体育祭でドキドキ
体育祭3ー1
学校では体育の時間、体力テストが行われていた。
中体連後運動から離れ、受験勉強で体が鈍っているだろうと思っていたのだが,思いのほか体が動いてまずまずの結果だった。
実際クラスでも上位の成績だったようだ。
俺の学校では、それなりの進学校ということもあり、春に体育祭が行われる。
クラス代表には、学級委員に満場一致で選ばれたコミュ力オバケことケントと唯一立候補で学級委員に選ばれた河内 春菜の2名がそのまま担当となった。
体力測定の結果とこの二人の尽力で出場種目が決まった
「それで、はじめちゃんは何の競技に参加するの?」
「100メートル走とクラス代表リレー、それに全員参加の綱引きに参加します」
「私も偶然はじめと同じ種目なんですよー、全員参加だけは男女で違いますけどー。円先輩は何に出るんですかー?」
「私は、女子全員参加と障害物だけよ。あとは代表応援かしら」
「円先輩、クラス代表なんですか?でも先輩かっこいいから似合いそう」
「あら、凛花ちゃんだってクラス代表リレーに選ばれるなんて凄いじゃない。私足は遅いから羨ましいわ」
「あれ?そーいえばマドカさん、俺がリレーに選ばれたのに驚かないんですね?クラスでは結構びっくりされたのに」
「だって、はじめちゃんの事は何でも知ってるもの。
例えば、その眼鏡をとった素顔が素敵なこともね」
と言いながらマドカさんは俺の眼鏡に手をかけた。
「ちょッ!!やめて下さい、眼鏡は俺のアイデンティティなんですから!」
とマドカさんの手から逃げた。
「ふふ、どこぞの眼鏡キャラみたいな事言うのね」
「えー、眼鏡外してみてよはじめー」
先程まで不機嫌に見えていたアズマが目を輝かせてマドカさんの言葉に乗っかってきた。
「イヤですよ!アイデンティティって言ってるじゃないですか!」
「体育祭でも外さないのー?邪魔でしょー?」
「人のアイデンティティを邪魔とか言わない!!それに外したら見えなくなるから危ないし!!」
「はじめちゃん、、、アイデンティティって言いたいだけじゃないのあなた?」
そして体育祭当日。
その日は晴天に恵まれた。まだ5月に入ったばかりのためまだ肌寒い季節だった。
この学校は各学年8クラスまであるの縦割りで割られで4つの団にわけられる。
そのため2ー7であるマドカさんも同じ団だ。
選手先制では各団の団長が参加した。
男性3名。女性1名だが、後半に行われる応援合戦に使う衣装だろうか学ラン姿と袴姿になっておおり全員がかっこよく見えた。
そんな前半のイベントが終了し、クラス代表のケントと共にグラウンド後方の芝生の待機ブースに移動する。
そんなところに1人の女性が手を振って寄ってくる。
「おーい、はじめちゃーん。けんとくーん!」
見覚えのある小柄ら格好に豊満な胸。今日は体育服なので余計に
主張しているように見える。
特徴的なポニーテールも今日は少し高い位置に結んでいて頭には同じ色のハチマキを結んでいる。
野球部マネージャーの佐々木棗先輩だ
「棗先輩!お疲れ様です!!」
ケントが珍しく少し硬く見えるが、どうも鼻の下が伸びているようにも見える。
「2人とも仲良しだったんっだー。はじめちゃん、けんと君のことよろしくね。
それと今日は同じ団だからがんばろーねー」
といいながら俺とケントの背中をばんばんと叩いた。
それじゃーまたねー。といいながらまたも台風のように自分のクラスの方に去っていった。
「棗先輩ってすげーよなー、、、」
なにが凄いのかはそっとしておこう。
「、、、あの先輩っていつもこうなのか?」
「まぁ、大体あんな感じだな、、、
ってなんで棗先輩が高橋の事知ってんだよ!しかもはじめちゃんってむちゃくちゃフレンドリーじゃねーか!」
ケントが大げさに地団駄を踏む。
「うちの部の先輩のクラスメイトらしいんだ。それでこの間部室に遊びに来てたときに挨拶した程度だよ」
「はじめちゃんか、、、」
「うるさい、やめろ」
「それでその先輩って可愛いのか?」
「可愛いと言うよりスタイル良いし美人系かな」
「まじか!?今度紹介してくれよ!」
「でも見た目は良いんだけど、、、毎度毎度俺のこと揶揄ってくるし、皮肉に皮肉で返してくるし、、、並大抵の人ではないよ?」
そっか、、、と言いながらケントは何かを考えていた。
「高橋君は私のことそんな風に感じてたのね?」
「ッッ!!!???」
不意に後ろから聞き慣れた声がして背筋がビクッと震え上がった。
