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姫の王子とエクレアの姫  作者: ゼニ平
第5章
5/5

伊織とエクレア

 「こんな状況でなければ嬉しすぎて小躍りでもするところなんだけどなぁ」

 「あっそ」

 だんだん彼女の伊織へのつっこみも冷たくなってきた。

 時間は既に下校時刻を過ぎ、先生に部室から追い出された所だ。

 ルウと別れ、絵見(仮)と伊織は、二人そろって伊織の家の前に来ていた。

 彼女の家は、警察の捜査が行われており立ち入る事ができなかったのだ。

 それにルウにできるだけ一緒にいないと彼女が消滅してしまうと脅されたこともあり、彼女を家に泊めるために連れてきたのだった。

 「今さらだけど、いきなり泊めてもらうなんて、大丈夫なのか?」

 「大丈夫だと思うよ。うちの家族は結構おおらかだから」

 そう言って、ガチャンとドアを開けた。

 「ただいまー」

 「あ、兄貴おかえりー。おそかった……」

 玄関には翔がいて、自転車を磨いていた。

 「あ、その。こんばんは。お邪魔します」

 女子は絵見(仮)の方を見て固まっていたので、ひとまず挨拶をすることにした。

 「あ、いらっしゃい……え? この人、兄貴の彼女?」

 「そうだよ」

 「違います」

 一昨日と同じやり取りをし、今度も伊織はエクレアに蹴り飛ばされた。

 「まだ違うそうです」

 「あ、そう……兄貴、色んな女の子に手を出してるんだな……」

 なんだか、伊織の評価が下がった気がした。

 実際は一昨日とは同じ女の子なのだが、やはり翔にもわからなかったようだ。

 「えっと、妹の姫野翔です。よろしくお願いします」

 「あたしは佐藤……絵見です。よろしくお願いします」

 彼女は自分の名前を名乗る事ができないため、仕方なく改名予定の名前を名乗るしかなかった。

 「翔。彼女、今日家に泊まるから」

 「まじで? 母さん達には?」

 「まだ言ってない」

 「ふーん。じゃあ、ちょっと部屋片づけてくるわ」

 そう言って、翔は慌てて階段を登って行って自分の部屋に向って行った。

 「ね? 大丈夫そうでしょ?」

 「いや、まだ親御さんの許可貰ってないし……」

 「大丈夫大丈夫」

 そう言って伊織はそのままズンズンとリビングの方に歩いていき、ドアを開けるなり、

 「母さん、彼女、今日うちに泊めていい?」

 「え? 何言ってんのあんた。ダメに決まってるでしょ」

 「ダメだった」

 「…………」

 絵見(仮)は伊織を氷のように冷たい目で見つめていた。

 「よその家の娘さんを、年頃の男の子がいる家に泊めるわけにはいかないでしょ」

 伊織の母親は、伊織によく似た雰囲気をしていた。

 「まぁまぁ、母さん。いいじゃないか」

 隣の部屋から、ドアを開けて男の人が現れた。

 「あ、父さん。帰ってたんだ」

 絵見(仮)はその男性に見覚えがあった。

 「あっ」

 「やぁ。伊織君のお友達だったんだね」

 病院で会った、背の高い刑事さんだった。

 「父さん、彼女のこと知ってるの?」

 「佐藤さん家の娘さんだろう? 今日会ったよ。事情ももちろん知ってる。母さん。彼女の家は警察の捜査中で立ち入りができないんだ。うちに泊めてあげて欲しい」

 「なんだ。そういう事情なら早く言いなさいよ、伊織。佐藤さん、自分の家だと思ってゆっくりしていってね」

 にっこり笑った顔も、伊織そっくりだった。

 

◇ ◇ ◇


 それからすぐ、夕食となった。

 いつもの4人掛けのテーブルに、椅子を追加してそこに絵見(仮)が座った。

 「でも伊織、あんた早くお友達連れてくるならもっと早く連絡しなさいよ。今日はカレーだったからよかったけど、ご飯用意できなかったかもしれないじゃない」

 「ごめんなさい」

 伊織が自分の親に頭を下げているのを見て、エクレアは慌てて、

 「あ、いえ。彼は悪くないんです。あたしのせいなんで……」

 「絵見ちゃんは気にしなくていいのよ」

 「そうそう」

 伊織の母と翔はそう言って、彼の事をからかっていた。

 伊織の父は、そんな様子をニコニコしながら眺めていた。

「エク……えっと、食べないの?」

 家族の前で名前を呼ぶわけにもいかなかったので中途半端になっていたが、彼女がまだカレーに手を付けていないのに気付いて伊織は声をかけた。

 「ああ、うん……。いただきます」

 そう言って、スプーンを取ってカレーを食べ始めた。

 「…………」

 「あれ? どうしたの絵見ちゃん?」

 翔が、絵見(仮)が泣いているのに気づいて慌てて声をかけた。

 「うちの母さんのカレーそこまでおいしかった? そんなに大した味では無いと思うけど」

 「伊織、あんたはもうそれ以上食べるな」

 「ごめんなさい。……それで、どうしたの?」

 絵見(仮)は涙をぬぐいながら、

 「その……家族でご飯食べること、あんまり無いから……」

 彼女の家は、両親が共働きで、朝早くから夜遅くまで仕事している。

 たまに休みの時は家族で食事をすることもあるが、基本的にはいつも一人だ。

 こんなに、家族みんなで、温かい雰囲気で食事を取ることなどめったに無かったので、思わず涙が零れてしまったのだった。

 それを聞いて家族はみな同情的な顔になった。

 そして翔は兄に聞こえないように、彼女にこっそりと耳打ちした。

 「いつでもうちに嫁に来ていいからね」

 彼女は、ちょっと顔を赤くして、

 「……考えときます」

 と、小さな声で答えた。


◇ ◇ ◇


 「伊織君」

 「父さん、どうしたの?」

 絵見(仮)がお風呂に入っている間、伊織はTシャツと短パンというラフな格好で、自分の部屋のベッドに寝転がってスマホで瀬戸南神社について調べていたが、残念ながら大したことは分からなかった。

 ルウの調査を待たざるを得ない状況だったが、そんな時に父親が部屋を訪れた。

 もう遅い時間だというのに、父はスーツに着替えていた。

 「佐藤さん家の娘は一人だけ。名前は絵久珍という。間違いないか?」

 「……間違いないよ」

 正直、父親と絵見(仮)が知り合いだったと知った時からまずいと思っていた。

 さすがに、刑事である父親に誤魔化しは効かないので正直に答えた。

 「さっき署から連絡があった。佐藤さんのお隣の鈴木さんという方が、刃物を持った少女に襲われたらしい」

 「えっ!?」

 あの、絵見(仮)の両親に、酷いことを言った人で、彼らが自分の娘にキラキラネームを付ける事になった原因の人だ。

 「被害者の話によると、犯人は佐藤さん家の娘、佐藤絵久珍という名の少女らしいんだが」

「…………」

 「それに被害者の傷口から、犯行に使われたナイフは、今朝の佐藤夫妻を襲った物と同一の可能性が高い。そのことから、同一犯だと思われている」

 「…………」

 「その上で、君に聞く。彼女……佐藤絵見さんと名乗ったあの子は、今回の事件に関係無いか?」

 射貫くような目で、伊織の目を見ていた。

 この父親に、嘘は通じない。

 刑事としての経験で、相手の目を見ると嘘をついているかわかるらしい。

 だから、全て正直に答えるしかない。

 「まったく関係無いと言うわけじゃないけど……。でも、彼女は犯人じゃない。悪いことは何もしていない。彼女の両親や、お隣の鈴木さんを襲ったりしていない。それだけは信じて欲しい」

