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公募ガイド TOBE第2回 佳作作品「ミステイク」

作者: あべせつ

課題「探偵×ミステイク」


『ミステイク』 あべせつ 


で?何からお話したらいいのかしら?あの探偵を頼むことになった事の顛末ですか?

かまわないけど、長いお話になりますわよ。 


もちろん、きっかけは夫・芳弘への疑惑でした。ええ、特に残業や外泊が増えたとか、休日に一人で外出するとか露骨な行動はなかったんですけどね。でも、何かがおかしい。

わたし、ピンときたんです。もしも芳弘に女がいるなら許せない。絶対に別れさせたい。ともかく一刻も早く尻尾を捕まえねば!


そう思いながらも、どうしていいかわからなくて、悶々とした日を過ごしていました。


 そんな時、ネットサーフィンしていると偶然『浮気調査。低価格・安心・浮気の証拠が出なければゼロ円!』という魅力的な宣伝文句が目に飛び込んできたんです。私はこれだと思い、すぐさま電話をかけました。

 すると翌日にはその事務所の探偵だという男がやってきて、簡単な面談をした後、即日契約ということになったのです。正直この時は「浮気の証拠がでなければタダなんだし」という軽い気持ちでいました。


 ところが、いつまで経っても報告書がきません。何度連絡しても電話番の女性が『調査中です』とか『不在です』とか言うばかりで、ちっとも探偵と連絡が取れないんです。もうキャンセルしようかとしびれを切らしかけた頃、ようやく出された報告書はまったく中味のないペラペラなものでした。それなのに、請求書には数十万円という金額が書かれていたのです。

 

これは証拠とは言えないから払えないというと、探偵は『契約書をよく読んで下さい。タダなのは成功報酬部分だけで、交通費や日当、必要経費は別途に請求するとあるでしょ』と言うんです。断固突っぱねたかったのですけど契約書を盾に取られて訴訟だとかなんとか言うので、私は仕方なくカードで支払いました。痛い出費でしたわ。

 

 話はここからなんですけどね。数日後にまたあの探偵が来て『実はもう少しで証拠が押さえられるところだったのに、奥さんがせかせるから、あんな報告しかできなかった。だから再契約をしないか』と言ってきたのです。

『ご主人は相手の女の休みにあわせて毎週月曜、外回りの最中に会っているのだ』と。

 

これは私にも思い当る節がありました。いつもはしている結婚指輪をしてなかったり、石鹸の匂いがうっすらとしたり。

 『費用のほうも証拠を押さえて相手の女から慰謝料を取って、それで払えばいいのだから』と言われ、ついその気になって再契約してしまいました。先日支払った大金もそれで取り返せると思ったからです。


 その後、探偵は証拠写真とやらを提出してきましたが、肝心の女の顔がピンぼけで、しかも二人でいる写真はありませんでした。それでいて請求額は200万円に膨れ上がっていたのです。こんな高額は到底支払えないと申しましたら、探偵は『では旦那さんとお話させてもらいましょうか』と言うのです。

もしこの証拠写真がねつ造で本当に浮気してなかったのなら、疑った上に大きな借金を作った私は芳弘に離婚されてしまうかもしれない。悩んだ私に探偵は甘い言葉をささやきました『一夜限りの関係で半額にしてあげよう』と。

 バカな私はついその甘言に乗ってしまいました。ここからが悪夢の始まりでした。

 

探偵は不貞の写真をもとに今度は私を脅し始めたのです。一夜限りのはずが二度、三度となり、やがて私の不貞は芳弘に知られることとなりました。

そして有無も言わさず離婚を言い渡された私は、せめて相討ちにしようと一か八かで芳弘の不貞を訴訟にかけました。でも案の定ピンぼけの写真に証拠能力はなく、負けてしまった私は裸一貫で家を追われました。


 え?今ですか?芳弘は私を追い出すと、すぐに若い女と再婚しましたわ。ええ、おそらくは浮気相手だった娘なんでしょうね。いまさらどうでもいいですけどね。

 

ああ、私のほうですか?今はねえ。私、あの探偵の情婦やってるんですよ。笑えるでしょ?でも借金は別だって言うんで、まだ返済中ですわ。夜な夜な肌も露わな薄物を着て、酔客の相手をして稼がさされています。その内、もっと巷の闇の中に堕ちていくのでしょうねえ。

これも自業自得ですわ。探偵選びを間違えた、たったひとつのミステイクからこんな結果になったんですもの。あら、もうそろそろお店の時間ですわ。今、謝礼いただけます?どうもありがとう。では失礼します。        完


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