体が名を表していてもいいと思う。
鳥の声がする。
カーテンごしの朝日がもたらす光だけで小さな部屋はいっぱいになっている。
その部屋の壁にもたれかかるように雪だるま…ならぬ白いシーツを頭からすっぽりかぶった少女が目を閉じていた。
(…シュールだ。)
目を開いて3秒後。
都和は心の中で呟いた。
~体が名を表していてもいいと思う。~
ボリボリ
「…で、昨日の話をまとめると。」
都和は朝食のたくあんを齧りながら都和は話を切り出した。
ちなみに都和が作る朝食は白米に卵焼き、たくあんに味噌汁。純和食である。
「お前は神様に作られた存在で…」
「む。」
「俺のお守り袋が契約物になって動いてる…」
「んん。」
「それで神様が迎えに来るまでここにいる、と…。」
「むん。」
「…お前な。」
都和は茶碗を置いた。
やわらかい湯気を立てている味噌汁を手に取る。
「口いっぱいに頬張りながら返事するの、やめろ。」
「む。」
少女はむぐむぐと口を動かしながら頷いた。
(でも、ホントに食うとは思わなかった…。)
人と同じ材料で作られたのでエネルギー源は人間と同じ食べ物。
都和に聞かれ、少女は答えた。
半信半疑で試しに和食を作って渡したところ、少女は迷わず口に入れ、都和は1人ホッとした。
その中でもどうやら卵焼きが気に入ったらしくご飯が口の中にまだ入っているのにもかかわらず卵焼きを突っ込んでしまう。
彼女の小さな口がそんなキャパシティがあるわけでもなく、おかげでリスのように頬がパンパンになっていた。
「ほら、俺のもやるから。」
箸で卵焼きの乗った皿を押し出すと、
声は出なかったものの都和には少女の目が嬉しげに光ったように見えた。
相変わらず無表情ではあったが。
(さて、とりあえず…)
「よし。」
都和の中で既に今日やることは決まっていた。
味噌汁を一気に飲み干すと都和は気合を入れて立ち上がった。
「食い終わったら、行くぞ。」
「行く?」
やっと口の中の物を全部飲み込んだ少女が聞き返す。
「お前の服を買いにだよ。」
ダボダボのスウェットと長袖Tシャツを着てこちらを見ている少女に都和は言った。
澄んだ青空が広がっている。
すっ、と吸い込むと暖かな春の匂いがした。
「いい天気だな。」
「うん。」
隣の少女は頷いた。
流石にスウェットがぶかぶかすぎてそのまま外には出れなかったのでジャージとパーカーを着ている。
シーツを被って寝ていたところからなんとなく都和が感じていたが少女は何かをかぶるのが好きらしかった。
今も、フードを被っている。
「…そういや、お前、名前無いんだったな。」
少女が都和を見て、頷く。
「うん。」
「俺がつけんの?」
少女は横に首をを振った。
「別に無くても大丈夫。
お前でも、それでも。」
「そんなわけにもいかねぇだろ…。」
名前をつけるとしたらどんな名前にする?
そう問われたら答えられる自信が都和にはあった。
(一つだけ案があるんだけどな…)
しかしなんとなく口に出しづらかった。
「…まあ、後でな。」
それとなく誤魔化して都和はやっとついたデパートに入った。
(…女物ってどれ選べばいいかわかんねえ…)
デパートの中。
多種多様な服の前で都和は呆然としていた。
「いろいろありすぎだろ、マジで…」
(こいつに助言求めてもムダだしなぁ…)
興味深げにマネキンの履いているスカートの裾をめくっている少女を見て、都和は溜息をついた。
どうしようかと都和が立ち尽くしていると、目に余ったのか、店員が笑顔で寄ってきた。
話しかけたのが少女だったのはレディースのフロアだからだろう、と都和は思った。
「何かお探しですか?」
「いや、こいつの服が欲しいんですが…」
代わりに都和が答える。
指で指し示した先にいる少女を見て、店員が微笑ましげに言った。
「ふふ、いい彼氏さんですね。」
「ううん、ご主人様。」
少女の一言に店員の対客用笑顔がぴくりと引きつった。
(…今あらぬ方向へと話が進んだんじゃね…? )
都和は慌てて少女の袖を引っ張った。
「おい、お前っ!」
「?」
「人前でそれっ…」
「だっ、大丈夫ですよ?
…これなんかどうですか?」
店員は明らかに生温かい目をしている。
(…なんか、すごく気を使われてるんだけど…。)
「どうしますか?」
少女が店員が選び抜いた服を都和に服を突き出した。
黒地にフリフリレースのワンピース。
(いや、似合う。似合うんだが…。)
「…結構です…。」
(だから、メイドプレイじゃねぇ!)
都和は引きつり笑いをしながら心の中で叫んだ。