 とは言え、全てを語るわけにもいかない。

 さすがに信じてもらえるとは思えなかったからだ。

 父親は、しばらく伊織の目を見つめていたが、

 「……わかった。ただ伊織君、何か困ったことがあれば、すぐに相談してくれ」

 「ありがとう。父さん」

 おそらく、自分が隠し事をしていることはばれているだろう、と思っていた。

 だが、彼は伊織の事を信頼して何も言わなかったのだ。

 「じゃあ、私はちょっと出てくる。鈴木さんの事件の捜査に行かないといけないからな」

 そんな父に向って、伊織は、

 「ところで父さん、さっきの話、警察の捜査情報じゃないの? 僕に話してよかったの?」

 「良くないから、内緒で頼む」


◇ ◇ ◇


 風呂から上がった絵見(仮)は2階の翔の部屋で寝る事になった。

 ちなみに隣は伊織の部屋である。

 「じゃあ、ウチは下の父さんと母さんの部屋で寝るから、この部屋好きに使ってね」

 「ごめんなさい、あなたの部屋を借りてしまって……」

 「気にしない気にしない。なんせ兄貴の大事な人なんだから」

 「…………」

 大事な人……と言われて正直ちょっと嬉しかった。

 だが、王子様だとか姫だとか言われていていたが、彼から何か直接的な言葉を聞いた事を一度も無い。

 藤村菜々美に告白されていたのを見て、OKしたと勘違いして自分は裏切られた、と思ってしまった。

 彼が、自分の事を覚えていてくれて、本当に嬉しかった。

 その気持ちに、嘘は無い。

 そもそも、彼は自分のために色んな事をしてくれた。

 子供の時に一緒に遊んでくれた。落ちてくる看板から庇ってくれた。一緒に名前の由来を探してくれた。一緒に神社に泊ってくれた。

 ここまでの事をされて、何も思わないなんてこと、できなかった。

 だが、自分が彼の事をどう思っているのか、と聞かれたら素直に答えられそうになかった。

 ため息を吐きながら、何気なく自分の手を見て、顔が凍り付いた


◇ ◇ ◇


父親が家を出てしばらくした後、トントンとドアをノックする音が聞こえた。

 「エクレアちゃん?」

 この家にノックしてから部屋に入るような気づかいのできる家族はいないので、必然的にこのノックの主は彼女一人しかいない。

 「……入っていいか?」

 「……どうぞ」

 念のため一瞬周りを見渡して、部屋がしっかり片づけられているか確認してから彼女を招き入れた。

 彼女は翔の寝間着を借りていて、手を後ろに回していた。

 伊織は彼女の制服以外の姿を見るのは始めてだった。そう考えて妙にドキドキしてしまっていた。

 「どうしたの。エクレアちゃん」

 伊織は部屋の真ん中のテーブルの前にクッションを敷いてあげた。

彼女はそこに座り、自分はベッドの上に座った。

 「……あんたの家、あったかいね」

 「え、暑い? エアコン入れようか?」

 彼女は苦笑して、

 「……そうじゃなくて。あんたも知ってるでしょ。うちの親、あんなんだから。こういう普通の家、なんだかあこがれちゃう」

 「はは。そんな普通でも無いけどねー。うち、再婚してまだ4年とかだし」

 「そういえば、そんな事言ってたっけ……でも、そんなの感じないぐらい、仲いいじゃない」

 「んー。まぁ、外から見るとそうなのかもね。でも、これでも父さんと翔には結構気を使ってるんだよ?」

 伊織は母親の連れ子、翔は父親の連れ子だ。

 1つ違いの妹が同じ屋根の下にいるという状況に最初は慣れなかったし、父親は優しい人だったが、家にいないことも多かったためなかなか話せなかった。

 「翔は母さんにすごくなついているし、母さんも妹を可愛がっているから、そこら辺はうらやましいけどね」

 「そうなんだ……」

 そう言うと、彼女は黙ってしまった。

 なんとなく、沈黙が重かった。

 下の階に母親と妹がいるとはいえ、部屋に二人っきりというのはやはりダメだ。

 中学生の男子にはなかなか耐えるのが難しかった。

 「えっと、エクレアちゃん。そろそろ寝たら? 朝から色々あって疲れてるでしょ?」

 「……うん」

 そう言って、彼女は立ち上がろうとしたが、やはり疲れていたのか、立ち眩みを起こしてしまったようで、ふらっと倒れそうになった。

 「危ない!」

 彼女は咄嗟に後ろに隠していた手を、正面に持ってきて受け身を取ろうとしたが、あわてて伊織が立ち上がって彼女の体を抱きとめて支えた。

 伊織の方が若干背が低いので、受け身をとろうとした彼女の手は、ちょうど伊織の肩のあたりにある。

 そして伊織は気づいた。

 「エクレアちゃん……その手……」

 彼女の手を見て驚愕した。

 本人はバツが悪そうに、

 「……さっきから、こうなってる。このままだと、あたし、いずれ全身がこうなっちゃう

うのかもしれない……」

 彼女の手は、半透明に透き通っていた。

 「…………」

 さすがの伊織も、あまりの衝撃に咄嗟になんと言えばいいのかわからなかった。

 「……岡田さんの言ってた通り、いつ消えちゃうかわからない。いずれ、全身こんな風に透明になって、最後は消えちゃうのかもしれない」

泣きそうな声でそんな事を言われた伊織は、安心させるように、

 「……きっと大丈夫だって! 僕が側にいれば、エクレアちゃんは存在を保つことができるって!」

 だが、彼女は首を振って、

 「……あんたの近くにいるのに、こんな風になってるんだもの……。あたしが、神様に名前をあげるなんて言わなければ、こんな事にはならなかったのに……!」

 そのまま、彼女は涙を流して泣き出してしまった。

 「大丈夫、大丈夫だから! 僕が、なんとかするから!」

 そう言って、伊織は彼女を安心させるように強く抱きしめた。

 「古今東西、呪いを受けたり、毒リンゴを食べたり、悪いやつにさらわれたりして、困っている姫を助けるのは王子だって相場が決まってるんだ。僕は、エクレア姫の王子になるんだから」

 「……バカ」

 彼女は真っ赤になりながら、そのまま伊織の肩でしばらく泣いていた。


◇ ◇ ◇

 