勇気を出してゆっくりと首だけで振り返ると、最初に会った時と同じようなにこやかな笑顔でマドカさんが立っていた。
「、、、マドカさん、、、いつからそこに、、?」
「挨拶も無しなんて高橋君は無粋ね。
強いて言えば『性格が悪い先輩』って所からかしら」
「そんなこと言ってないですから!!」
そんなやりとりをケントがビックリしすぎて口を開けてボーっとしていた。
「あら、田中君だったかしら?今日は頑張りましょう」
そう言ってケントに挨拶をして歩いて言った。
最後にマドカさんから『覚えてなさい』と聞こえた気がした。
「文芸部の先輩って及川 円先輩なのかよ!?」
先ほどの衝撃から回復したケントが問いかけてくる。
「むしろマドカ先輩のこと知ってたの!?」
「同じクラス代表だから知ってるよ。
凄く真面目で良い人じゃん!文芸部か、、、良いいなぁ、、、」
おいおい、佐々木先輩に続いてマドカさんもか、、、。
ケントは近い将来に女問題で揉めそうだな。
「はじめーー!次100mだから一緒に行かなーい!?」
ケントの未来予想図を想像していると同じ100m走に出場する東 凛花が呼びに来てくれた。
ケントにまた後でと別れを告げて2人で所定の待機場所へと向かう。
「2人って本当に仲いーよねー。同中でしょ!?前から仲良かったのー?」
「いや、高校入ってから初めて話したかな」
「ふーん、、、さっき及川先輩の名前が聞こえた気がするんだけどどんな話してたの?」
「大した話じゃないよ。ケントがマドカさんのこと美人だなーって」
「へー。はじめもそう思ってるの?」
「まぁ綺麗な人だとは思うよ」
性格はアレとして。と心の中で呟く。
「はじめ!じゃあ私のことは!?」
「えッッ!?」
不意の質問にビックリして言葉が出なくなる。そしてつい何か答えようとしてしまい彼女の全身を見てしまう。
すると、佐々木先輩に負けず劣らずのバインバインに目が止まってしまう。
「、、、はじめも案外助平なんだね」
つい目線が胸元で止まってしまったのを見逃されなかった。
「案外ってなんだよ、男なんだから仕方ないだろ」
「中性的な顔してるからそーゆーことにあんまり興味ないのかと思ってた。
ねっ♪『はじめちゃん』!」
楽しそうにマドカさんと同じように呼ぶ彼女を尻目に、「はぁ、、、」とため息をついてその愛称で呼ぶのは勘弁してくれと伝えたが歯牙にもかけない様子だった。
100m走は1学年8クラス。男女各一名ずつ走ることになっており4コース使って奇数クラス、偶数クラスで2つに分けられて行われる。
1年の奇数クラスということで俺は一本目だ。ちなみに男子が1〜3年走り終わって女子の番になっている。
少し緊張しながらスタートラインに立つ。
「位置について。よーい、、」
横に立つスターターの声に従ってクラウチングスタートの態勢をとる。
パーン!!という火薬が弾ける音が聞こえると共に地面を蹴る。
前を見ると斜め前に1人、そして視界の隅に1人見え隠れする。どうやら現在3位か。
昔からスタートが苦手なのは変わらない。
半分過ぎた頃には斜め前の選手との差はほとんどないほどに迫っていた。
ゴールテープが近づいてくる。そして接戦を制しゴールテープを切ることができた。
コミュ力おばけを筆頭にクラスメイトから歓声や拍手が届いてくる。
少し恥ずかしい気もするがフェスティバルのようなものだから俺も手を振って応えた。
ふと気付いたら少し離れた所の一番前にマドカさんが居るのが目に入ったので一緒にマドカさんにも手を振っておいた。
そうしていると誘導の係りに声をかけられ所定の位置まで連れて行かれた
その後残りのクラス、他学年が終わり女子の番になった。
アズマは緊張した様子もなく自然なクラウチングスタートの体勢から勢いよくスタートの合図で走り出した。
俺とは違ってスタートダッシュが良く一気に先頭に立った。
言葉通り目を引かれるフォームで走っているがゴール20m前位になると他のクラスの女子に並ばれてしまった。
そのまま2人でゴール前を争い、頭1つ分の差でゴールテープを切られてしまった。
「いやー、参ったね。なかなか上手くはいかんもんだね」
最初にケントと話しをしていたクラス待機場に戻りながら、アズマは、ははは。と笑いながら言った。
「でも惜しかったよ。もう少しだったじゃないか」
「それでもハジメが一位だったから揃って一位でゴールしたかったな」
「そのやる気は最後のリレーまで取っておくといいんじゃないかな?」
負けじとハハハっと返した。