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謎の同行者


 03 謎の同行者



 三日目


 その日から、ルーエイに対する周囲の目が変わった。


 昨日までは、どこで何をしていようと誰も気にも留めずにいたものが、一夜明けるとそうではなくなっていた。

 とりわけフリルは、お菓子を分けてあげたり、屋根の上ではなく荷馬車の中に乗るよう誘ったり、何かにつけては彼に

 声をかけ、事ある毎に彼の意見を聞きたがるなど、持ち前の屈託の無さを発揮して、昨日までとはまるで別人のように

 慣れ親しんでいた。


 彼女の目には救世主、ヒーローに映る彼も、反面、他の者達から見れば、以前にも増して怪しい人物に思えてならなく

 なる。

 下僕かと思いきや、移動中は荷馬車の屋根の上で一人で寝転がって何もせず、宿屋に着いても馬の世話も馬車の補修も

 せずに、すぐにどこかへ姿を消してしまう。

 他の人の仕事を手伝いもしなければ、誰かの役に立ちそうな行動も配慮もない。

 全くと言っていいほど、集団行動というものを理解していないのだ。

 そんな、どこの馬の骨かも分からぬ山窩を、そうそう簡単には見直せないのである。


 「なんか胡散臭ぇな」

 車列を先導する馬上のセランは、併走するキオードに率直な感想を述べた。


 「ヤツは、自分が行ったら賊が勝手に逃げたみたいに言ってたけどよ、そんな都合のいい話があるか?