 彼女はそのまま、泣き疲れて眠ってしまった。

 伊織は自分のベッドに彼女を寝かせると部屋を出た。

 一緒の部屋で寝るのは論外だが、妹の部屋で寝るのもさすがに申し訳ない。

 妹が起きていれば部屋を代わって貰うのだが、残念ながら下の階に降りて夫婦の寝室を覗いたが母親も妹も既に寝ていた。

 仕方なく、リビングのソファで寝ようかと思っていた時、携帯が鳴った。

 「やあ。彼女との水入らずの時間を邪魔してしまったかな? プリンセス」

 オカルト研の部長にしていまや伊織の大事な友人、ルウだった。

 「そっちこそ大丈夫? お母さんかお姉さんは後ろにいない?」

 「……君は本当にいじわるだね。生憎母も姉も既に床についているよ。……今大丈夫かい?」

 「ああ。大丈夫だよ。ちょうどよかった。僕も君と話したかったんだ」

 そう言いながら、伊織はこっそりと家を出ていた。

 家の中で電話をして家族や絵見(仮)を起こしたくなかったのだ。

 「おやおや。彼女より私の方が好みだったとは。君もオカルト研に入ってくれるなら、私も少しは考えてあげても……」

 「あ、結構です」

 「……即答されるとそれはそれで物悲しいね」

 こういうバカなやりとりができる友人は貴重だ。

 暗い気持ちが多少はマシになった。

「まず、私の調査結果についてなのだが、まず結論から言うと、瀬戸南神社の神には、名前が無い」

 「名前が、無い? 神社に祀られている神様なのに、名前が無いなんてそんなことあるの?」

 「実はよくあることなんだよ。名前のわからない神様が祀られてたり、地主神とだけ書かれていたりすることはね。古代の人々は『神様の名前を口にするのは不遜だという考えもあったようだしね』

 神社の神様と言えば。伊勢神宮とか厳島神社とか、大きな神社の有名な神様のことぐらいしか知らなくて、そういうところを基準に考えてしまっていた伊織だった。

 「ただ、瀬戸南神社に祀られている神の場合は、少し事情が違うみたいでね。遥か昔……と言っても、数百年ほど前のことらしいけれど……この町のある地方と、別の地方の間に、戦いがあった。その戦いの中で、瀬戸南神社は焼き払われてしまったらしいんだ。そのせいで神社にいた、神職の人たちも亡くなってしまった。それから何年かして、神社は再建されたんだけど、その途中で神様の名前も失われてしまったらしい。だから、神は元々は名前があったけれど、名前を無くしてしまったんだ」

 「神様が、名前を元々持っていたけど失ってしまったってことか……でも、それが名前を欲しがる動機になるのかな?」

 「どうだろう。名前を手に入れて、何かしたいことがある……と考えるのがいいかもしれないが、正直なんとも言えないね。では、君の方の話を聞こうか?」

 「そうだね。えっと……」

 襲われた佐藤家の隣人の鈴木さんの話、絵見(仮)の手が透けている話。

 ルウはどっちも黙って聞いていたが、伊織が話し終えると、

 「ふむ……ひとまず、彼女の両親を襲った犯人は、彼女の名前を奪って、彼女の姿をしている神社の神ということで間違いなさそうだね」

 「ああ。なんでそんなことしているかまるっきりわからないけど」

 「……彼女の名前に係わる人物を襲っているのかな?」

 「だとすると、もう被害は出ないかもしれないけど……」

 「油断はしない方がよさそうだね。できるだけ早く、神エクレアを捕まえた方がよさそうだ」

 「神エクレアってなんだ」

 「佐藤絵久珍の名前を奪った神、じゃ長いからね。神エクレアと名付けよう」

 酷いネーミングセンスだったが、とりあえず置いておくことにした。

 「エクレアちゃんの手が透けている件に関しては?」

 「タイムリミット、と考えるべきだろうね。放っておいたら、彼女に残っているわずかな存在も無くなってしまうかもしれない」

 「でも、彼女は僕との繋がりで存在できているんだろ? 僕が傍にいれば、大丈夫なんじゃ……」

 「それは、希望的観測というやつだ。実際に起こっていることを考えると、事態はもっと深刻だったようだ。……一刻も早く、神エクレアを探し出して、彼女に存在を返してあげないと……危ないかもしれない」


◇ ◇ ◇


 伊織は電話を切ると、闇夜の街を走り出した。

 絵見(仮)がいつ消えてしまうかわからないと実感して、じっとしていることなどできなかった。

 彼女を失いたくなった。

 長い間、彼女と離れ離れになっていたが、ずっと彼女の事は気にかけていた。

 この街に帰ってきた時、どこかで会えるのではないかと期待していたが、まさかすぐに再会できるとは思わなかった。

 正直、運命だと思った。

 まぁ、小さい時は大人しい子だったはずが、随分と荒々しい性格になってしまったものだとは思うが。

 それでも、気持ちは変わらなかった。

 伊織にとって、彼女はたった一人の存在だったのだ。

 長い階段を走って一気に登り切り、彼女との思い出の地、瀬戸南神社にたどり着いた。

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 さすがに、息が切れていた。

 辺りを見渡してみたが、誰もいなかった。

 ふと、社務所の横にあった、大きな石をどかしてみた。

 昨日、社務所に泊まった後、鍵を閉めて再び石の下に鍵を戻していたのだが、その鍵が無くなっていた。 

 誰かが、この鍵を使ったということなのだろう。

 おそるおそる、社務所の扉に手をかけた。

 鍵はかかっておらず、扉はゆっくりと開いた。

 相変わらず社務所の中は真っ暗だったので、スマホの明かりを中に向けてみた。

 昨日、彼女が座っていた、あの部屋の隅に誰かが座っていた。

 スマホの光をそちらに向けた。

 「やあ。君とは、はじめましてだね」

 そこには、佐藤絵久珍の姿をした少女が笑ってこちらを見ていた。


◇ ◇ ◇


 「……ん? あれ……?」

 伊織が家を出てしばらくして、エクレアは目覚めた。

 彼女は一瞬、自分の部屋でないことに驚いたが、伊織の家に来ていた事を思い出して、自分が 彼のベッドで寝ていたことに気づいて赤面した。

 「伊織……?」

 そして、周りを見渡して彼がいない事に困惑したが、自分が彼のベッドを奪ってしまったことに 気づいて、申し訳なくってしまった。

 ふと、自分の手を見ると、やはり手は透けたままだった。

 むしろ、さっきまでは手の平までだったのが、ひじの方まで透けて行っていた。

 「…………」

 このペースだと、そう長いことは持たないかもしれない。

 そう、考えてため息をついた瞬間、ふと妙な視線を感じた。

 部屋の周りを見渡し、ドアの方に目をやると。

 小学生ぐらいの半透明の男の子が、じっとこちらの顔を覗いていた。

 「ぎゃあ!?」

 夜中だというのに大声を出してひっくり返ってしまった。

 幸い姫野家の人たちはぐっすり眠っていたので気づかなかったようだが。

 「あ、あ、あ、あんた……」

 その顔には、見覚えがあった。

 昨日写真で見た、絵見(仮)の兄、武士だった。

 だが、今まで見えて無かったのになぜ急に見えるようになった?

