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寡黙少年の物語 前編

昔々、あるところに気が弱く寡黙で何よりも、静かな平穏を望む少年がいました。


寡黙な少年は幼い頃から両親に疎まれ厄介まれながらもまっすぐで素直な性格も曲がらず、すくすくと成長し、深い森にたたずむ全寮制の男子校に通う立派な高校生になっていました。



寡黙な少年は目立たずひっそりと毎日に学園生活をただ過ごしていました。






ですが、寡黙な少年の平凡で平和な毎日を過ごしたい…そんなささやかな願いを破壊する者が現れてしまったのです。


それは、季節外れの一人の転校生でした。

その転校生は今時珍しい、黒いボサボサの髪に瓶ぞこの眼鏡をかけた少年でした。


転校生は見た目に反したはっきりとした性格でずばすばものを言う少年でした。

そんな少年は学園の人気者達を次々と虜にしていってしまったのです。


それだけならばよかったのですが、転校生は「愛されることは当たり前」、「愛さない人はいない」、「愛される存在だから何をしても許される」、「自分が1番正しい」そんな考えをもっているため気にくわない人には暴力を振るう、自分の思い通りにならないと子供のように大泣きをする。そんな我儘で傲慢な少年だったのです。


寡黙な少年は「自分に被害がないならそれでいい」、そう思っていました。


ですが、寡黙な少年は我儘な少年とあろうことかクラスメイト、同室者になってしまったのです。





それからの毎日は寡黙な少年にとって悪夢のようなそんな毎日でした。

我儘な少年は毎日のように取り巻きの人達を部屋に招き入れ周りの迷惑を考えずに夜中まで騒いで過ごしていた為、寡黙な少年は寝不足が続き目の下には深い隈ができるまでになってしまったのです。



寡黙な少年は我慢に我慢をし続けました。

何故なら、我儘な少年の取り巻きは、人気の高い生徒会や人気の高い先生など、親衛隊持ちの学園の人気者達だったからです。




そんな気持ちとは裏腹に寡黙な少年は我儘な少年の親友とまで呼ばれるようになってしまったのです。

そのせいで、取り巻き達からは殺意の篭った瞳で見られ、親衛隊からは我儘な少年の代わりにと制裁を受ける。

そんな毎日を送るようになっていたのです。



寡黙な少年はそれでも…毎日が嫌で死にたくなるような毎日でも何一つ文句を言わずただただ耐え続けていました。

体にはいく度となく傷つけられた様々な傷が浮かび、瞳の色が濁り始め、心にはひびがはいり、粉々になったとしても、少年は耐えに耐え続け、何一つ言いませんでした。









その理由は、少年の家庭環境にありました。


少年が生まれたのは裕福な家庭でした。

少年の家が裕福だったのは、その家の主人が親族でとても大きな様々なものを開発する科学研究のトップだったからです。


新しい発明をすれば、成功し。また新たに発明する。そうして親族であらゆる数と種類の発明をしていったのです。それは、とどまることを知らず、その一族はあっという間に世界一になりました。


お金に困らない、大きな権力をもった家庭だったのです。

少年は、その一族のトップの第一子として生まれたのです。


ですが、少年は普通の人とは違う生まれ方をしました。

普通の人は、両親が愛し合いその結晶とし母親のお腹のなかで育ち、母親から愛を与えられ生まれるでしょう。


少年は違いました。

日の差さない、暗い地下の実験室の中、産声もあげないまま、小さなガラスのケースと溶液のなかで、生を受けたのです。


そう、少年は生まれたのではないのです。強欲な大人達に作られた(造られた)、人形という存在だったのです。



そして、少年はおしゃぶりの代わりに、試験管を。

ぬいぐるみの代わりに、学書を。

お絵描きには、犬でも猫でもなく、数式と、成分構成の図を書き。

おままごとの代わりに実験を。



そして、薬学を、臨床学を、心理、倫理、社会、地理、国勢に、世界情勢、生物学に、科学と化学、生理学、生化学、解剖に衛生学、帝王学、様々な教科を鬼ごっこや歌遊びを知る前に覚えさせられ


テーブルマナーを、乗馬を琴、茶、華道を。簡単なピアノから、ダンスと様々な外国語を、5才までには完璧にこなせるように。



手に入る知識は全て。

学べる技術は骨の髄まで。



すべてを、学ぶことが、人形に課せられたことだったのです。





そうして、少年(人形)は母親の温もりをを知らず、父親の正しいあり方を知らず、愛を知らず、温もりを知らず、成長していったのです。






けれども、大人の言うことを聞いても人形の少年が愛されることは一度たりとも訪れませんでした。






そうして、月日が流れ少年(人形)には生物学上の父親の再婚で、義理の母親というものができました。

少年(人形)は義母を愛そうとしました。ですが、義母は少年(人形)を軽蔑、嫌悪、様々な感情の篭った瞳で見つめ「化け物」、そう、言いました。


そう、幼いながらに様々なことを学んだ少年(人形)は周りから見たら物事を知りすぎた君の悪い"化け物"となっていたのです。



その時、少年(人形)は分かってしまったのです。愛されたいがためにしたことは全て自分を"化け物"と移すものだということを。


少年(人形)は悟ってしまったのです。

自分が愛される時は一生こないと…。






そんな少年(人形)の家族に新しい家族が生まれました。

少年(人形)に弟が生まれたのです。普通に生まれ、普通に育てられた弟でした。


両親は弟にめいいっぱいの愛を与えて育てました。少年(人形)は家族の省けものとなり本当に人形となり屋敷の隅へと追いやられてしまいました。


その時に、初めて目を合わせてくれた"父"は言いました。



「お前はもう何もするな。何もしないで静かに生きろ。弟より前にでることは許さん。お前は弟を輝かせるためだけのただの人形だ。言われたことだけをやれ。それ以外自由に生きることは許さん。お前は死ぬまで弟のために生きる人形だ。


自分の考えを持つことは許さん。自分の考えを言うことも許さん。


人形のお前に許されるのは死を待つことだけだ。」




少年(人形)はその日から全てを押し殺して生きるようになりました。


顔を隠し、下を向き、必要最低限の事以外しか喋らず、自分の"化け物"と呼ばれた能力を表に出さないため全てを平均にし、自分の全てを覆い隠して弟の為に生きる人形になったのです。








そうして、少年は弟の志願した高校に行きそこで普通の他人として過ごす高校生になったのです。




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