  顔見ただけで尻尾を巻いて逃げ出すようなへっぴり腰な奴が、盗賊なんぞやるかっての。

  せっかく危険な思いをして掴んだ獲物は、プライドに懸けても譲らねぇもんだろ、普通はよ。

  あのストロガノフ野郎が何かしたに違いねぇんだ。

  どう思うよ、お前」

 「ヤツは仲間を救ったんだぞ」

 「結果的にはだろ。

  どうせ何かの偶然だ」

 「・・・胡散臭いのは認める。

  が、問い詰めても何も答えんだろう」

 「昨日も昨日で、宿に着くなり勝手に酒場行きやがって。

  金なんか持ってるふうでもねぇのによ。

  誰かの金くすねてんじゃねぇか、賊から巻き上げたのかもな」

 「分からん。

  だが、気をつけて見ておいた方がいいだろう。

  何をするか全く読めんヤツだ」

 「そうだな、俺もそう思う。

  ロワールのヤツにも伝えておくか。

  一番近くにいるのはあいつだからな、気に食わなかったらいつでもぶった斬っていいぜって言っとくさ」


 傭兵達は、ルーエイについて疑心暗鬼に陥っていた。

 それぞれ口には出さなかったものの、自分達とは異質の、それでいてある程度の能力を持った者が一緒にいる可能性が

 否定出来なくなった事を、認識せざるを得なくなった。

 彼等は、そんな臭いを嗅ぎ分ける動物的勘を持っている。


 ☆


 荷馬車の中でのフリルは、口を開けばルーエイの事ばかり話題にしていた。

 意識しているのかどうか、彼の評判を上げようと躍起になっているようにも見える。


 自分は彼がいい人だと知っている、でも、他の人達はまだそれを知らない。

 未だに、彼を何の役にも立たないただの金魚の糞だと思っている。

 昨日までの自分もそうだったのだから、それは無理からぬ事でもある。

 少しでも早く、その思い込みを払拭したい。

 まずは、ペルスネージュから教化せんとする。


 「たぶん、あの人はすっごい強い人なんだよ」

 「なんで?」

 「だって、たった一人で盗賊から私を助けてくれたんだよ。

  そんな勇気、普通の人にはないって」

 「どうやって?」

 「よく分かんないけど、たぶんやっつけたんだよ。

  だって、何人か倒れてたもん」

 「どうやって?」

 「分かんない、気を失ってたから」

 「・・・・眉唾」

 「そんな事ないって、絶対彼がやっつけたんだって。

  ロワールさんはどう思います?」

 「金でも渡したんじゃないのか」

 「そ、そんなバカな・・・」


 ロワールは、素直なフリルとは違う観察をしていた。

 「冗談だよ。

  だが、私には、あの男がそれほど優秀な人物とはとても思えない」

 「なんでですか?」

 「体つきは身軽で機敏に動けそうだが、それが戦闘力に結びつくかとなると話は別だ。

  剣術の訓練を受けているようにも見えないし、なにより戦闘に必要な闘争心、戦意というものが全く感じられない。

  一概に好戦的だから強いとは限らないが、気概は必要だ。

  セランはあの通りだが、口先だけの木偶の坊ではない。

  ちゃんと基本が出来ている上に、周囲の状況分析が早く、戦局に応じた戦い方が出来る。

  オラージュはただ偉そうにしているだけだ。

  体格と腕力に頼っているだけでは物の役には立たん。

  確かに、普段は大人しくしていても、いざとなったら高い能力を発揮する者はいる。

  キオード・フェルブランはその典型だろう、恐らく。

  しかし、少なくとも私には、あのルーエイがそういうタイプの男には見えない。

  気概もないし意気込みもない。

  毒を盛るような知能的な人間とも思えないしな。

  要するに、あれはただの怠け者だ。

  無気力で自堕落なただの浮浪者だ」


 その評価は、フリルの予想を超える辛辣なものだった。

 「ず、ずいぶんバッサリ切り捨てますね・・。

  ああいうのは嫌いですか」

 「嫌いだね。

  最悪だ。

  何がしたくて生きているのか分からない。

  許されるなら、今すぐにでもあの首を斬り落としてやりたいくらいだ」

 「や、やめて下さいよ、そんな物騒な。

  ロワールさんが言うと冗談に聞こえないから怖いですよ」

 「今のは冗談ではないよ。

  私の本心だ」

 「きっと後悔しますよ、そんな事したら。

  あの人は絶対ロワールさんが考えるような人じゃないですから。

  恥ずかしがり屋さんなんですよ、たぶん」

 「そんなにあの男が気になるのか?」

 「いえ、気になるというか、なんというか・・・」


 「フリちゃん、惚れたな」

 「い、いや、違うよネージュちゃん。

  まだそんなんじゃないよ」

 「まだとか言ってる、ププ」

 「ププってなによ、違うって」

 「赤くなってる」

 「なってない!」


 ロワールは、妙に浮き足立つフリルの事も気に入らなかった。

 自分に挑戦すると息巻いていた者が、ああも簡単に盗賊に拉致されてしまっていいのか。

 しかも、人に助けてもらって舞い上がって、さも嬉しそうに触れ回るとは。

 戦士としてのプライドはどこへ行った。

 それを彼女は自分の中でどう整合させているのだろう。

 そこで、ちょっと意地悪な質問を投げかけてみた。


 「お前はどう思っているんだ、昨日の襲撃を」

 「襲撃、ですか?」

 「我々が街道を外れたら賊が襲ってきた・・・、出来過ぎじゃないか」

 「偶然じゃないですか?

  盗賊が獲物を待って潜んでいる所へ、運悪く私達が通りがかってしまっただけですよ。

  他に何かあるんですか?」


 「果たして、本当にただの偶然なのか。

  占い師と賊が示し合わせていたのではないか。

  あるいは、その両方が別の誰かの指図を受けていた可能性もあるとは思わないのか?」

 「そんな事ってあるんですか?