 そんなことを混乱する頭で考えていたが、武士の幽霊ははっきりと。

 「急いで」

 と言葉を発した。

 彼の声は、霊感のある翔でも聞くことができなかったはずだ。

 それなのに、なぜ自分がいきなり聞けるようになった?

 それに、言っている意味もわからない。

 「い、急ぐって……どこへ? なんで?」

 混乱しながらそう尋ねた絵見(仮)に向って、

 「このままだとあの子が、しんじゃう」

 「あの子……?」

 あの子、と言われても誰の事を言っているのかわからない。

 「きみの、王子さま」

 そんな人物は、一人しかいなかった。

 既に幽霊を見て顔が真っ青になっていた絵見(仮)だが、そんな彼女の顔はもはや幽霊かと思うくらいに顔面蒼白になってしまった。


◇ ◇ ◇


 「…………」

 伊織は、ルウや父親の話から、ある程度はこんな事態を想定していた。

それでも彼女とまったく同じ姿をした存在がいることに、動揺を隠せなかった。

 「……エクレアちゃん……じゃないんだよな」

 「いいや。わたしは、佐藤絵久珍だよ。彼女から名前を譲り受けたからね」

彼女の顔と声で、そんな事を言ってきた。

 「なんで、エクレアちゃんから名前を奪ったんだ。なんで、彼女の両親や、鈴木さんを襲ったんだ」

 「名前を奪ったなんて、人聞きが悪い。彼女は、わたしに名前をくれるとはっきり言ったんだよ? それに、彼女の両親や隣人を襲ったのは……」

 神エクレアは、にやりと笑った。

 「彼女の望みだったからさ」

 「……は?」

 「彼女の両親や、隣人に仕返しする事、それが彼女の望みだったんだよ」


◇ ◇ ◇


 絵見(仮)はすぐさま姫野家を飛び出していた。

 どこへ行くべきか一瞬わからなかったが、幽霊が先導してくれていた。

 「……あんた、あたしの兄の武士……でいいのよね」

 「うん」

 あっさり答えられてしまった。

 「あんた、なんであたしの事、ずっと邪魔してたのに……伊織のこと、教えてくれたのよ」

 ちらっと顔を見たが、幽霊だからか、半透明でよく表情は読めなかった。

 「だって、きみが危なかったから」

 「危ない?」

 どちらかと言えば、バスを止められたり看板を落とされたりして危ない目にあわされていた気はするが。

 「あの神さま、ずっときみの名前、ほしがってたんだよ」

 「……え?」

 「きみがちっちゃいときから、きみが、自分の名前をいらないって言ってたのをしってたから、ずっとほしがってたんだよ」

 「じゃあ、あんた……あたしを守るために、ずっと邪魔をしてたの!?」

 「うん」

 確かに、改名申請しなければ、神様に存在を奪われる、なんて目には合わなかったかもしれない。

 だが、まさかそのために自分のことを邪魔していたとは夢にも思っていなかった。

 「な、なんでそんなこと……」

 「ぼくの妹だから」

 「…………」

 思わぬセリフに、彼女は二の句が継げなくなっていた。

 「お父さんとお母さんが言ってたんだ。お兄ちゃんになったら、弟か妹のこと、守ってあげないといけないって」

「だから、あんた……うちの家にずっと憑りついていたって言うの……

 そんなことも知らずに、今まで散々なことを言ってしまっていた。

 「……ありがとう」

 幽霊の武士は、彼女の方を振り向くと、にっこりと笑った。

 そして、再び正面を向くと、

 「あそこだよ」

 伊織のいる、瀬戸南神社を指さした。


◇ ◇ ◇


 「彼女の望みって、なんだよ! 彼女の両親とか、鈴木さんとか、いくら彼女の名前を付けられた原因になったからって……そんな、そんなこと、彼女が望むわけないだろ!」

 伊織は、彼女と同じ姿をした存在に向って叫んでいた。

 だが、相手はバカにしたような顔で、

 「神は、人の願いを叶える存在だよ。君だって、初詣の時や受験の前なんかは、神社に来て神様に願いを叶えてもらうよう、お願いをするじゃないか」

 「彼女が、そんな事して欲しいって、言ったのかよ!」

 「言ってないさ。でもわかる。わたしは今、彼女なのだから」

そう言って、彼女と同じ顔なのに、彼女が絶対にしないような不敵な笑みを浮かべた。

 「わたしは今、佐藤絵久珍だ。わたしは、彼女の思いは、全てわたしの物だ。だから、彼女の願いは、わたしの願いなのだよ」

 存在を乗っ取られると、そんな事になるらしい。

 記憶だとか、思いだとか、そういう事も全てその人の物になるのだろう。

 「……まだ、誰かを傷つけるつもりなのか?」

 そんなことが、彼女の願いだなんて間違っても認めたくはないが、少なくともこの神エクレアにこれ以上誰かを傷つけさせるわけにはいかない。

 元に戻った時、その罪は全て、彼女が背負うことになってしまうかもしれないからだ。

 これ以上誰も傷つけないと言って欲しかったが、現実は残酷だった。

 「ああ。それが、彼女の願いだからね」

 「そんな事、させない。僕が、体を張ってでも止める」

 「…………」

 にらみ合いになったが、そこに割り込む声があった。

 「伊織!!」

 後ろから声をかけられて、慌てて振り返った。

 「エクレアちゃん?」

 パジャマ姿の絵見(仮)だった。

 「あんた……!!」

 絵見(仮)は、神エクレアを見ると、キリッと睨みつけた。

 伊織から見ると、まったく同じ姿の人間が二人睨みあっている形になっていた。

 ドッペルゲンガーと出会うと、死んでしまうというが大丈夫なのだろうか。

 と、伊織は妙な心配をしていた。

 「あんた、あたしに、名前を返せ!」

 「君が、一度くれるといったものだろう? 返せと言われても、困る」

 神エクレアは、嘲るように笑った。

 「それに、まだ君の望みが全て叶っていない」

 「あたしの望みって、なんだよ! あたしは、あんたに何も望んでなんかない!」

 「わたしは君だ。これは、君の望みなんだよ?」

 神エクレアは、絵見(仮)に向って人差し指を突き付けた。

 「君は、ふざけた理由でふざけた名前を付けた両親を許せなかった。そんな両親に、ふざけた名前をつけさせた隣人を許せなかった。こんな奴らのせいで、自分がこれまで苦労していたのだと憤っていた。だから、君の代わりにわたしは彼らに仕返ししたのだよ?」

 「だから、そんな事、あたしは頼んでない!」

 絵見(仮)は、真っ赤になって怒っていた。

 「父さんと母さんにも、鈴木さんにも、たしかにあたしはむかついていた! 仕返ししてやりたいって気持ちがあったことも、嘘じゃない! でも、あたしは、あの人達を、傷つけたくなんてなかった!!」 

