地震のあとで。
私は地震が起きてから、市の配布広報誌やウェブニュースサイトや新聞で災害関連の報道をずっと読んでいた。
「やはり僕の言った通りだった。こんな日はいつかやってくるんだ」モグラ男はこの日に関する準備に余念がなかった。私の父は生活日用品や地下シェルターを揃えていた。たとえば当日朝の食事から数えて少なくとも半年以上は生き延びていける分だけの備えを蓄えていた。
「それだけあれば、僕たちは生き延びていけるんだよ」私は友達に学校でその話をした。
「なんか知っていたみたいな言い方だよね、それって」かえるちゃんはそう言った。
「本当に知っていたのかもしれないし、そうじゃないかもしれないけど。準備はしていたんじゃないかな」
「でも、シェルターってどうやって作ったんだろ」香深はそう訊ねた。
「穴を掘ったんだよ。不思議の国のアリスみたいにさ、どこかに繋がる穴が元々あったんだよ。私の父さんはそれをより深く掘り進めただけなんじゃない」実際に私はそう思っていた。私はその穴に惚れ惚れするぐらいの好意を持っていた。いつかそこに潜ってみたいとすら。
「じゃあもしその穴からヴィランが出てきたら、どうする」
「出てこないよ。せいぜい小さな虫とかミミズぐらいじゃない」
「違うわ。モグラ男よ」私たちは以前見たアメコミ映画に出てくるモグラ男のことを考えた。確かに共通点はある。地中に住んでいるところと、人間よりも生活品を揃えることに余念がないことと、ほんとに人を食べるところである。モグラ男はグルメなんだってことも私たちは知っていた。豊富なタンパク質を欲していることも。人が一番含有率の高いってことも。
「変なデマとかじゃなくて」
「変なデマとかじゃなくてさ」かえるちゃんはそう言った。
「もし何か欲しかったら言ってね。私が頼んでおいてあげるから」話題を変えるつもり私は言った。
「杏は友達だから、ちゃんと言うけどさ。あなたの父さんがモグラ男だったんじゃないの」私は初めてそう言われて、父親がモグラ男であることに気づいた。そのことに疑問にすら思わなかった。
私はそうした疑問を払拭したかった。双葉さんやかえるちゃんが言ったことは、本当は私自身も考えていたことではあったし、もし確かめることが出来るなら、そうしたかった。
「じゃ、決まりね」と彼女は言った。
「何をするの」私は言った。
「シェルターを調べるの」
「マジで」香深は言った。