  だって、占い師は王都にいるんですよ。

  こんな地方の盗賊とどうやって連絡を取り合ったりするんですか?」

 「不可能ではないさ。

  誰か別人を間に介していれば何も問題にはならない。

  姫様の命を狙う者が占い師を抱き込んだとしても不思議ではないし、盗賊がずっと陰で我々の行動を監視し、機会を

  窺っていたとすれば合点もいく」


 「でも、盗賊の狙いは金品だって言ってたような気がするんですよ。

  はっきりとは憶えてないんですけど・・・。

  だったら、その考えは間違ってる事になりますね」

 「狙いは金品でも、強奪する過程で姫様を害する事も出来るだろう。

  目的が達せられれば手段は問わない。

  よくある事だし、そもそも目撃者は全て始末するのが盗賊のやり方だ」

 「考え過ぎじゃないですか。

  タイミングが合ったのは分かりますけど、盗賊ってテリトリーみたいなのがあるじゃないですか。

  なんかピンとこないんですよね」


 「そうだな、考え過ぎかもな・・・。

  それはそれとして、賊に一太刀も浴びせられなかった自分の未熟さを恥じる気はないのか」

 「あ、あれは・・、出会い頭で不意を突かれただけですよ。

  ちゃんと分かってれば絶対あんな事にはなりません」

 「覚悟が出来ていない証拠だ。

  そんな中途半端な状態で戦いの場に赴けばどうなるか、結果は自ずと見えている。

  今、お前がこうして生きているのは、それこそ偶然の産物に過ぎん。

  偶然に頼っているようでは、戦士としては生きて行けない。

  何の価値もない」


 さすがに、剣の達人は痛いところを突いてくる。

 フリルの心的準備不足を見抜いていた。

 返す言葉がない。


 ☆


 その日は、寄り道もせずに街道をひたすら進んだせいか、何事もなく平穏無事に予定通りの行程を消化した。


 辿り着いたのは、王都を出て以来これまでで一番大きな宿場町だった。

 幾つもの大小様々な宿屋や酒場などが街道沿いに立ち並び、その軒先にはたくさんの人々が行き交い、雑多な中にも

 活気で溢れている。


 前も後ろも華やいだ雰囲気に包まれたこの町で、一行が宿泊した宿屋もまた、これまでで一番充実したものだった。

 外観も内装も、他の一般的な宿とは違い豪華そのもの。

 食事も部屋も申し分なし。

 従業員の対応も微に入り細を穿ったもので、一行は、自分達まで貴族になってしまったかのような錯覚さえ受けた。

 これで文句を言ったら罰が当たる。

 貴族専用という訳ではないらしいが、それにも対応出来るだけの準備を整えている高級宿もある所にはあるのだ。

 恐らく、一般庶民レベルでは到底払えない高額な宿泊料を請求されるのだろう。

 これも、お姫様あってこそ享受出来る、夢のような特別待遇だ。

 お嬢様ぁ、感謝だよぉ。


 その中にあって、ルーエイだけが到着してすぐにまた姿を晦ましていた。

 彼一人だけが、目の覚めるような豪華な料理も、頬が落ちるような美味しい料理も、舌が蕩けるような甘美な料理も

 口にせぬままに、夜の町に消えて行ってしまったのだった。

 なぜ、彼は他の人に歩調を合わせて行動する事が出来ないのだろう。


 ☆


 深夜、

 どのくらい時間が経っただろう。

 寝心地のいいはずのベッドなのに、フリルはふと目を覚まし、そのまま寝付けなくなってしまった。

 とりたてて何かがあったのではない。

 怖い夢を見たのでもない。

 ただ、なんとなく目が覚め眠れなくなった。

 ベッドが柔らか過ぎるのだろうか。

 静まり返った部屋の中で、二度三度と寝返りを打つも、頭は冴えるばかり。


 どうにもこのままでは眠れそうにないので、水でも飲もうと部屋を出て廊下を歩いていると、窓の外、階下の屋根の

 上に人影があるのを見つけた。

 人?、誰だろう。

 興味をそそられて目を凝らす。

 雲間から差し込む月明かりに浮かび上がったその人影は、ルーエイだった。


 彼女は、思わず窓を開けて声をかける。

 「ルーエイ、何やってんのそんな所で」

 その声に反応して、屋根瓦に座る彼が振り向いた時、彼の肩に一羽の鳥が留まっているのが分かった。

 鳥?

 その鳥は、フリルの方を見て、コクッと小首を傾げるような仕草を見せた。

 なんで?、フクロウ?、・・・かわいいな。


 「ああ、あんたか」

 ルーエイが言葉を返すと同時に、鳥は翼を広げて舞い上がり、夜空の闇の中へ飛び去り消えてしまった。

 「あ、フクロウ行っちゃった・・」

 「フクロウじゃねえよ、コノハズクだよ」

 「コノハズク?」

 「フクロウの小っさい奴だ、手の平サイズだったろ」

 「なんで留まってたの?、ペット?」

 「まさか。

  俺は鳥に好かれるんだな、きっと」

 「なんでそんな所にいるの?」

 「俺に聞くな、どっかから飛んで来たんだ」

 「鳥じゃないわ、あんたよ」

 「俺か?

  俺は・・・、なんとなく」

 「なんとなくって・・。

  せっかくの綺麗なお部屋なのに、美味しい料理もあったのよ、勿体ないよ」

 「そう言うな、こういう洒落っ気な所は落ち着かなくて苦手でね。

  さてと、もうひと遊びしてくるかな」


 相変わらず飄々とした受け答えをして、彼はスッと立ち上がった。

 「どこ行く気なの?」

 「男の社交場」

 「社交場?、こんな真夜中に?」

 「夜中でも遊べる所はあるさ。

  この町は、そういう意味じゃ恵まれてる」

 「お金もないのに?」

 「金なら、さっき賭場で稼いできた」

 「やめなさいよ。

  もう遅いし、今から出かけたら明日の出発に間に合わないわよ」

 「あんたが相手してくれるんなら考えてやるよ」


 ドキッとしたフリルは、返す言葉に詰まってしまった。

 な、なに?

 い、今の、どういう意味?

 もしかして、私が欲しいって事?