 「エクレアちゃん。何を言っても無駄だよ」

 そんな彼女の前に、伊織が立った。

 「こいつは、文字通りもう一人のエクレアちゃんだ。君の中の一番奥の方にある、憎しみとか、妬みとか、そういう暗い感情を、こいつは全部そのまま持っている。君がこいつに投げつける言葉は、全部君に帰ってくる。鏡と喧嘩しているようなものだ。意味なんかない」

 そう言うと、不敵に笑った。

 「そういうのは、全部僕が受け止めてやる。僕が、君を救う、王子様なんだから」

 神エクレアはため息をつくと、

 「やっぱり、君が一番邪魔な存在だ」

 「何?」

 「彼女にとって、何よりも大切で、何よりも失いたくない存在は、君だ」

 突然そんなことを言われて、思わず絵見(仮)の方を見たが、彼女は唇を震わせて顔を真っ赤にしていた。

 「わたしはわたしの目的を果たすために、彼女の願いを全て叶えなければならない。そのためには、君が邪魔だ」

 神エクレアは、なぜか悲しそうな顔をしていた。

 「わたしは彼女だ。だから、わたしにとっても君が一番大事な存在だ。……だが、わたしはわたしのために、君を排除しなければならない」

 そう言って、神エクレアは懐から大きな包丁を取り出した。

 おそらく、あれは絵見(仮)の家の店の厨房からくすねてきたものだろう。

 よくよく見ると、包丁には血がついていた。

 あの包丁で、彼女の両親と、鈴木さんを刺したのだ。

 その刃を、伊織の方に向けてきた。

 そのまま、突き刺すつもりなのだろう。

 伊織は避けようと身構えたが、はたと気づいた。

 避けたら、後ろにいる絵見(仮)に刺さってしまう。

 神エクレアは、悲痛な表情を浮かべたまま、伊織の方に向って刃を突き立てようとしてきた。

 伊織は相手の腕を掴んで、少しでも被害を減らそうとしたが、

 「な!?」

 目の前で、刃が止まった。

 「ちょっと、あんた!」

 伊織には、何も見えていなかった。

 ただ、彼女が何も無い所に向って叫んでいるようにしか見えなかった。

 だが、絵見(仮)と神エクレアにははっきり見えていた。

 神エクレアの包丁を、半透明の体で受け止める武士の姿が。

 「この……低級の霊が!」

 神エクレアは、武士の霊を振り払おうとするが、彼は顔をしかめながらも、包丁を離そうとしなかった。

 「……ころしちゃ、だめ!」

 「……貴様!」

 神エクレアは、一歩下がると、武士に向って思いっきり包丁を振り下ろした。

 幽霊に包丁など効かないのではと思っていた絵見(仮)だったが、包丁を振るっているのは元々神だった存在だ。

 しかも、場所がその存在が祀られていた神社だ。

 たとえ人間の体であったとしても、その力は本物だったらしい。

 武士は、膝をついて倒れてしまった。

 その様子を、伊織と絵見(仮)は見ているだけしかできなかった。

 「……わたしの御守りの力で近寄れなくなるような低級の霊だと思っていたが……最後に、邪魔をしていくとは……まぁ、成仏できてよかったな」

そう言って、神エクレアは走って階段を下って行った。

 伊織は追いかけようかと思ったが、絵見(仮)を放っておくわけにもいかなかった。

 「ちょっと、あんた……!」

 「……おとうさんとおかあさんのこと、よろしくね」

 武士は、そう言って、光となって消えていった。

「……おにいちゃん……」

 絵見(仮)は、膝をついて涙を流していた。 

 伊織には何が起こっているのかわからなかったが、何者かが自分を守ってくれた、ということだけはわかった。

 それが、おそらく彼女の兄であることも。

 「……ありがとう。エクレアちゃんのお兄さん」

 目をつぶって、彼のために黙祷をした。

 「……そろそろ行かないと」

 絵見(仮)は、涙をぬぐうと、立ち上がった。

 「あのバカ神、また誰かを襲うつもりみたいだし、止めないと」

 兄のこともあってか、一回り大きくなった気がした。

 「エクレアちゃん、ところで他に刺したい人って誰がいる?」

 「……もうちょっと他にマシな聞き方無かったか?」


◇ ◇ ◇


 次の日の朝、伊織は普通に登校した。

 「おはよう。藤村さん」

 「あ……お、おはよう。伊織君」

 教室に着いた伊織はまっすぐ、菜々美の席に挨拶しにいった。

 彼女はこの前のこともあり、話しかけられてちょっと赤くなっていた。

 「藤村さん、今日の放課後、ちょっと付き合ってくれない?」

 「え……い、いいよ」

 彼女の周りにいた女の子がキャーキャー言っていたが、それには構わず席についた。

 しばらくして、担任の先生が入ってきて、出席を取り始めた。

 「今日は……佐藤と、岡田が休みか。岡田が休むのは珍しいな」

 ルウはあれで健康優良児なので、聞いた話によると今まで皆勤だったらしい。

 その後は、特に何事もなく普通に授業が進んだ。

 試験まであと1週間なので、どの先生も重要なポイントをどんどん教えてくれる。

 伊織は、休んでいる絵見(仮)とルウに後でしっかり教えてあげないといけないなと考えていた。

 授業はまじめに受けていたが、休み時間になると彼はひたすら菜々美の方を見ていた。

 たまに、彼女も見られている事に気づいていて顔を赤くしながら手を振ってきたので、彼も振り返したりしていた。

 昼休みになった時、伊織はお弁当を持って菜々美の席に行った。

 「藤村さん、一緒にお昼食べない?」

 周りからはひそひそと、「結局あっちとくっついたか」「佐藤さん可哀そう」などと声が聞こえてきていたが、伊織は気にしなかった。

 「う、うん。いいよ」

 いつも彼女は他の女子たちとお昼を食べていたが、その子たちは二人のその様子を見て、笑いながら教室を出て行った。

 いい友人達だな、と思った。

 「な、なんか二人だけで食べるの、照れるね」

 「嫌だった?」

 「ううん。嫌じゃないよ」

 そう言って恥ずかしそうにしていた。

 その後も何事もなく時間が過ぎて行った。

 そして、放課後。

 「藤村さん、行こうか」

 「う、うん」

 二人揃って教室を出た。

 そのまま校舎を出るかと思いきや、彼は階段を登り始めた。

 菜々美は不思議そうに、

 「伊織君。どこ行くの?」

 「屋上」

 「お、屋上?」

 「そう」

 疑問に思いながらも、彼女は黙って彼に着いていった。

 そして、彼は屋上に着くと自分達の他に誰もいないことを確認し、菜々美の方を向いた。

 「伊織君、こんなところで何を……?」

 「この前の返事」

 「あっ……」

 一昨日、菜々美はここで伊織に告白した。

 だが、その時。

 『返事、すぐじゃなくていいから』

 と恥ずかしがった菜々美が言ってそのまま逃げてしまったので、返事はうやむやになってしまっていた。

 その返事を今するということだった。

 「……返事、聞かせてくれる?」

 「…………」

 期待したような菜々美の顔を見て、伊織は目をつぶって息を大きく吸った。

 彼の、人生初めての告白だった。

 「僕は、ずっと王子様になりたかった。悪い奴と戦ったり、キスしてお姫様の呪いを解いたり、そんなかっこいい王子様に。お姫様みたいな彼女と出会った時、僕はそんな王子様になりたいと思ったんだ。彼女は、ずっと僕の憧れだった。名前が変わっているからとかじゃない。彼女はいじっぱりだけど本当は優しくて、可愛いところもあることを知ってる。強がっているけど、本当は誰よりも寂しがりやで泣き虫なことも知ってる。再会して随分喋り方とかが変わっていたけど、そういう所は変わってなかった。ずっとずっと、僕の知っている彼女だったんだ。だから、僕は守りたかったんだ。ただ、王子様みたいに、好きな女の子を守りたかったんだ」

