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微睡みの螺旋

作者: WATT

 そこはいやに黴臭く、しかしその植物ですらないものたちの群れ成す息吹によって、私はハッと気が付きました。とてつもなく長い階段を、下へ下へと降りていたのです。階段とはいっても、真っ直ぐなそれではなく、どうやら渦を巻いているらしかったのです。その上、一段がいやに高く急勾配なものですから、私は錆びて鉄臭い手すりを頼りに、ゆっくりゆっくりと降りていくのです。下はどこにつながっているのか、常にヒンヤリとした風が私の汗ばんだ体を撫で癒すので、息は上がり、ふくらはぎはパンパンに張っているのですが、その風のお蔭でどうにか降りつづけることが出来るのでした。唯一困ったことと言えば、私の持つ蝋燭の火が、幾度となく脅かされることです。始めのうちは後ろ向きで歩いてみたり、手で覆ってみたりといろいろ試してみたのですが、降りつづけていくうちに、その蝋燭が少しも減っていないことに気が付きました。それからは占めたものです。息が上がる今時分までは、揚々と降りたものです。

 しかし私は、いつからこんな階段を降りつづけていたのでしょうか。いつになったら終わるのでしょうか。はたまた上へ登ってはいけないのでしょうか。しかし私は気が付いた時から階段を降りつづけていましたので、「登ってみよう」などと妄想はするものの、実際にそんな大それたことをする勇気は、生憎と持ち合わせてはおりませんでした。私が持つ蝋燭に終わりがないように、私の「降りる」にも終わりはないのかもしれません。そんなことを思うと却ってぞっとしないでもありませんでしたが、「登る」勇気に比べたら、「降りる」は大して問題がないような気がします。

 そんなことを思いつつも、私は今も慎重に、慎重に、急勾配の階段を降りつづけています。動くものと言えば蝋燭のゆらめきと物言わぬ黴くらいなものですから、私の物思いがいやに饒舌になることをお許しください。

 そうこうしているうちに、とうとう階段の終わりがやってきました。

 ――ああ! 夢にまで見た「降りる」の終わりだ!

 そう思ったのはただの一瞬のことでした。終わってしまえばなんてことはないのです。何故ならば、終わりとはつまり、もう何もない、ということなのですから。私は落胆しました。「ほうっ」とため息をつくと、今まで頑固なまでに私の足元を照らし続けていた灯が、ふっと消えました。

 そして、どこか上の方から「ぼおおおおん、ぼおおおん」と何かを叩きつけたような音が聞こえてきました。


 そこで私ははっと目が覚めました。敷きっぱなしのために黴臭くなった布団の上に、私は寝ていたのです。窓の外を見ると、遠くにそびえる時計塔が「おおおおおん」と鐘の音の余韻を告げておりました。


<了>

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