 そ、そんな・・・、出会ってまだ間もないのに・・・。

 いくら私のおっぱいが気に入ったからって、そんな大胆な事、いきなり言われても・・・。


 一気に鼓動が高鳴り、頭の中は言葉の真意を読み解こうとグルグルと激しく回った。

 こんな経験は未だ嘗てない。

 おかげで、屋根から飛び降りてそのまま暗い街道へ走り去る彼を、ただ黙って見送る事しか出来なかった。

 部屋に戻っても、あの刺激的な言葉が耳から離れず、心拍が上がって益々眠れなくなってしまったのだった。


 ☆


 四日目


 その日も、旅の道のりは終始安定していた・・・、フリル以外は。

 フリルは一日中気も漫ろで、心ここにあらずというか、落ち着きがないのは誰の目にも明らかだった。

 横に座るペルスネージュが気遣って話しかけても、あらぬ方向を見たままボーっとして全く気付かない。

 おまけに、時折、何の前触れもなく頬を赤らめ、口元が変に緩んでニヤける始末。

 その様子は、理由を知らない者達にも、彼女の心になにかしら変化があった事を知らしめるに十分足るものだった。

 なのに、彼女は問い詰められても笑って誤魔化すだけ。

 言葉で語られずとも、その締まりのない腑抜け顔が如実に物語っているのを、気付いていないのは本人だけだ。


 とにもかくにも、旅は順調に過ぎていった。

 ただ、それとは対照的に、空の雲行きは徐々に怪しくなり出していく。

 夕暮れ時に宿場町へ到着した頃には小雨が降り始め、宿屋で食事にありついていた時、外はどしゃ降りになっていた。


 雨は夜通し降り続け、翌朝になっても一向に止む気配がない。

 そればかりか、時折バケツをひっくり返したような豪雨が断続的に降り、とても出発出来そうにない。

 窓から街道を見ても、わずかに町の住人の姿が見られるだけで、長距離移動をする旅行者の影は全くと言っていいほど

 屋外にはなかった。

 オラージュとラドルは話し合いの末、しばらく宿で様子を見る事にした。

 しかし、今日のうちに次の宿場町へ辿り着くには、どんなに遅くとも昼前には出発していなければ間に合わない。

 なんとか雨が落ち着いてくれればいいのだが、道がぬかるんでいる中で強行すると馬もに大きな負担がかかってしまう

 ので、先々の事を考えるとここで無理をするのは得策とは言えない。


 結局、午後になっても状況は改善せず、一歩も前進せぬままもう一泊する事になってしまった。

 セランは思わぬ休暇に喜び、さっそく宿屋の一階のバーカウンターで主人に酒を所望した。

 ロワールは部屋で剣の手入れを始めたし、ペルスネージュは同室で瞑想にふけ・・・、というより夢うつつ。

 他の者達も、自室や軒下のテラスなどで思い思いに寛いでいる。


 フリルは、朝からずっとルーエイを探していた。

 だが、同じ宿屋にいるはずなのに、その姿を見つける事が出来ない。

 他の人に聞いてみても、昨晩から一度も見たと証言する者は現れない。

 唯一、彼の行方を知っていたのは下男のバローだった。

 馬丁のトレナールと下男のバローは、たとえ出発が延期されたとはいえ、それぞれ馬の世話や馬車に積んだ荷の見張り

 などをせねばならず、のんびりとロッキングチェアでコーヒー片手に本を読むような訳にはいかない。

 そのバローが、今朝方、納屋に格納された馬車の見張り役をルーエイが代わってくれたと話したのだ。

 急ぎ納屋へ行って、ようやく荷馬車の荷台で眠りこける彼を見つけた。

 声をかけても起きる気配はなく、熟睡しているようだ。

 一体全体何の見張りなんだか・・・、熟睡してしまったら見張りの意味がない。

 仕方がないので、横に座って彼が目覚めるのを待つ事にした。

 薄暗い納屋の中で、降り止まぬ雨の音を聞きながら、この男はいったいどんな人なんだろうと彼の素性について考え、

 なぜ一緒に旅をする事になったのか思いを巡らせているうち、いつの間にか彼女自身も眠ってしまった。


 目が覚めた時には、彼の姿はそこにはなくなっていた。

 またしても姿を消した。

 なんで、彼はいつもこうなのか。

 何も語らず、何も聞かず、いつも勝手気ままに振る舞い、常に人を煙に巻く。

 何か理由があるのか、それとも何も考えていないのか・・・。

 もしかして、私、避けられてる?

 嫌われてるの?

 なんで?