 聞いていた菜々美は、気づいてしまった。

 この告白は、自分に対してしているわけでは無いのだと。

 「ま、待って! 伊織君!」

 我慢できなくなって、伊織の言葉を遮った。

 「私、あなたのために毎日お弁当作るよ? 一緒に高校に行ったら、毎日一緒に学校行って、一緒の部活に入って、一緒にご飯食べて、学校が終わったらどこかでデートしたりしたいよ! だから、だから……!」

 涙目になりながら、必死に説得しようとする菜々美だったが、

 「ごめん。僕は、君とは付き合えない」

 伊織はそんな菜々美に頭を下げた。

 「僕は、エクレアちゃんが、誰よりも、ずっと前から、好きなんだ」

 その言葉を聞いて、菜々美は泣き崩れた。

 彼女の恋が終わった瞬間だった。

 「……バカだよ。お前は」

 そんな菜々美の後にある給水塔の影からそう言って出てきたのは、絵見(仮)だった。

 彼女はこの暑い中、伊織から借りた長袖のTシャツとズボンに、手袋をつけていた。

 もう、彼女の手足はほとんど半透明になってしまっていたのだ。

 「普通、ここまで言ってくれる女の子を振るか? バカだろ」

 彼女は最初からこの屋上に隠れていて、伊織の告白を聞いていたのだった。

 「しかも料理は上手だし、性格はいい、人気者だし、リーダーシップもある」

 「確かに」

 伊織はうんうん頷いた。

 そんな様子を見て絵見(仮)はため息をついた。

 「しかも、お前にべた惚れだし」

 「正直もったいないと思う。でも、関係無いよ」

 ちょっと本音が漏れていたが、彼はきっぱりと言った。

 「たとえ料理ができなくても、性格が悪くても、人気が無くても、協調性が無くても、素直じゃなくても、いじっぱりでも、すぐ暴力ふるっても、時々めんどくさくても、僕は君が好きなんだ」

 「お前そこまで思ってたのかよ」

 さすがに顔をしかめた絵見(仮)だった。

 「あと、あたし別にまったく料理できないわけじゃないからな。父さんと母さんに昔教わったから、お菓子とか作れるからな」

 それを聞いて、伊織は笑顔で、

 「じゃあ、今度作ってきてよ。君の作った お菓子、食べてみたい」

 「……別に、いいけど」

 絵見(仮)はため息をつきながら、ちょっと顔を赤くした。

 その時、ガタン、と後ろで音がした。

 あわてて後ろを振り向いたら、神エクレアがちょうど扉を開けたところだった。

 「……まったく、やってくれたね」

 神エクレアはため息をついていた。

 そんな様子を見て伊織はにやりと笑って、

 「これで、藤村さんを襲う理由、無くなっただろ?」

 「……えっ!?」

 呆然と二人のやり取りを聞いていた菜々美は、いきなり自分の名前を呼ばれて驚いた。

 「まったく……今日一日、ずっと君が張り付いていたから、彼女を襲うことができなかった上に……こんなことまでしてくれるとは」

 「ど、どういうこと? なんで、佐藤さんが? 私を?」

 菜々美には、神エクレアの方が佐藤絵久珍に見えて、絵見(仮)は誰だかわからない人物に見えているのだった。

 「全部あたしのせいだよ」

 絵見(仮)は菜々美に頭を下げた。

 「ごめん。藤村さん。あたしのせいで、あなたを危ない目に合わせるところだった」

 「あ、あなたは……昨日の……?」

「あたしは、あなたに嫉妬してた。伊織と仲良くて、部活がいっしょで、素直に告白できて。……伊織を、取られちゃうと思った……そんなあたしの嫉妬心を、この神様も持っている。あたしが、両親と鈴木さんの次に何かをしようと考えるのは、間違いなくあなただった」

 昨晩、このことを絵見(仮)は恥ずかしがりながらもはっきりと伊織に伝えた。

 伊織はしばらく考えて、ルウと相談した後、この作戦を思いついた。

 学校にいる間は伊織がしっかりと菜々美を見張って神エクレアに手出しさせないようにし、彼女が下校する前に、菜々美の告白を断ることで絵見(仮)の願い自体を無くしてしまおうということだったのだ。

「それで、どうするつもりだい?」

 神エクレアは相変わらず嘲るように笑っていた。

 「彼女の願いが全て無くなったことで、わたしは自由になる。そうすれば、わたしはわたしの目的を達成することができるわけだが……君たちは、これからわたしをどうする気だい? またあのオカルトバカにでも相談するかい?」

 「そう。ここで、私の出番というわけだ!」

 オカルトバカこと、ルウが扉を開けて颯爽と現れた。


◇ ◇ ◇ 


 「よかった。間に合わないかと思ったよ」

伊織は彼女の姿を見て、ほっと胸をなでおろしていた。

 「君が、わたしを止めるのかい?」

 「ああ。オカルトバカにしかできないこともあるのだよ」

 ルウはにやりと笑った。

 「私は、今日一日、あなたの名前を探していた。今朝の時点でも、プリンセスが藤村さんの告白を断ることはできたが、そうしなかったのにはわけがある」

 そう、今日彼女は学校を休んで、図書館に行き、ずっと瀬戸南神社の神の名前を探していたのだった。

 もし、伊織が今朝すぐに菜々美の告白を断っていたとしたら、彼女は安全だが、そうした場合、エクレアの願いが全て達成したことになってしまっていたら、神エクレアがどのような事をするのか読めなかった。

 だから、神エクレアを封じるために、ルウには今日一日動いてもらっていたのだった。

 「あなたの名前が失われたから、『佐藤絵久珍』という名前を奪うことによって、存在を乗っ取ることができた。だが、あなたの本来の名前さえ取り戻せば、あなたは自身の存在へと戻らないといけなくなるはずだ」

