ!」


 かなり痛そう。


「水? 水だ……! それにっ……君の声っ?」


 しゃがんで覗き込んで、痛みが和らぐことを待つと、ルム様は左目を押さえながらも顔を上げた。


「君! 水に近づいちゃダメだ!」

「へっ? えっと……何故?」

「予知を見たんだ! 水がっ、多分大量にあって、それから君が声を上げててっ!」


 予知を見た、という。

 私は目を瞬いた。

 そう言えば、未来が断片的に見えるのだっけ。グラー様から聞いた。


「ごめんなさい、ルム様。左目で予知をするんですね、知らなくて……」

「えっ、なんで……君が謝るの?」

「グラー様から聞いて……人の予知を見たくないんですよね。見たくないものも見てしまうから……」

「……」


 驚かれたから、私は理由を話して気付く。


「ん? じゃあ……私、死ぬの?」

「あっ、それは……」


 死の予知をされたのか。


「いつですか?」

「そ、それは……わからないんだ……断片的にしか見えないし……でも」


 ルム様は、言葉を続けた。


「……一瞬見えた君は……そのまま……変わってなかった……」


 変わっていない。


「老いてはいない……」

「……なるほど」


 今の姿。つまり歳を取らないうちに、予知が実現してしまう。

 けれども、私って老けるのだろうか。疑問だった。

 私は高校時代の姿に戻っているが、はたして成長が出来るのか。

 そうすると、予知を予測が出来ない。


「ルム様の予知能力は、必ず的中するのですか?」


 手を差し出す。

 ルム様はぎこちなく、躊躇しながら、私の手を取る。立ち上がることを手伝って引っ張った。


「……外れたことはない……」


 立ち上がると、やっぱり背が高い。そんなルム様の重ねた手は、震えていた。怖がっているみたいだ。


「溺れ死ぬってことですかね? でも、私の声が聞こえたって……順番が逆では?」

「あ……そうだね……変だ……」


 水ならさっき大量に出した。自分の魔法で溺れ死ぬのは嫌だな。例え、心地よい冷たさの中でも。息はしたい。生きたいのだ。

 第二の人生を謳歌したい。


「死の予知とは限らないのでは?」

「……昔、死の予知を見た時と同じ、感情が昂ったんだ……全く同じだった」


 感情の昂りが同じ、か。死の予知。


「その昔のことを尋ねてもいいでしょうか?」


 きっとトラウマになったものだろうから、重い口調で問う。

 予想は当たりのようで、手を引っ込めては、怯えたように頭を抱えた。


「私の死の予知かもしれないのなら、話してもらえないでしょうか?」

「……」


 一分か二分くらいだっただろう。

 それくらい葛藤するように沈黙したルム様は、頷いてくれた。



 

20201027

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