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体が名を表していてもいいと思う。


(あー、疲れた。)


買い物だけでいつもの数倍疲れた都和ははぁ、と溜息をついた。

両手に2つずつ持っている紙袋が歩くたびこすれてガサガサと音を立てた。

それをじっと少女が見つめる。


「あの…」


少女が言いかけた時、道の真ん中に大声が聞こえた。


「おい、そこの!」


(周りに人はいないし…俺か?)


都和が振り向いた。

6人程の集団がこちらを睨みつけている。

中には痛々しく顔にガーゼを貼っていたり、包帯を巻いていたり奴もいた。

そして皆一様に殺気だっている。

都和が首を傾げ、尋ねた。


「…誰?」


「用があんのはお前じゃねぇ!そっちだ、白パーカーのお前!」


「?」


(こいつ?)


男達に見えないように都和は怪訝な顔をした。


(こいつに知り合いなんているわけが…いや、待てよ?白、パーカー?)


「あ。」


都和は今の今まで記憶から消していたことを思い出した。


(この前、ボコった奴らか…。そういえばこの前俺が着てたのもこのパーカーじゃ…。)


しかも、少女はフードをかぶったままである。

そうとなれば話は簡単だった。


(勘違いかよ。)


身長など明らかに違う点はあるがほとんど暗い中数分見ただけでは派手な白いパーカーだけしか覚えてないのも無理ないことかもしれない。

都和は顔をしかめた。


(でもこいつを巻き込みたくはないしな…)


「フードかぶったままで声、出すなよ。」


そう少女に告げると都和は一歩前に出た。


「ばーか。」


なんだこいつ、と訝しげに見ていた男達を都和は挑発した。


「この方はな、お前らみたいなクズと張り合う気なんてないんだよ。」


一気に場が殺気立つ。


「んだ、てめぇ!」


「だったらお前から潰してやんよ!」


(何度やったって結果は同じだけどな。)


すっと静かに臨戦態勢に入る。

怪我をしていない、加勢に来ただけであろう男に蹴りを入れる。

自分側に倒れてくる男を避け、他の奴らも流れるような所作で倒してゆく。


「うらぁぁあっ!」


ほとんど意識せずに都和が5人目を殴り倒した時、怒声が響いた。

ちら、と後ろを向くとガーゼを貼った男がバットを振りかざしているのが映った。


「雑魚がでしゃばってんじゃ」


その時、都和の目の前に白いものが映った。


「…っ!」


臓腑が握りしめられたような気がした。

都和が声を上げる間もなく、バットは小さな手に握られていた。


「なっ、てめ」


少女は都和の言葉に従っているのか男の言葉に反応することなくバットを掴んだ反対の手で拳を作ると、それをまるで子供がじゃれてパンチするように男の鳩尾に叩き込んだ。


「ぐほっ!」


傍目では軽く突き出したようにしか見えないそれがモロに入ったらしく、男は悶絶して路肩に倒れた。

少女はそれを無表情で見下ろした。


(胸糞悪ぃ…)


都和は胸の辺りを抑えた。

この程度の喧嘩じゃ乱れない心臓が今はバクバク言っていた。

少女が落とした分の荷物を手早く集め、その手を取り、顔を見ずに言った。


「帰るぞ。」





少女は自らの手を掴んだまま早足に前を歩く都和をみていた。


(流れ込んでくる。)


どす黒く、渦を巻く何か。

それと、じくじく痛む何か。


(怪我、してないはずだけど。)


少女はさっきの喧嘩中、都和の所作を至る所まで見ていた。

そして怪我をしそうな鉄パイプだけ、受け止めたのだ。


(分からない。)


何を感じているかは伝わってくる。

ただ、なんでそう感じているのかが理解出来ない。


(わたしの心が欠けてるから。)


少女はそう思った。


(痛みはわかる。なんで痛いのかが、わからない。)


と、あまりに視線を感じたのか、都和が振り向いた。


「…なに。」


少女はじっと都和を見て、思ったことをそのまま口に出した。


「わたしは邪魔?」


少女に見上げられた都和の眉が顰められた。


「なにを」


「昨日も天使に持ち帰れと言ってたし、今日もたくさん迷惑をかけた。今だって…」


黒いものがなんなのかを言葉に出来ずに口を噤む。

言いたいことは分かったのか、都和はふいっと目を逸らした。


「そんなんじゃ、ねぇよ。」


都和が足を止めた。

少女もそれに合わせて足を止める。

少し、黒いものが穏やかになったのに少女は気づいた。


「さっきのは俺が悪かった。…でも、一つだけいっとく。…おまえは、俺を守るな。」


真剣な目で、都和ははっきりと告げた。

鋭いそれに少女は目を伏せた。


「でも…。」



この人を傷つけてはいけない。

そう心の何処かで訴えてくる。

言いかけた少女を遮るように都和は言った。


「お前がどう思ってるかは知らないけど俺、お前のこと一度も部下とか下僕とか思ったことないから。」


(?)


都和の言葉とともに黒いものとはちがう穏やかなものが流れ込んできて、少女は顔を上げた。


「おまえは俺ん家の同居人、だろ?

だから、お前は俺のことを主人だと思わない。これは契約じゃなくて約束だ。」


「…うん。」


「俺は同居人にご主人様と傅かれる趣味は無い。」


「うん。」


「だから名前で呼べ。」


「都、和…?」


「なんで疑問形だよ。」


硬かった表情が崩れた。

フッ、と笑う。


(なんだろう、このあたたかいものは。)


少女は目を閉じた。


(わからないけど、嫌いじゃない。)


そして、ほんの小さな声で都和が呟いた。


「…俺も、ソラって呼ぶ。」


「空…?」


聞き逃さなかった少女が目を開くと都和は少し目を逸らしていた。


「…お前の目、透明だろ?だから色が映って、空を切り取ったみたいに見えるから…

他のが良かったか?」


「ううん。」


初めて都和の言葉を否定した。

そのことが意外だったようで都和が少女を見る。


「ソラがいい。」


(あたたかい。)


確かめるようにソラは少しだけ強く、握る手に力を込めた。


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