 そうすれば、必然的に『佐藤絵久珍』の存在を取り戻せるという話だった。

 「倉庫に眠っているような古い資料やら、昔の新聞やら……司書の方にも無理を言って手伝ってもらったよ」

 「ふーん……それで、見つかったのかい? わたしの名前は?」

 神エクレアは、見つかるわけない、という顔をしていた。

 名前が失われたのは、数百年前のことらしいから、確かにその当時の資料などほとんど残っていないだろう。

 「いや、あなたの名前は見つからなかった。……現存する資料には、もうあなたの名前は残っていなかったんだ」

 絵見(仮)は、絶望的な顔になり、反対に神エクレアは勝ち誇った顔になっていた。

 そんな二人の顔を見て、ルウはにやりと笑った。

 「だが、私はもう一つの策を用意していた」

 そう言って、鞄から1枚の紙を取り出した

 その紙には『命名書』と書かれていた。

 「まさか、君がわたしに名前を付けようと言うのかい? ただの人間が、神に名前を付けるつもりかい?」

 「これは、ただの命名書じゃない。命名で有名な神社に行って、無理を言ってあなたの名前を付けてもらったんだ」

 さすがに、神エクレアの顔も凍り付いた。

神社に名前を付けてもらうということは、つまり神が名前を付けるということだ。

ただの人が付けた名前なら、神を縛り付けるような効果は出ないだろうが、神が付けた名前なら話は違ってくる。

 おそらく、再び神エクレアを、ただの神社の神様へと戻してくれるだろうということだった。

 「あなたの名前は、これから『瀬南』だ」

 瀬戸南から取って、『せな』ということらしい。

 命名書には、『命名 瀬南』、『父 姫野伊織』、『母 絵久珍』と書かれていた。

 「なんで僕らの子供みたいになってんの……」

 「そこは許してくれ。両親の名前を教えてくれと言われたので、咄嗟にね」

 絶対この女の悪ふざけなのだが、そこは言うまい。

 名前を与えることで、神は再び縛られる。

 気づけば、神エクレアの体が光包まれていた。

 光は、絵見(仮)とつながっていて、まるで神エクレアに奪われていた存在が、彼女に戻っていくような、そんな光だった。

 「まさか、そんな方法で私を縛るとはな。……君達の勝ちだよ」

 負けを認めた神エクレアは自嘲気味に笑っていた。

 「神様!」

 絵見(仮)はそんな神エクレアに頭を下げていた。

 「ごめんなさい、神様! あたしの名前、いらなくなんてなかった! あたしにとっては、ずっと大嫌いで、捨てたいと思っていたけど……だけど、たとえ名前が変わっても、あたしは、自分が絵久珍って名前だったこと、後悔したりしないから!」

 彼女は顔を上げると、笑いながら、

 「だってあたし、今伊織にエクレアちゃんって呼ばれて、嬉しいから」

 それを聞いた神エクレアは、くすくす笑っていた。

 「君は、昔もそう言ったよ」

 「え?」

 10年前。

 「じゃあ、もし君がその名前を捨てる時が来たら、わたしに名前をくれないか?」

 神は、エクレアにそう尋ねた。

 だが、エクレアはうんうん唸りながら考えて、

 「……やっぱりダメ」

 と、はっきり断った。

 「え?」

 「あたしにとっては、だいじななまえだから。王子さまにエクレアちゃんってよばれて、うれしいから」

 そのことを思い出して、神エクレアは……いや、瀬南は、笑いながら光となって消えていった。

 神が消えた場所には、例の御守りが残っていた。

 エクレアはそれを拾った後、手袋を取って、長袖のTシャツの腕をまくった。

 そこには、半透明ではない、彼女の手がちゃんとあった。

 「あー終わった」

 伊織は、脱力して座り込んだ。

 エクレアは、他の3人の方を向くと。

 「伊織。岡田さん。藤村さん。……ごめんなさい。あたしのせいで、とんでもない迷惑をかけちゃって」

 と言って、頭を下げた。

 伊織は軽く手を上げ笑い、ルウは満足そうにふんぞり返っていた。

 一方で菜々美は、まだ何が起こったのかよくわかっていないようだった。

 彼女にも、そのうちしっかりと説明しないといけなさそうだった。

 伊織がそう思っていたところ、ルウが近づいてきて、こっそりと耳打ちした。

 「あとで、命名代の8千円払ってくれないかな? 命名してもらうのにあんなにお金かかるなんと思ってなかったから……」

 エクレアをようやく取り戻せたのだ。

 それくらいは、安いものだった。

 

◇ ◇ ◇


 「姫野君」

 菜々美が話しかけてきたが、呼び方が伊織君から姫野君になっていた。

 「正直何が起こっているのか、よくわからなかったんだけど……あなたが今日一日、私とずっと一緒にいたのは、さっきの消えた佐藤さんから、守るためだったってこと?」

 「あー……うん」

 「ふーん……」

 何か考えている様子だったが、何か決心したように顔を上げ、

 「一発だけ。殴らせて」

 これは、仕方ない。

 さっきの8千円と同じ、必要経費というやつだ。

 「……どうぞ」

 彼女は、息をゆっくりと吸うと、キッとこちらをにらみつけて、伊織の顔めがけて思いっきり拳を叩き込んだ。

 普段からよくエクレアに殴られたり蹴られたりしているが、どう考えても今まで受けたパンチの中で一番痛かった。

 肉体が、ではなく心が。


◇ ◇ ◇


 次の日の放課後。

 まだ面倒なことはいくつか残っているが、ひとまずやらないといけない事があった。

 そう、試験勉強である。

 伊織とエクレアとルウは、オカルト研の部室で勉強をしていた。

 特にエクレアはこの時期に2日も連続で休んでしまったので、先生が教えてくれた重要なポイントを、伊織から聞かなければならなかったのだ。

 「そういえば、警察の捜査とか、どうなってるんだい? このままだと、稲妻の子が捕まるんじゃないかと心配しているんだけど」

 途中、勉強に飽きたのか、ルウは伊織に尋ねた。

 「それが、少なくともエクレアちゃんは捕まらずにすみそうなんだ」

 「はい? どういうことだい?」

 「なんか、エクレアちゃんの両親も、鈴木さんも、刺された時のことを忘れちゃって、警察も、刺された時の供述内容を完全に忘れちゃってるみたいで、事故の線で解決ってことになるんじゃないかなー」

 ルウは呆れた顔で、

 「なんだそれは」

 伊織は肩をすくめて、

 「神様のいたずらじゃないかな。色んな意味で」

 神様に戻った瀬南が、エクレアに容疑がかからないよう、神の力で色々裏工作をしてくれたのだろう。

 まったく、あまりにもご都合主義だ。

 「そういえば、その神自身のやりたかったことって、結局わかったの?」

 あの神は、エクレアの願いを全て叶えた後、自分の目的を果たすつもりだと言っていた。

 だが、結局その目的は謎のままだった。

 「ああ、これはただの想像だが……復讐なんじゃないだろうか」

 「復讐?」

 「以前言ったとは思うが、あの神社は数百年前、別の地方との戦いの途中、戦火で燃えてしまった。再建はされたものの、名前を失ってしまった。人間となって、その別の地方の神社を燃やしてしまいたいと思っても、無理は無いのかもしれない。もし神エクレアを放置していたら、別の神社が燃やされていたかもね」

