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青輝のラジエル  作者: 秋月スルメ
第一部 来訪、新世界
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第四話 ギルドでの驚愕

 高く広がる吹き抜けの大空間。古びて白ちゃけた石のアーチが天井を形作り、そこから豪奢なシャンデリアが下ろされている。その縦長の大広間の奥では意匠をこらしたステンドグラスが、七色のパステルカラーの光を投げかけていた。


 ステンドグラスのすぐ下から下がっている巨大な垂れ幕。滑らかで艶のある、青いビロードのような素材のそれには少々変わった紋章が描かれていた。六亡星型の魔法陣の中に、本が置かれているというデザインだ。その本の題名にあたる部分には『青の旅団』と記されている。


「ここがギルド……中もやっぱりなんかイメージと違うなぁ」


「そうなのか? この大陸にある大手のギルドはだいたいこんな雰囲気だぞ。カイルのいたところではやっぱり違うのか?」


「僕の故郷だと酒場みたいなところが多いかな」


 カイルは遠くを見るような顔をしてそういった。彼にとって、アルカディアの中でもギルドは特に思い出の多い場所だ。お金稼ぎや素材稼ぎなどで、その存在は欠かすことができないのである。そのためたくさんあるギルドに関する思い出を、彼は思い出していた。


 メリナはカイルの話を聞いて、ふうむと首を捻った。彼女にとって酒場風のギルドというものは、いまいちイメージしにくいようだ。この大陸では城までとはいかなくとも、各ギルドは専用の屋敷などを保有していることがほとんどなのである。


「それはまた……。大昔はこの大陸のギルドもそうだったらしいが、今はそんなとこ見たこともないな。……ってゆっくり話をしている場合ではないか。ほら、受付に行くぞ。さっさと登録しなければ」


「ああっ、はいはい」


 メリナはカイルを連れて広間の奥へと移動した。すると広間の端に、受付カウンターのような場所が見えてくる。光沢のある木製のカウンターが壁から飛び出して、その周りにはコルクボードが張られていた。その近くにはいくつか椅子が並べられていて、そこだけ雰囲気がわずかに違う。


 そのカウンターの脇には背の低い、華奢な少女が座っていた。彼女はふんわりした碧の髪を揺らして、こちらに振り向いてくる。朝だから眠いのか、その小さく整った顔は憂鬱そうだ。


「おはよう……早いわね。でも残念、星クラスのクエストはないわ」


「違う違う、今日は私が依頼を受けに来たんじゃないんだ。こっちの男を登録して欲しくてな。保証人には私がなるから、すぐ登録してやってくれ」


「わかったわ。だけどその前に、その子とあなたはどんな関係なの? もしかして春でも来たの?」


 少女はからかうように言った。その紅い瞳はニヤニヤと笑っていて、悪戯っ子のよう。顔からは眠気が消えていて、すっかり目が覚めたようだった。


 その一方で、カイルは頬を赤らめた。彼は恥ずかしそうにしながらも、少女の発言を否定するべく声を上げようとする。しかしその時、予想外の言葉をメリナが放った。


「春が来た? こんな時期なのだ、来ていて当然だ。というよりもう夏だろうに」


 少女とカイルが固まった。二人の心を極地のような冷たい風が吹き抜けていく。だが、少女の方はすぐに気を取り直すことに成功した。


「……相変わらずの脳筋。メリナに期待した私がいけなかったわ。……それはそうとしてそこのあなた、名前は?」


「カイル、カイルって呼び捨てで良い」


「じゃあカイル、こっち来て」


 少女はカイルをカウンターの前の椅子に座らせた。彼女自身はその向かい側に座り、カウンターの中をがさごそと漁る。そして少ししてから、少女は十枚ほどの書類を取り出してカウンターの上に置いた。


「まず登録作業をする前にはじめまして、私はミースよ。このギルドに所属する魔導士で事務方を仕切らせてもらってるわ」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ。えっと最初は住所、氏名、年齢の確認からね。名前は聞いたから住所と年齢だけ言って」


「住所はメリナさんの家で居候。歳は今年で十五だよ」


「そう、じゃあ住所はメリナと同じで歳は十五なのね。わかったわ、書類に記載しておく。ちょっとまって」


 ミースは万年筆のような筆記具を取り出すと、書類に次々と記入していった。その作業は流れるようで、手慣れたもの。事務方を仕切っているだけのことはあった。


 彼女はこうして手早く書類の記入を終えると、今度は下から大きな水晶球を出してきた。明らかにその小さな手にはあまる大きさのそれを、彼女は抱えるようにして持ち上げる。そして水晶球が置かれた瞬間、地震のような揺れがカウンターの上を襲った。


