初部活
電車から降りて10分ほど歩いた場所に3年間通うことになる高校がある。
昇降口の自分の靴箱から学年で色違いのスリッパに履き替えて1ー7の教室に向かった。
教室に入ると数人から「おはよう」と聞こえてくるので手を振りつつ挨拶を返す。
「はじめー!おはよ!!」
ひときわ大きな声で挨拶をしつつ軽く背中を叩いてきたのが、このクラスで最初に仲良くなった田中 健斗だ。
彼は数少ないオレと同中の出身だ。
中学では野球部のエースで至る所で目立っていたがクラスのフロアが違っていたのでケントは俺のことはほとんど知らないようだった。
タカハシとタナカと言うことで今の席順は前後になってる。
ただ田中の凄いところがステータスのコミュ力をカンストしているような人物ということだ。
入学式後の自己紹介が終わったところで同中と知った彼が勢いよく話しかけてきた。
「同中だったんだ!?気づかなかったわ。よろしくな、高橋!」
「田中君は中学とはの時目立ってたから覚えてるよ。よろしくね」
「そんな硬くなくて良いから。ケントでいいから!」
「俺のこともハジメって呼んでよ」と言うと
「俺、名前で呼ぶのは女子だけって決めてるから」と彼はハハッと笑って答えた。
その後ケントは有り余るコミュ力で無双し、すでにクラスメイト全員と仲良くなっていいる様子だ。
「ん?なんか元気ないようだけど寝不足?」
「いや、、まぁそんなところかな、、、」と言葉を濁して返答した。
「そっか、話変わるけど今日から部活参加出来るようだけどタカハシは中学確か何か入ってたよね?高校も同じの入るの?」
話変わってないんだよな、、、
「いやぁ、帰宅部になる予定だったんだけど、、」
「あぁ、全入部制だもんな。どうする予定?」
「実はもう文芸部に入ったんだ。ほぼ活動もないみたいだし」
「えっ!?文芸部!?恐い先輩がいるって聞いたけど大丈夫なの!?」
恐い先輩、、、幽霊部員の三年生の事かな?
「ケントは高校も野球部?」
「そ。もう見学に行ったんだけどすごくカワイイマネージャーの先輩いたんだぜ!」
と朝から彼はハイテンションだった。
「これで、おはようからおやすみまでお話ができるね」
そんなドキドキさせるような台詞を吐いた割りに俺のスマホに先輩からのメールは届かなかった。
ようやく沈黙を破ったのは昨日の夜。
まるで今まで忘れていたかのように「明日放課後部室に集合で」と愛想も感じられない業務連絡が届いた。
放課後、1人階段を登って部室棟まで行き、念のためドアを2回ノックして部室に入る。
するとそこにはあの時と同じような優しい顔をした先輩が文庫本を読みながら座っていた。
「あ、高橋君!良かった、来てくれて。ようこそ文芸部へ!」
いやいや、昨日『わかりました』と返信したけど…と思いながら口では「帰ってもやる事ないですし」なんて当たり障りのない返事をしていた。
「改めて、2ー7の佐々木 棗です。部員が少なくて少し寂しいかもしれないけどよろしくね」
「は、はい、1ー7の高橋 一 です。こちらこそよろしくお願いします、先輩!」
そう返事をするとさっきまでの優しい顔をした先輩の顔が一転し、ジトッとした目を向けられた。
「先輩?」
「あの、、、先輩?どうかしました?」と問いかけてみる。
「自己紹介したんだから名前で呼ばないかなぁ?」
と彼女は同じ目のまま答えた。
「あ、すみません及川先輩、、、」
それでも彼女は答えない。
「及川先輩?、、、棗先輩、、、?及川さん、、、?棗さん、、、?」
答えがわからないから思いつく限りの呼び方をしてみた。
彼女は小さく「へたれ…」と呟いたのが聞こえた。
「2人っきりの部員なんだから『ナツメ』って呼んでいいのよ」
「、、、えッ!?無理っス!ほぼ初対面のような先輩を呼び捨てにするなんて俺にはできませんからッ!!
せめて、ナツメさんで許して下さい!」
「わかった、じゃあとりあえずはそれでいいわ。その代わり言えるようになるまで貴方のことは『はじめちゃん』と呼ぶから。…拒否はさせないわよ」
この先輩は何を考えているのだろうか。
俺の頭では処理しきれないことばっかりだ、、、
「いいわね!?『はじめちゃん』」
諦めるように頭をあげる。
ナツメさんは腕を組んで仁王立ちしていた。
その時、改めてナツメさんの姿が目に入った。
前日もナツメさんに振り回されて頭が追いついていないこともあってしっかりと認識出来ていなかったが
まず、黒髪ロング。しかも艶がありサラサラとしている。
目はクリっとしていて可愛いよりも美人系
そしてスタイルも素晴らしい。
身長は俺より少し低め。おそらく160後半。小さくなく、デカすぎない。
極め付けは何よりもそのボディ!
豊満ではないが慎ましくもない。出るところは出て引っ込む所は引っ込む。
ハッキリ言ってテレビの中で見るような人種ではないだろうか。
そんな感想が数秒で頭をよぎった。
それと共にそんな美人に『はじめちゃん』なんて名前で呼ばれたという事実が余計に心拍数を跳ね上げ体温を急上昇させる。
「すみません!!ちょっとトイレに行って来ます!!」
そう言って2人きりの空間から逃げ出した。