 どんなに自分は楽天的だと思っていても、こうも詮無くあしらわれてしまうと、どうしてもネガティブな方向に考え

 がちになってしまう。

 運命の巡り合わせと思っていたのに・・・。

 なんか、へこむなぁ〜。


 そんなフリルの晴れぬ心とは裏腹に、夕刻には雨も上がり、空には無数の星々が瞬き始めていた。

 これで、明日は快晴になるだろう。


 ☆


 六日目


 ところが、順調に行くはずだった予定がまたしても狂い出した。

 朝から町の雰囲気が違う。

 道端のあちこちで、数人の人々がたむろして険しい顔つきでなにやら話し合っていた。

 そのほとんどが、旅人だろう出で立ちをしている。

 一行の宿泊した宿屋でも、玄関付近で同じような光景が見られた。

 ラドルが、そこにいた旅人に何事かと尋ねてみた。

 それによれば、町外れにある橋が、昨日の雨で増水した川の水に押し流されて通行不能になってしまったらしい。

 更には、橋の手前で役人が道を封鎖しているため、街道を行く馬車や旅人が渋滞を起こしていると言うのだ。

 「つまりは、その先へ行く手立てがないという事か」


 思わぬ事態に顎を摩り眉を顰めるラドル。

 「困った事になったな。

  どうする?」

 横にいたオラージュは、問われて即答する。

 「橋が一本なはずがなかろう。

  川沿いに行けば迂回は可能だろうが、どのくらいかかるかだな」

 それにセランが追随した。

 彼等はどうすべきか決めているようだ。

 「ここでうだうだ言ってても始まらねぇだろ。

  行ってみるしかあんめぇよ」

 「まったくだ。

  まずは、迂回に関する情報を仕入れるのが先決だ。

  橋が架かるまで何ヶ月も何年も待つ選択などあり得んぞ。

  分かったら早くチェックアウトを済ませるんだな」

 その言葉に急かされるように、ラドルは出発を決断した。


 ☆


 町外れまで行くと、川の前の壊れた橋の袂に役人、というより軽武装の兵士が二人立っていた。

 街道を行く旅人などに、迂回路の案内をしているようだった。

 そこで一行は、ここから30キロほど上流に崩壊を免れた石橋があるので、そこを迂回するように指示された。

 人間だけなら他にもあるが、馬車が安全に渡れる橋となると、そこまで行く必要があるのだと言う。


 見れば、川幅は20メートルくらい。

 増水はしているが、外まで溢れかえるような激流というほどの流れでもない。

 これで橋が壊れるものか?

 セランは、率直な感想を道案内役の兵士にぶつけた。

 「この程度の水で流される橋って、どんだけショボいんだよ。

  畦道の板橋だってもっとましだぜ」


 兵士は、肩を窄めて仕方がないという仕草を見せ、落ち着いて対応した。

 「実は、ここの橋は仮設で、元々あった橋は一昨年の洪水で破壊されてしまっていたのだ」

 「一年以上も仮設のままだったってのか、バカじゃねぇの?」

 「言いたい事は分かっている。

  街道に架かる橋だからな、早く修復するに越した事がないのは、我が領主ならずとも重々承知している。

  だがまあ、予算的な面で折り合いが付かないというのが正直なところのようだ。

  上司も優先度を上げてくれるよう進言はしていたのだが、なかなかこちらの思う通りに事は運ばない。

  おかげでこの有り様だ。

  復旧は急がせるが、作業にかかるまでは少し時間が必要だ」

 「なるほどな、どこの領主も似たり寄ったりか。

  儲けにならん事は全部後回しだ」


 これで、本来であれば数分で渡れる川を、丸二日かけて渡らねばならなくなった。

 恨めしそうに川を見つめるセラン。

 たいして大きな川ではないので、泳いで渡るのは造作もない。

 されとて、茶色に濁っている上に、水位も増して流れが速くなっている川を、お姫様に泳がせる訳にはいかない。

 言われた通りに進むしかないと思ったところへ、キオードが妙案を示した。


 「川はいずれ海へ繋がる。

  どうせ海を渡るのだから、予定とは違う港から出帆しても誰も怒りはしない」

 「なんだ?、そりゃどういう意味だ?」

 「どうせ行くなら、下流に向かって行った方が時間の節約になるという意味だ。

  途中で橋があったら、そこを渡って街道へ戻ればいい。

  そうすれば、予定されたボーデの港から出港出来る。

  橋がなかったとしても、河口付近には別の港があるはずだ。

  そこから海へ出てもいい」

 「そうか、その手があるか」


 それを聞いたラドルが問題を提起する。

 「し、しかし、その場合、宿はどうなるのだ。

  街道を外れてしまったら宿場町などないのだぞ。

  日暮れまでに宿を確保出来るのか?」

 「そん時は野宿でもするさ」

 「バ、バカモン!

