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しつけてないペットだけの留守番ほどそわそわするものは無い。

ーあたたかい。


ソラは自分のいる場所が自分のクオリアのセカイだと理解していた。


畳 本

散らばる服

乱雑に散りばめられたそれらを包む透明な丸い球体


その中にソラはいた。


ー…いなきゃ嫌なの。

…1人は嫌…


誰かの声が、聞こえる。


ー誰?


空間にソラは尋ねた。

きょろきょろと辺りを見渡す。

いつもは狭いと思うのに

隅々まで知っているはずなのに

ソラが探し始めると見慣れない草で視界が覆われてしまう。


赤、緑、黄色、青


キラキラと光る雨粒が降ってくる

そしてそれは落ちるたびに


カー…ン コン コロロ…


高い澄んだ音を鳴らしては囁く声をかきけしてしまうのだ。


ソラは問う。


ー応えて。

…あなたは誰?


~しつけてないペットだけの留守番ほどそわそわするものは無い。〜


「よ、久方。おはよ。」


「んー、…はよ。」


「なんだよ、お前。いつにもましてぼけっとしてんな。」


チラリと横目で見て返事しただけの都和に青島はそういった。


「ああ、ちょっと気になることがあって。」


(ちょっとどころじゃねぇけどな。)



一時間程前…



「なあ。」


「むぐ?」


「お前さ、留守番できる?」


「ふふはん?」


卵焼きを口に入れながらきょとんと首を傾げるソラの前で都和はブレザーの袖に腕を通した。

日曜はあっけなく終わり、今日は月曜。

登校日である。


「そう、俺学校行くから。」


「…ついていったらダメ?」


(いや、無理だろ…)


「お前、学校の生徒じゃないから入れないんだよ。」


そういうとソラはこくりと頷いた。

室内なのに相変わらずパーカーを羽織りフードを被っている。


「…わかった。留守番する。」


「ん。よろしく。家から出るなよ。あ、昼は昨日作った煮物食っとけよ?」


思いついたままに注意をあげていくとソラはこくこく頷いた。

だいたいの事は伝えたことを頭の中で確認してから、何も入ってないような、薄いスクールバックを手にする。


「じゃ、行ってくる。」


と、ローファーをつっかけた都和の背中に声がかけられた。


「あ、都和。」


「あ?」


振り向くと玄関先まで来ていたソラが首をコテンと傾げた。


「留守番って何?」


…回想終了。



(一応説明はしたけどな…

意味分かってるか、あいつ?)


青島が前に座ってきたので都和は取り敢えず考えるのをやめ、青島に聞いた。


「…で、お前は何の話をしに来た?」


「なんの話って…話がなくちゃお前んとこきちゃだめなのかよ。」


「いや、でも今、朝じゃん。話したいことあんじゃねぇの?」


青島は昼のハイテンションからは想像出来ないほど朝に弱い。

学校が始まって数ヶ月経つがすでに数回は1時間目に間に合っていない。


(こいつがこの時間学校にくるのは誰かに言いたい話を掴んだか、明日は雪か、だからな。)


本人が聞いたら怒り出しそうなことをさらりと思いながら都和は先を促した。


「で?じゃあ、お前話したい事無い訳?」


「それがさ。」


(結局あるじゃねぇか。)


呆れながら聞く都和に青島は聞かれてはいけない話のように声を潜めた。


「この前俺、お前にヒーローの話したじゃん…あれ、実は女だったんだってよ。」


「はぁ!?」


ガタッ


都和は思わず立ち上がった。


授業中は眼鏡をかけているせいか、女子からはクールな男子というイメージを持たれ、

男子からも運動神経抜群で気のいい奴だけど口数の多い方ではないと思われがちな都和である。

その都和があげた大声はクラス内の視線を一挙に集めた。


「おま、なんでそんな興奮してんの!?」


言った本人である青島も都和の反応を見て驚いている。


「…ごめん。なんでもないから。」


クラス中の視線を浴び、少し落ち着いた都和はみんなにとりなすように言うと青島に顔を近づけた。


「それ、誰から聞いた?」


「誰って、誰かだろ。とりあえず、俺が聞いた奴が流した訳ではないってことは確かだけど。」


都和はぼりぼりと頭をかいた。

やっちまった、といった感じである。

よく考えたらあんな明るいところで暴れたら分からない訳がない。

ソラの顔も見られたかもしれない。


(しかし、まだ打つ手はある。)