 エクレアの体で、神社に火をつけるとはぞっとしない話だった。

 「あるいは、稲妻の子に名前の大事さを思い出して欲しかった。とかかもしれないけどね」

 「そんなバカな」

 黙って聞いていたエクレアは即座に否定した。

 「いくら神様でも、あいつがあたしのためにそこまでするか?」

 「どうだろう。そういう前向きな考え方の方が、みんな幸せになれるかもしれないよ」

 エクレアはまだ納得がいっていないようだったが、ルウは笑って、

 「そのうち、神社に行って聞いてみたらいいんじゃないかな。彼……彼女? どっちかはわからないけど、瀬南は答えてくれるかもしれないよ」

 ちなみに命名書は、ルウが神社の社にこっそり忍び込んで貼り付けてきた。

 神に勝手に名前を付けたりと、本当に罰当たりなオカルトバカである。

「神といえば……藤村さんには、ちゃんと説明したのかい?」

 「したけど……納得してくれたかはわからないな。とりあえず、普通に話してはくれてるけど」

 彼女は一発殴ったことですっきりしたのか、特に何も言ってこなかった。

 ただ、以前に比べれば距離を感じる。

 今後、部活で顔を合わせづらいが、これは仕方ないことだ。

 悪いのは、自分である。

 伊織はちょっと寂しさを感じていた。

 「そういえば、稲妻の子は私には嫉妬しなかったんだね」

 エクレアは勉強の手をとめ、怪訝な顔でルウを見た。

 「は? あたしがあなたに何を嫉妬するって?」

 「ほら、私とプリンセスはとても仲が良いだろう? 藤村さんのように、彼を取られてしまうと思わなかったのかい?」

 そう、むかつく顔で笑いながら問いかけてくるルウに対して、

 「無いわ」

 「無いわ」

 伊織とエクレアは、真顔で同時に否定した。

 それを聞いて、ルウは悲しそうな顔で、

 「……あの、私もさすがに傷つくんだよ? もしかしたら、そういう関係になっていておかしくないじゃないか」

 二人は顔を見合わせたが、再びルウの方を向くと、

 「無いです」

 「無いでしょ」

 「びええええええん!!!」

 完全否定されたルウは、またしても泣き出してしまった。

 わんわんと泣くルウを見て、エクレアはなんとかしろという顔で伊織を見た。

 伊織は肩をすくめて、泣いているルウの顔を上げさせ、まっすぐ彼女の顔を見ながら、

 「ルウ。君は、ずっと僕の大事な友達でいてくれ」

 伊織は、彼女を初めて名前で呼んだ。

 「……ふ、ふん。そこまで言うのなら、仕方なく、ずっと友達でいてあげるんだからねっ」

 だから、ツンデレとかいいです。

 伊織は残念ながら、友人にツンデレは求めていなかった。


◇ ◇ ◇


 2週間後。

 テスト前のドタバタのせいで勉強する期間が短くなってしまったが、なんとか乗り切り、無事全てのテストが返却される頃になってようやく一息つくことができた。

 伊織もエクレアもいつも通りの成績だったが、ルウは二人が必死に教えたことにより、今まで下から10位ぐらいだった成績が大幅に伸び、学年で真ん中ぐらいの成績になっていた。

 おかげで携帯を買ってもらえたと喜んで報告してきた。

 だが連絡する相手が家族以外では伊織とエクレアだけらしく頻繁に連絡してくるのがちょっとうざかった。

 「そういえば、改名の申請、通ったから」

 「おお、良かった」

 そんな日の放課後、二人は下校中だった。

 終業式が終わって、これから夏休みだ。

 しかし、受験を間近に控えている中学三年生にとって、夏休みなどあってないようなものだ。

 これから勉強漬けの毎日が待っていると思うとなかなか憂鬱な気分にさせられていた伊織だったが、そんな中、彼女の改名ができたことは大いに喜ばしいニュースだった。

 「学校にはもう改名したこと言ったけど、時期が時期だし、卒業するまでは通名ってことで『絵久珍』で通すことにした」

 「まぁ、僕はずっとエクレアちゃんって呼ぶけどね」

 「はいはい」

 「そういえば、ご両親はなんて言ってた?」

 エクレア改め絵見の両親は、まだ入院中だがもうじき退院できるそうだ。

 「すごく残念そうな顔してた。でも、兄がもう成仏したって伝えて、絵久珍って名前だったこと、忘れないってちゃんと言ったら、納得してくれたみたい」

 「そっかー。よかった」

 伊織もそこは気にしていたので、胸をなでおろした。

 「そういえば、ルウが跡継ぎを見つけたとか言って騒いでたけど」

 いつの間にか、彼女もルウの事を名前で呼ぶようになっていた。

 「ああ。ついにルウに翔の存在がばれてしまって。何とかオカルト研の跡継ぎにしたいらしい」

 伊織の妹の翔は相変わらず影で幽霊関係の活動をしているそうだが、それがついにルウの耳に入ってしまったらしい。

 おまけにそれが伊織の妹だとばれて、熱烈な勧誘をしているそうだ。

 意外にも翔も満更ではないらしく、オカルト研に入部するらしい。

 「お兄ちゃんとしては、怪しげなことはあんまりして欲しくないんだけどなー」

 「怪しげな事って。ルウはお前の友達だろうが」

 「それはそれ。これはこれ」

 そんな話をしながら分かれ道の前に来たところで、二人は足を止めた。

 もうすぐ、絵見の家だ。

 伊織の家はもう少し歩いたところにある。

 「はい、これ」

 「ん?」

 絵見が渡したのは、ラッピングされた包み紙だった。

 「約束しただろ。お菓子作ってくるって」

 伊織は無言で袋を開け、中から可愛らしいクッキーを取り出した。

 「お前、普通その場で開けるか?」

 絵見は呆れていたが、伊織はそれには構わずしげしげとクッキーを眺めた後、一思いに口に入れた。

 しばらく咀嚼していたが、飲み込むととびっきりの笑顔で、

 「うまい」

 「あっそ」

 「世界一うまい」

 「お世辞はいいから」

 「エクレアちゃんが僕のために作ってくれたクッキーだよ!? 宇宙一うまいに決まってるじゃん!!」

 「……まぁ、よろこんでくれたならいいけどさ」

 そう言って、プイと反対を向いて、そのまま家の方へ歩いて行こうとした。

 が、その背中に向って伊織は、

 「ところでエクレアちゃん。告白の返事まだ聞いてないんだけど」

 「…………」

 彼女はバツが悪そうな顔をしながら振り返った。

 「……言わないとだめか?」

 「ダメに決まってるでしょ。人に一世一代の告白させといて」

 「……どうしても?」

 「どうしても。ほらほら。カモーン」

 彼女は大きなため息をつくと、顔を真っ赤にしながら伊織の目の前まで歩いてきた。

 そして、息を大きく吸うと、

 「あんたは、ずっとあたしの王子様でいてください」

 そう、はっきりと言った。

 王子様になりたかった伊織にとっては、これ以上ないぐらいの返事だった。

 伊織は笑って、彼女の手を取ってうやうやしく頭を下げた。

 「よろこんで。エクレア姫」

 「……バーカ」

 これは、王子様とお姫様が出会って、幸せになる。

 そんなありふれた物語だ。


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