  お嬢様に野宿などさせられるか、お前達とは違うのだぞ」

 「一泊だけだ、どうせ明日には港に着くさ。

  雨で一日延びたのを差し引けば予定通りだろ。

  この上更に二日もかけて遠回りなんて俺は嫌だね」

 「し、しかし・・・」


 焦りを感じたラドルは、慌てて地図を取り出して目を走らせる。

 が、主要な道路と町や地方名以外の記載のない大雑把な地図では、迂回に適した方法を探るのは不可能だった。

 セランが駄目を押す。

 「どの道迂回しちまえば宿屋なんかねぇんだよ。

  どっかで農家でも見つけて泊めてもらう事にでもなるんだろ。

  問題は、そこの飯がお姫様の口に合うかどうかってぐらいなもんだ。

  ベッドの堅さは我慢出来ても、飯の不味さは我慢出来ねぇからな。

  それが1回で済むか2回になるかって考えたら、迷うこたぁねぇだろ」


 後方でその話を聞いていたフリルは、横にいたペルスネージュの方を向いた。

 「海を渡るの?」

 「海というか、湾」

 「湾?」

 ロジェ伯爵の領地は海の向こうにあった、街道は陸続きではなかったのだ。

 フリルはその事を知らなかった。

 ロジェ伯領は、国の西端の湾と海を区切る半島の全てを領地とし、北端で大陸のクルトワーズ伯領と接している。

 半島の根元、湾の最奧部は切り立った急峻な岩の断崖となっており、それがそのまま大陸を南北に貫く山脈へと続き、

 クルトワーズ伯領への街道の直通を阻んでいる。


 海と聞いて、フリルの心は躍った。

 着実にルネの在所に近付いているという実感が湧いてきた。


 ☆


 一行は、キオードの提案を聞き入れ、下流へ向かって進む事にした。

 地図によれば、川は南の方へ向かって流れているようなので、そのまま川沿いに進んでも、最終的に湾に注ぐ頃には、

 当初出航を予定していた街道上の港町ボーデよりもずっと南下する事になってしまう。

 その場合の時間的ロスは、役人に指示された通りに上流へ迂回したのとたいして変わらないものになる。

 ただし、途中で川を渡る事が出来れば、そのロスは最小限で済む。

 その可能性に賭けたのだ。


 川沿いの小道は、幅も狭く、馬車同士がすれ違うのもままならない。

 いわば、近所の住人だけが使う生活道で、こんな道が地図に載っているはずもない。

 周辺は、少しの田畑の他は雑草の草原が続き、所々に小さな黄色い花が群生し、蝶がヒラヒラと飛び交うような長閑な

 風景が広がっている。

 途中、一つ二つの小さな集落を通過し、更に進むと、いつしか道は川から離れ、次第に小高い山の方へ向かって行く。

 分岐のない一本道は、他に選択肢を与えてくれない。

 山へ近付くにつれ、周囲には木立が増え、林、森を形成していく。

 同時に、道が荒れ始め、路面に雑草や小石が目立つようになる。

 この辺りは、人の通りが疎らである事が分かる。


 森へ入ってすぐ、ペルスネージュの様子が変わり出した。

 真顔で俯いたまま、じっとして動かなくなった。

 フリルとロワールが世間話をしていても、全く耳を貸さない。

 いつも通りのウトウトが始まったのとも違う。

 気のせいか、顔が強張っているようにも見える。


 不思議に思ったフリルが尋ねる。

 「ネージュちゃんどうしたの?

  どこか痛いの?」

 「・・・ここ、なんかヤバい」

 「ここ?、どこ?」

 「この森・・というか山・・・」

 「山?

  山がどうかしたの?」

 「分からないけど・・・、胸騒ぎ」


 ペルスネージュの変化に呼応するように、荷馬車の屋根の上でドタバタした音が鳴る。

 ルーエイが動き出した音だ。

 彼は、荷馬車の前方へ行き、御者席のバローに文句を言う。


 「おい、ここはヤバいぞ。

  なんでこんなとこ来るんだよ、お前等何考えてんだ」

 「い、いや・・、あっしはただ前に付いて・・・」


 ロワールが中から身を乗り出して聞き返す。

 「ヤバいとは何だ。

  お前は何の事を言っている」

 「気付かんのか、この山は化け物の巣窟だぞ」

 「化け物だと?

  なぜ分かる、お前はここを知っているのか」

 「初めて来たって気配で分かるだろ、こりゃ飢えた怪物の気配だ。

  何が出てくるか分からんぞ」

 「怪物?

  お前は気配を感じるのか・・。

  では、ネージュの胸騒ぎもそれのせいか」


 そう言って振り向いたロワールに、ペルスネージュは俯いたまま小さな声で答えた。

 「・・・たぶん」


 自分達の身に危険が迫っていると感じ始めたロワール。

 「とはいえ、ここは一本道だ。

  他に回避出来る道はないぞ、本当にヤバいのか?」

 「当たり前だ。

  もう、遺言状を書いてる暇もねえよ」


 彼の言葉を信用する気など更々ないが、ペルスネージュが見せる深刻な表情が次なる行動を起こさせた。

 ロワールは、抜刀して臨戦態勢を取ると、フリルにも武装するよう命じ、バローには荷馬車を止めるよう指示した。


 これにルーエイが反対する。

 「止めるな!