都和は真剣な顔で青島に言った。


「なぁ、青島。その噂、ヒーローの近くにもう1人居たって聞かなかったか?」


「あー、そうそう。

なんだよ、お前、知ってたの?」


とっておきの話を知られていたことに悔しそうな声を出す青島に都和はさらっと言った。


「実はさ、そこにいたの俺。」


「はぁ!?」


ガタッ


青島が大きな声を上げて驚いた。

都和の時とは逆でクラスメイトは何時ものことだと青島を見もしない。

せいぜいチラリと視線をよこす程度である。

しかし、そんなことも気にかけず青島は都和に興奮気味に詰め寄った。


「何お前、何お前!知り合い!?ヒーローさんと知り合いなの!?」


「まあ、そんなようなもん。」


身を引きながら答える。


(本物は俺だし、この前のに至っては現在進行形で同居人だからな。)


もちろん都和の心など見えるはずもない青島はちぇっ、と口を尖らせた。


「なんだよ、お前が知り合いだとわかってればさっさと色紙渡してたのに。」


「サインって、お前…。芸能人か。」


友人のミーハーぶりに呆れつつ話を戻す。


「…まあ、それはともかく。

俺はヒーローと知り合いだ。

あいつのことはよく知ってる。」


いかにも深刻そうな都和に青島もうんうんと真面目に頷く。


「あいつさ、ちやほやされんの嫌いなの。女だってばれんのもさ。だから男って噂流してくれねぇ?」


快く了承してくれるかと思いきや、青島は眉間にシワを寄せて首をひねった。


「でもさぁ、なんで女だってばれちゃダメなんだ?」


「それはな…なんていうか…」



(やべ、理由考えてなかった…!)


と、いきなり青島が声を上げた。


「あ、女だと舐められるからか!」


「そ、そうそう。それだよそれ!」


「なるほどなぁー…。」


(青島が予想以上に単純でよかった…!)


内心ホッとしていると青島がニヤリと笑った。


「わかった。そーゆーことなら俺も協力する。…だからさ、な?」


「なんだよ。」


「サインもらってきて。」


青島は、どこから出したのか妙に手際良くノートとペンを突き出した。





(さっさとかえんなきゃな…)

今日に限って長引いたホームルームを終え、都和は階段を駆け下りていた。

他のクラスはとっくに終わっていたらしく、下駄箱にはそれなりに人がいた。


「都和ー!」


聞き覚えのある声に話しかけられ、都和は振り向いた。

そこには予想通り、青いユニフォームを着た秋津あきつが立っていた。

少し背は低いものの明るい性格でそれなりに人気があるサッカー部のキャプテンである。


「何だよ、秋津か。」


「頼む!一生のお願い!」


秋津は人懐こい笑みを浮かべ、パンと手を合わせた。

聞く前から“お願い”がなんとなく想像できた都和は頭をかいてため息をついた。


「お前の一生のお願いは何回あるんだ…」


「まじ今日勝たなきゃやべえのよ。」


(さっさと帰んなきゃならねえってのに…。)


都和は溜息をつきつつ、癖のある明るく染められた茶髪をべしっ、と叩いた。


「…たく。一試合だけだぞ。」


「やりぃ!あ、これお前のユニフォームな。」


こうなることが分かっていたと言わんばかりにしれっとユニフォームを突き出す秋津に呆れながら都和は未練がましくローファーを見た。


(あー、大丈夫かな、あいつ。)


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