友達の友達は友達
二人組が、歩いていた。
道行く人々がすれ違うたび、振り返る。
それほど目立った2人なのだ。
すらりとした黒髪の青年に、端正な顔を持つ少女。
少女の真新しいパーカーのフードからこぼれる金糸の髪が眩しい。
その少女が一歩前を歩く青年に問いかけた。
「今日は何処に行くんだ?」
「俺のダチのとこ。お前も来いってさ。」
「…ダチ?」
ソラは都和が言った聞きなれない言葉に首を傾げた。
友達の友達は友達
「ここだ。」
都和は住宅街の一画で立ち止まった。
「大きい…私達が住んでいるところより」
ソラが正直に感想を述べた。
周りの家並みから浮き出るように存在感のある邸宅が、二人の目の前に立っていた。
都和は自分の住むボロアパートを思い出し顔をしかめた。
「…一言余計だ。」
そう言って都和は表札の下にあるインターフォンを押すことなく門を開けた。
都和の後に続いてソラも入る。
都和はそのまま迷うことなくドアを開けた。
「…おじゃまします。」
「もう覚えたのか、そんな言葉。
あ、靴脱いだらもってけよ。」
感心したような声を出しつつ、すでに都和はまるで我が家のように家に上がり込んでいる。
ソラがスニーカーを手にしたのを確認してから都和は迷うことなく階段を登り始めた。
「ここには誰もいないの?」
「ああ、いるんだけどな…。あいつどうせ俺らを玄関まで迎えにくる甲斐性なんてねぇから。」
階段を登り切ると広い廊下を迷いなく進む。
そして一つのドアの前で立ち止まった。
都和が腕を上げノックする
トン、トン…トン
数回のノック音にも、部屋の中で何か動く気配はない。
「しょうがねぇな…おい、入るぞ…。」
そう言うと都和はドアを開けた。
部屋の中は真っ暗で、カーテンを締め切っている為、あるはずの窓からも日が差し込まない。
さすがに友人の部屋の電気の場所は知らず、都和は躊躇い入り口で立ち尽くした。
「寝てんのか、あいつ…?」
「ちょっとまって。」
「?っうわ。」
ソラは都和の襟首を掴み廊下に引っ張った。
そして自ら部屋に入る。
「なにす…」
ガシャン!
抗議しようとした瞬間、激しい音がなった。
「これは…」
部屋に一歩入った辺りになにか落ちている。
明らかに先の音の原因を都和は拾い上げた。
「…金だらい?」
まあ、なんの変哲もない金だらいだ。
問題は部屋の天井から落ちてきた、ってことだ。
「なんか罠みたいだな…。」
(なにくだらねぇことしてんだ、あいつ。)
呆れていると、ふと目の前にいるソラが空いた方の手をポケットに突っ込んでいるのが見えた。
ゴソゴソとなにかを取り出す。
「んだよ、それ?」
「途中で拾った石。」
「拾うなよ…」
(道端に落ちているものを拾っちゃいけないって教えとかないとな…)
などと考えていると不意にソラは腕を持ち上げ…
思い切り石を投げた。
ドンッ!
鈍いが大きな音がした。
確実に何かには当たっている。
「っ!ソラ!お前なにして!?」
いくらなんでもやりすぎだ。
睨みつけるとそれに動じた様子もなくソラはほっそりした腕を上げて部屋の中を指差した。
無表情のまま、言う。
「犯人にロックオン。」
(ロ、ロックオン?なんだそれ…)
「…やべ、ばれ…」
急に壁に石を投げられ、ロックオンだの変なことを言われ、動揺していた都和だが小さな声を確かに聞き取った。
(あいつの声じゃ、ない?)
俺はソラの横を通り、部屋の中に入るとソラが石を投げた方向に向かってスマホのライトをつけた。
「?こども…?」
座っていたのは男の子だった。
目をくりくりさせてこっちをみている。
子どもの真上の壁にはソラが投げた石があけたであろう穴があいていた。
ソラが問うた。
「犯人?」
子どもの方もどうやら動揺しているようだ。
目が落ち着かなげにきょろきょろしている。
「ぼ、僕…、隣の家に引っ越してきたんです…今日はお兄ちゃんに遊んでもらって…だから犯人じゃ」
「嘘だな。」
都和は戸惑いながらおどおどと喋る少年の言葉を遮った。
「え…そん」
「まず、第一になんでこんな暗いところで遊んでいる?第二に普通に暗闇からなんか飛んできたらビビるだろ。最後に…」
都和はキッパリと言った。
「仮に隣に引っ越してきた奴がいたとしても、外に一歩も出ないアイツが隣の家の子どもと遊ぼうなんて思うわけがない。…お前は誰だ?」
男の子は驚いた顔をして…それから可愛らしい顔を豹変させた。
頭をかいて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あーぁ、兄ちゃんたちにはばれたかぁ…そうだよ、おいらは兄ちゃんの言うとおり隣の家のガキじゃない。」
だいたい隣の家は60歳のジジババだし、とつぶやく少年は口調まで変わり、最初の印象とだいぶ違う。
スマホのライトに照らされたまま、少年は楽しげに笑った。
「おいらはそこの姉ちゃんと同じ、神の創造物さ。」