  獣は獲物を背後から襲う。

  真っ先に狙われるのが俺達なんだ、前と離れたら勝ち目はねえぞ」

 悔しいが、その言葉には説得力がある。


 唇を噛むロワールに、更にルーエイが命令する。

 「出来れば一気に突っ切ってしまいたいんだが、全力疾走したらお姫様が切れ痔になる。

  とにかく馬車は絶対止めるな、前にもそう伝えろ」

 「き、貴様、私に命令する気か」

 「死にたくないならそうするんだな」

 実力もないくせに上から目線で物を言うルーエイは、すぐに軽口を叩くセラン以上に忌々しい存在だ。


 ☆


 ロワールが報告するまでもなく、荷馬車での騒ぎは、車列の先頭を行く馬上のセランとキオードにまで届いていた。


 「おい、後ろで何か揉めてるみてぇだぞ。

  遂にロワールがあの胡散臭野郎にブチ切れたか?」

 「いや・・何か違うな」

 「何が違うんだよ」

 「森に入ってから、なんだか良からぬ気配を感じるんだが・・・」

 「なんだ?、また盗賊か?」

 「いや、そういうのとも違う・・・」


 話をしながら、二人が後方の荷馬車の方へ目を遣ると、まさにその時、道端の木陰から黒い狼のような獣が飛び出して

 きて、荷台の中へ飛び込む姿が見えた。

 「うおっ!、なんか出たぞ!」


 荷馬車の方では、荷台の後部から飛び込んできた獣を、ロワールが一刀の下に斬り捨てていた。

 その弾みで馬車から転げ落ちた獣を目で追いつつ、フリルは少し興奮気味。

 「い、今のは何ですか!?、狼ですか!?」

 「知らん。

  気を抜くな、まだ来るぞ」


 一匹が飛びかかると、それを合図に陰に潜んでいた仲間の獣達も次から次へと飛び出して襲いかかってくる。

 やはり、見た目通り狼のような集団で狩りをする種の獣のようだ。

 ロワールは、冷静かつ正確に、飛び込んでくる獣を順次斬り倒していく。

 荷台の中で大振りは出来ないながらも、さすがは二刀流剣士、その手際に隙も乱れもない。

 フリルも剣を持ち、加勢しようと身構えるのだが、手を出すタイミングを逸するほど、ロワールの見事な仕事ぶりに

 ただ見とれるだけだった。


 次々に手傷を負って路上に放り出される獣達、その血の臭いは、新たな捕食者を呼び込む餌となってしまう。

 狼のような獣に次いで、虎か豹のような、更に大型の野獣が森の中から現れ、それがどんどん数を増し、集団となって

 荷馬車に襲いかかってきた。

 大型野獣は迫力も破壊力も桁違いに強い。

 鋭く強力な爪は、荷馬車のキャビンの壁面をガリガリと引っ掻き、今にも壊してしまいそうだ。

 まさに猛獣。

 獲物にありつかんと目が血走っている。

 そのパワーに押され、次第にロワールも手を焼き始めた。


 フリルは、ロワールが斬りつけた獣を突き刺して援護する。

 大振り出来ない状況で致命傷を与えるには、突き刺すのが最も効果が高い。

 「突き刺す時は気をつけろ、抜けなくなったら武器を失うぞ」

 「は、はい!」

 「殺す必要はない、反撃不能にすればいいんだ」

 ロワールはそうアドバイスするが、今のフリルにそこまで冷静に対処する余裕はない。


 ここでようやく、ペルスネージュが魔法で防御壁の構築に取りかかった。

 彼女が過剰に恐れていたのは、気配の対象が何者か分からなかったからで、それが分かれば対応する魔法も決まる。

 そこへ、屋根の上から罵声が飛ぶ。

 「おい、魔導師!

  なんとかしろ、攻撃魔法使えんだろ!」

 仕事を始めたのに文句を言われ、ペルスネージュは腹を立てる。

 「あいつ、なんかムカつきます」

 ロワールが代わって怒鳴り返す。

 「お前こそ何かやれ!、バカ者!」


 荷台の女性達が後方の開口部に気を取られている間、御者席でビクビクしながら手綱を持っていたバローの身に、突然

 横の森から大きな黒い影が飛びかかった。

 強い力で何者かに服を鷲掴まれたバローは、急な出来事に驚き、おまけにそのあまりの怪力に何の抵抗も出来ぬまま、

 そのままの勢いで御者席から引き摺り下ろされ、反対側の森の中へ引き込まれていってしまった。


 その様子を屋根の上から見ていたルーエイ。

 「チッ、オークが出やがった」

 彼は、急いで御者席へ下り、手綱を取って馬を制御する。

 「魔導師!、こっちへ来て馬を守れ!」

 「私に命令するな、クズ」

 「つべこべ言うな!

