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約束の日、私服姿のマカとミナは約束通り彼女の家へ訪れていた。


「何と言うか…古い洋館って感じだね」


「そうだよねぇ。あたしも最初来た時はビックリしたよ」


そう言いながらも、ミナは出されたビスケットをボリボリと頬張っていた。


彼女の家はマカが言った通り、古い洋館だった。


内装も洋風で、普段和風で過ごしているマカはちょっと落ち着かない。


リビングに通された二人だったが、壁際にある棚には数多くのアンティークドールが飾られている。


「…まるで人形邸だな」


マカはミナに聞こえないように、低く小さく呟いた。


「お待たせしました」


彼女は一体のアンティークドールを持って、リビングに戻ってきた。


人形の制作部屋から持ってきたアンティークドールは、マロンブラウンの緩やかなパーマに金の眼が特徴的だった。


白いドレスに身を包み、無表情の人形は真っ直ぐにマカとミナに向かう。


テーブルの上に置かれた人形に、マカは一瞬、背筋に寒気が走った。


「…?」


しかしその原因が分からない。


眼を細めながら人形を見るも、特に何かを感じるわけじゃない。


「わぁ、キレイなお人形。腕、上げたんじゃない?」


「ありがとうございます、ミナ先輩」


ミナは素直に感動して、人形を見ている。


「マカ先輩はどう思われます?」


「う…ん、スゴイと思うよ。高校生のレベルを超えていると思うわ」


マカは作り笑いを浮かべ、彼女を見る。


「ありがとうございます! マカ先輩にそう言ってもらえると、本当に嬉しいです」


彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。


「今度のコンクールで、将来のことを決めようと思っているんです。結果が良ければ、人形師になる為に留学するつもりなんです」


「スッゴイなぁ! どこに留学するの?」


「はい、イギリスに行くつもりなんです」


ミナと彼女の会話を黙って聞いていたマカは、ふと引っかかった。


「…ねぇ、もしかしてだけど、二年のリリスってコと知り合い?」


「ええ、人形作る時にアドバイスを頂いたりしています。マカ先輩、リリスをご存じなんですか?」


「まあ…ね。そっか。知り合いなんだ」


マカは紅茶を飲みながら、彼女を観察した。


特にどこかおかしい雰囲気はない。


同属達のような、闇の匂いもしない。


だけどどことなく、引っかかるのだ。


「あっ、ねぇ。あのお人形、マカに見せてあげたら?」


人形の話題で盛り上がっていたが、ミナがふとマカの方を見た。


「このコ、以前とってもキレイな人形を貰ったんだって。マカも見せてもらったら良いよ」


「それもアンティークドールなの?」


「えっええ」


だが彼女の口調が歯切れ悪くなる。


何となく、気まずい空気になる。


しかしミナは気づかぬようで、はしゃぎながら話を続ける。


「ねぇ、あのお人形、まだあるの?」


「ありますけど…そうですね、良いですよ」


そう言って彼女は立ち上がった。


「わたしの部屋に置いてあるんです。どうぞ、こちらです」


2人は案内され、彼女の自室に入った。


寝室だが、そこにも数多くの人形があった。


「なっ何か人形に見られているようで、落ち着かなくない?」


マカは数多くの人形の眼から逃れるように、ミナの背後に隠れた。


「マカったら、お人形さんの眼が怖いのぉ? 可愛い♪」


「…何にも知らないって良いよな」


「ん? 何か言った?」


「別に」


ミナにはり付いた笑みを見せながら、マカはただならぬ気配に身を竦めた。


「こちらです。マカ先輩」


彼女は一体のアンティークドールをその手に持ちながら、こちらへ向かって来た。


その人形は、金色の巻き髪に深緑色の丸く大きな瞳が印象的で、紫色のシルクのドレスを身にまとっていた。


彼女とアンティークドールを眼に映した瞬間、マカの眼が一瞬赤く染まった。


「っ!?」


しかしすぐに両目を強く閉じ、再び開いた時には赤い色は引いていた。


「ねっ、マカ。すっごく綺麗な人形でしょう?」


「えっええ、そうね。それ、どうしたの?」


「いただいたんです。友人から」


彼女は嬉しそうに、人形を見つめる。


「わたし、ずっと欲しかったので、すっごく嬉しかった」


うっとりと語る彼女の眼は、手元の人形に向いているものの、その心は別のところにある。


マカはギリッと歯を噛んだ後、笑みを浮かべた。


「人形、見せてくれてありがとう。リビングに戻りましょうよ。お土産にケーキ買ってきたの」


「あっ、そうだったんだ! 一緒に食べよう?」


「わぁ、嬉しいです。ケーキ、大好きなので」


彼女は人形をベッドサイドのテーブルに置くと、普通の笑みを浮かべた。


「じゃあお礼に美味しい紅茶を淹れます。わたし、紅茶を淹れるの得意なんです」


そして三人は部屋を出た。


その後、リビングではたわいのない話で盛り上がり、夕方になって二人は洋館を出た。


洋館を出た後、ミナを先に行かせ、マカは改めて彼女と向き合った。


「さっきのアンティークドールのことなんだけど…」


「ああ、制作中のですか?」


「―誤魔化すな」


マカの両目が赤く染まり、低い声を聞いても、彼女の笑みは崩れなかった。


「お前が寝室に飾っていたあの人形のことだ。アレはリリスにもらったな?」


「よくお分かりになりましたね」


彼女は口元に手をやり、くすくすと笑った。


「お前…あの人形だな?」


「ええ、そうです」


あっさりと肯定したことに、マカの眼がつり上がる。


「言っておきますが、コレは契約だったのです。彼女はわたしになりたくて、わたしは彼女になりたかった。お互い、合意の上での取り引きだったんです」


「ほざけ。今の状況を、彼女が納得していると思っているのか?」


「しているんじゃないですか? だって彼女自身の望みだったんですもの」


彼女のふてぶてしい態度に、マカは更に何か言おうとした。


しかし何度か口を開閉した後、深く息を吐いた。


「…まっ、今となっては全て遅いことか。しかし…」


改めて赤い両目で彼女を睨み付ける。


「貴様ら、同類を増やす為に動きそうだな。今のうちに狩っておくか?」


そう言ったマカの腕に、黒き模様が浮かぶ。


「―止めた方が良いと思いますよ? まだ人の眼がありますし、ミナ先輩も待っていますよ?」


ミナという言葉に、マカの眼の光が揺らぐ。


「…まあ自分で自分のことをフォローするつもりはありませんが、あえて派手に動くことはしません。あくまでも望む相手がいないと、我々とて動けないんですよ」


「ほう…。なら望む相手がいるのならば、活動的になると言うわけか」


「活発的にはなりませんよ。何せ我々には時間が必要ですから」


彼女は肩を竦め、困惑の表情を浮かべる。


「―それが我々と、創造主の契約なんです」


「リリスとか…。どんな契約内容なんだ?」


「それは直接ご本人にお尋ねください。きっと彼女はあなたが相手ならば、答えてくれるでしょう」


マカはしばし考えた後、模様を消した。


そして眼を閉じ、赤い色を引かせた。


「…だな。それじゃあ今日はここまでにしておこう」


「はい、お気を付けてお帰りください」


彼女は頭を下げ、マカを見送った。


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