桜の出会い
『楽勝で攻略できると信じていました』のゲーム版。単品でも大丈夫です。
『楽勝で攻略できると信じていました』を読んでいる方へ。
『楽勝で攻略できると信じていました』との違い。
・異母姉との関係がそれなりに良好。 ・第二王子が生きている。 ・ラインハルトに義妹がいる。 ・ウエストレペンスは王領のまま。
結婚相手を探してきなさい。
そういう命令を受けて私はレペンス学園の門をくぐった……のは良いが……
どうしよう。早く来てしまった。別に張り切っていたというわけではないのだが。
ちょっと校内をみてまわろうか、それとも教室に行こうか?
さてどこに行こう。
◇
もし、教室に一番乗りしてしまったら、無駄に目立ってしまう。
いや、私が美人とかそういうわけではない。
異国の出身で、この国では珍しい黒の髪と紫の目を持っているだけで。
私は、中庭に歩を向けた。
薄紅色の世界で一人、茶色の髪の男の子がぼんやり桜を眺めていた。
よく見れば口元が小さく動いている。
まるで何かに話しかけているようだ。
はらはらと桜が舞い。
男の子がこちらをふと振り向く。
何も映していない瞳が私を見た。
思わず目を逸らしてしまった。
その後は桜を楽しむふりして、速やかにその場を撤退した。
◇
合格通知と一緒に送られてきた学籍番号とクラス割を見比べて、教室に行った。
始業15分前。ちょうど良い時間だ。
ただでさえ黒髪紫目という目立つ容姿なので、とりあえず教室に入るときは静かに扉を開けて、控えめに「おはよう」と挨拶。黒板に書かれている席割りを確認する。
ああ、貴族ってのはなんで無駄にお顔が整っているんだろう。
緊張しているせいか、私の動きをみんなが見張っているようにみえてしまう。 気のせい気のせい。
教室の窓側から二列目の一番後ろの席。
勢力図やグループと言ったものは分からないけれど、前後左右には挨拶をしておかないといけないだろう。
両隣の男子に挨拶して、前の女の子に挨拶すればいいかな。
三人とも名乗り返さないまでも、会釈だけは返してくれるといいなぁ。
まず、座る前に軽く会釈しながら、名乗る。
「ライラ・タルジェと申します。よろしくお願いします」
最初に男子生徒に声をかける勇気はないので、全方位に向かって控えめに挨拶、着席した。
「タルジェ家? ごめんなさい。記憶にないわ。どこのご令嬢?」
前の席の銀髪の女の子が振り返って、話しかけてくれる。 ちょっとだけほっとした。
「お、王都で小さな商店を営んでいまして」
笑顔が引きつっていないだろうか。第一印象が肝心――
「ふーん、娘を玉の輿に乗せるためにどれだけ積んだのかしら」
たぶん私の笑顔は完全に固まってしまっただろう。
「おい、いじめてやるなよ」
私の斜め前の男の子が口を挟んできた。
うっ。
さっき中庭で見かけた男の子だ。
少年はわざわざ立ち上がって、私の机に近づいてきた。
「僕、レイスって言うんだ。よろしく」
そう言って手を突き出してくる。
明るく話しかけてくる彼はさっきのぽんやり桜に話しかけた男の子とはガラッと印象が変わっていて、もしかしたら勘違いじゃないかと思った。
「は、はい。よろしくお願いします」
手が出てきたけれど、庶民の私が貴族様の手に触れていいのでしょうか?
「レイス様、ですね。ライラ・タルジェです。よろしくお願いします」
がちがちに固まった手でなんとか握り返すと彼はにっこり微笑んだ。
『よろしくお願いします』って連呼してしまったが、特に気にした様子はない。
「一応、男爵家ではあるけれど、一代限りだし、ここのところ目立った功績も挙げていない。
本家の者が処刑されるのを黙ってみているしか出来なかった一族だ。別にかしこまることないよ」
「は、はあ」
いや、入学早々に処刑とか物騒な言葉を聞きたくないんだけれど。
で、右隣の男子生徒にも名乗るがこちらはがっつり目を逸らされた。
さっき自分がやってしまったけれど、やられるとやっぱりショックだ。 次からは気をつけよう。
最後に左隣の金髪の男子生徒に顔を向ける。
「ライラー」
「さすがに三回も聞いていたら覚える。カイだ。よろしく」
ざわ。っと教室の空気が動いた気がする。
「よ、よろしくお願いします」
なんだろうさっきの。
前の席の女の子が振り返って話しかけてくれた。
「勇気あるわね。あなた」
「は?」
貴族の常識では格下の者は上の者に挨拶もできないのか?
「言い忘れていたわ。私、アルミナ・コランダム。 もうすぐ姓が変わる予定だけど」
ああ、結婚か。貴族の人は大体婚約者が決まっているのだろう。
姉さん。この中から結婚相手探すなんてハードル高すぎです。
登場人物の人生に微妙に差異があるため『楽勝で攻略できると信じていました』とは性格が多少変わっています。