  オークが単独で襲う訳がねえ。

  次の攻撃で馬がやられたらお前等死ぬぞ」

 「お前が死ね」


 口では反抗しながらも、ペルスネージュは言われた通りに御者席へくると、馬の両側に魔法陣の防御壁を張った。

 ここで馬を失うとどうなるかは、クズ如きに言われなくとも分かっている。

 そのクズの指摘通り、棍棒のような武器を振りかざした筋骨隆々の獣人オークが、次々と森から飛び出し襲いかかって

 きた。

 対するペルスネージュの防御魔法は鉄壁だった。

 オークは魔法陣に阻まれ、攻撃がまるで歯が立たない。


 「なかなかやるじゃないか、お前」

 「当然。

  こんなのはお茶漬けサラサラ」

 「だったら最初っからやれよ、おかげで一人死んじまったぞ」

 「死んじゃったの?」

 「もう手遅れだ、オークが相手じゃ今から助けに行っても間に合わん」

 「・・・オークは予定外なのです」


 彼女達の仕事はお姫様を守る事であって、同行者を守る事ではない。

 同行者は、究極的には自らの責任において自身を守らねばならないのだ。


 「敵の攻撃を受けたら、迎撃部隊よりもまず防衛部隊が防御陣を張るんだ。

  迎撃はそれからだ。

  こういう時、お前は誰よりも真っ先に動かにゃならんのだ、憶えとけ」

 「お前が動け」


 ☆


 時を同じくして、前を行くお姫様の乗るランドー馬車もオーク達の襲撃を受ける。

 荷馬車の時と同じに、体を車外に剥き出してしいる御者席が狙われた。

 陰から突然現れるオークに、ラドルとトレナールは仰天して慌てふためき、ただ悲鳴を上げるしか為す術がない。

 頼れるのは、同席しているオラージュだけだ。

 そのオラージュは、襲い来るオークに怯まず太刀で応戦した。

 怪力のオークに力負けしないのはさすがだ。

 そこへ、先導していたセランとキオードも馬車の脇まで後退し、防御と反撃に加わる。

 彼等は、剣や投げナイフで迫り来るオーク達を蹴散らしていく。


 セランに腕を斬られてその場にうずくまった一匹のオークが、腹癒せに棍棒を投げつけ、それがセランの乗る馬の足に

 当たり、彼は馬と共に道端に倒れてしまった。

 彼は即座に立ち上がって馬車に捕まり難を逃れたが、馬の方はオーク達の襲撃を受け命を落とす。

 いよいよ襲撃が勢いを増し始めた。

 更に、別の一匹が馬車の客室に取り付いた。

 室内にいる女性達の悲鳴が上がる中、同乗しているウルスが剣を突き刺して排除する。

 セランとキオードは馬車に近付けまいと奮闘するも、数に勝るオークの中には、その剣先をすり抜けて接近するものが

 現れる。

 それをウルスが撃退していくのだが、走る馬車の客室にいてはまともに剣も振るえない。

 もっと確実に敵を仕留める為、ドアを開け、外のステップに一歩踏み出したところへ、オークの振り回した棍棒が彼の

 左足を直撃した。

 彼は、激痛に耐えながらもオークを斬り捨てた。


 御者席では、震えながら手綱を握り締めていたトレナールに迫るオークを撃退したオラージュに、背後から別の一匹が

 棍棒で殴りかかった。

 一瞬の隙を衝かれたオラージュは、バランスを失って馬車から転げ落ちてしまった。

 すぐに路上にいたオーク達に取り囲まれ、袋叩きにされる。

 トレナールとラドルは、恐怖のあまり頭を抱えてその場でうずくまるしか出来ない。


 慌ててセランが御者席へ行き手綱を取ると、馬上からキオードが彼に向かって叫ぶ。

 「止めるな!

  今止めると全員死ぬぞ!」

 「分かっとるわ!」

 キオードは、オラージュの救援よりもお姫様を守る事を優先した。

 この状況では、転落した仲間を救うために馬車を止めるのは自殺行為だと判断したのだ。

 セランも同意見だった。


 後続の荷馬車からその様子を見たペルスネージュは、即座に新たな魔法陣を発生させ防御するが間に合わない。

 横のルーエイが、手綱をペルスネージュに預けた。

 「ちょっとこれ持ってろ」


 彼は、荷馬車の屋根に戻って、自分の荷物と共に持ってきていた木の杖を手に取り、そこから刀を抜き出した。

 「出来れば、使いたくなかったんだけどな・・」

 ただの木の棒だと思っていたものは、実は仕込み杖だった。

 その細い漆黒の刀身を目にしたペルスネージュは、途端に激しい悪寒が背筋を駆け巡るのを感じた。

 強い魔力に反応したのだ。

 今までに感じた事のない、重く、暗く、冷たい魔力。


 「そ、それは・・・」

 「黙ってろ。

  お前はお前の仕事をしな」

 落ち着いた声で静かに言ったルーエイの目は、それまでの彼とはどこか違っていた。

 使命感に火が着いた、というようなものとは違う。

 戦意昂揚という気力に満ちたのでもない。

 むしろ、この状況を楽しんでいるかのような、無垢で無邪気な目だった。


 一体何者なんだ・・・、この男は。




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