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人形に求められる者

休み明け、マカは青空の下、学校の屋上で一人立っていた。


そこへ一人の女子生徒が訪れる。


「あら、マカ先輩。おはようございます」


現れたのはリリスだった。


マカは振り返り、リリスと向かい合った。


「お前、どういう人形を作ったんだ?」


「さて、どの人形のことでしょう?」


マカは例の彼女の名前を告げた。


「ああ、彼女に差し上げた人形ですか。アレはわたしが作った物です」


「魔女の死体を利用して、か?」


「正確には魂をも、ですけど」


険しい表情を浮かべるマカと、楽しそうに微笑みを浮かべるリリス。


「マカ先輩は魔女のことをどこまでご存じで?」


「大したことは知らん。同属のことだけで手いっぱいなんでな」


「そうですか。ではあの人形と魔女のことをご説明しましょうか」


リリスが作った人形は、魔女の死体を材料にして作った。


さまざまな術を習得した魔力を持つ肉体を、強力な魔力を持つリリスが人形にすることで、そこへ魂を込めることができる。


魂はしかし、元の死体の持ち主のしか込められない。


だが、人形の持ち主がこう願えば、それは変わる。


―人形になりたい―


という願いを持ち主が持てば、人形の魂は持ち主の肉体に宿り、代わりに人形の体には持ち主の魂が宿る。


「…問題はその後だ。肉体の寿命がきた時、魔女の魂はどうなる?」


「ただ繰り返すだけです。元々人形に魂を宿らせることのできるのは、少なからず魔力を持つモノ―今の彼女も肉体が限界になれば、また人形に戻るだけです」


そうして望みと魔力を持つ持ち主を待つのか。


…永久に。


リリスという存在がある限り。


マカは眼を閉じ、ミナの言葉を思い出した。


彼女の家からの帰り道、ミナは言っていた。


彼女の口癖を。


「わたしは美しい人形になりたいんです」


人形の美しさに魅了されていた彼女。


いつも人形を作りながら、ぼんやりと口癖を繰り返していた。


そんな彼女だからこそ、リリスからあの人形を受け取ってしまったのだ。


ミナが知っている彼女の魂は、あの人形に宿っている。


…彼女の部屋ではじめてあの人形を見た時、マカの眼には違ったモノが見えた。


人形を持つ彼女の姿が、人形に持たれている彼女の姿に見えたのだ。


美しい人形が人間として、彼女が人形として映った光景に、マカの人ならざる血が一瞬騒いでしまった。


そして悟ってしまった。


彼女の魂を救う方法は、無いのだと。


魔力のこもった人形を壊せば、彼女の魂をも傷付けてしまう。


「…なら、人形に宿らされた彼女の魂はどうなる?」


「かの人形が無事である限り、彼女の魂も無事ですよ」


「それはつまり…もう二度と、彼女を戻すことはできないということか?」


「ええ、だって彼女もそれを望んではいないでしょうから」


グっと唇を噛みしめる。


確かに彼女は人形のようになりたいと願ってはいただろう。


しかしそれが現実で起こりうるなんて、思わなかったはずだ。


「それで、お前達は何をするつもりだ? 輪廻転生の輪から外れ、闇の世界に堕ちてまで何を願う?」


「そんな大したことではないですよ。あなた方と同じく、最近では魔力を持つ者が生まれにくくなりましてね」


リリスは僅かに眼を細め、声を低めた。


「こちらも存亡の危機なんです。それをくい止める為の、処置だと思ってください」


確かにマカの同属も、最近では能力が生まれにくくなっていた。


それは魔女達も同じだったようだ。


「まあもっとも」


突如リリスは明るい笑みを浮かべた。


「マカ先輩がこちらへ来てくれるならば、それもすぐに解消できそうですが」


「寝言は寝てから言え。血族の次期当主である私に何を言う」


マカは嫌悪を顔に滲ませながら、リリスを睨んだ。


「それは残念。でも気持ちが変わりましたら、いつでもご連絡ください。いつまでもお待ちしています」


リリスはスカートを両手で握り、少し上げた。


そして片足を一歩後ろに下げ、恭しく頭を下げた。


「魔女の一族はいつでもあなたを受け入れますわ。マカ」


「ハッ。いつまでその戯言を抜かせるか、楽しみだな」


挑発的な視線をリリスに向け、マカは嘲笑った。



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