「ふぅ……保証人がいるから、次はあなたの能力測定よ。この水晶に手を置いて。それでだいたいわかるわ」


「オッケー、わかった」


 カイルは軽い調子で水晶に手を置いた。すると水晶がにわかに震えて、その中で激しい火花が散る。そのただならぬ様子に、カイルは慌てて手を離した。しかし水晶はボンと音を響かせると、吹き飛んでしまう。


 ミースの顔がにわかに険しくなった。彼女はそのまま額に手を当てて天を仰ぐと、メリナの顔を凍えるような瞳で睨む。その表情たるや、まさに鬼だ。


「メリナ、どういうこと?」


「いや、カイルとはまだ知り合ったばかりなんだ。私にもよくわからん」


「それってどういうことなの? あなたの居候でしょう?」


「実はその、なんだ……」


 メリナはミースに近づき、彼女の肩を掴んだ。そのまま二人はカウンターの陰に移動すると何やらひそひそと話を始める。カイルのいた場所からは二人の姿はほとんど見えなかった。だが時折、ミースの呆れたような声がはっきりと聞こえてくる。


 しばらくして、メリナとミースはカイルの前に戻ってきた。二人とも眉間に皺を寄せて、苦い表情をしている。彼女たちはカイルの方を見ると濡れた刃のような視線を送った。その眼差しは稲妻のようにカイルの心を貫く。カイルは少し、冷や汗をかいた。


「……カイル、お前は故郷で何をしてたんだ? 能力測定の水晶が吹き飛ぶなんて普通はありえないが」


「……モンスター討伐をして暮らしてたんだよ。だからきっとレベルが上がってるんだと思う」


「レベルか……。だがそれだとおかしいな。魔導書と契約しなければ、そもそも人はレベルアップしたりしないぞ」


「えっ、そうなのか?」


「ああ、この大陸だと常識だぞ」


 冷える空気、静止する世界。二人の間を限りなく気まずい空気が漂った。たちまちのうちにそれはあたりを覆いつくして、世界は動きを止めていく。その中ではわずかな空気の揺らぎすら、途方もない大風のように感じられた。時間も引き延ばされて、カイルは冷や汗が滴り落ちるまでの時間を、永遠のように思う。


 だがその時、ミースが二人の間に割り込んできた。彼女は二人を見回すと、呆れたような顔をする。そしてゆっくりと話を始めた。


「とりあえず落ち着くべき。揉めても事実は変わらないわ。まず、カイルを詳しく調べることから始めるわよ。最新型の万能型測定水晶を出してくるから、ちょっと待ってて」


 ミースはそういうと、カウンターの後ろの扉からどこかへ出ていった。そしてしばらくすると、その扉の向こうから床が叫んでいるようなキイキイという音が響いてくる。それはまるで、巨人の足音のようだった。


「扉を開けて! 一人じゃ無理なの!」


「待ってろ、今行くぞ。……うおぉ! なんだこれは。よくここまで運んで来たな!」


「感心したなら運ぶの手伝って……!」


 ミースが持っていたのは恐ろしく巨大な水晶だった。その大きさたるや、彼女の上半身がすっぽりと覆われてしまうほどだ。当然、重量も凄まじいらしく水晶越しに歪んだ赤い顔が見える。足も震えていて、廊下の床に張られた木の板がしなっている。


 メリナとカイルは大急ぎでミースに駆け寄ると、水晶に手をかけた。ツルッと手に張り付くような感覚とともに、押し潰されるような圧力が二人の手にかかる。まったくもって、華奢な少女が一人で運んでいたとは信じがたい重さだ。


 しかし、さすがはカンストキャラといったところか。カイルは二人と協力しながらとはいえそれをなんなく運んでいく。彼一人で持ってもまだ余裕があるくらいだ。魔法職でもやはり一般人よりは筋力があるらしい。


 水晶はカウンターの脇の床にある窪みへと収められた。ピタリと嵌まったことから、この水晶のために用意されたものであろう。こうして水晶の準備が完了すると、ミースは息を切らしながらもカイルに説明を始める。


「はぁはぁ……。この水晶はレベルを測れることはもちろん種族などさまざまなことがわかるわ……。使い方は、水晶の真ん中にある手の平型の窪みに手を置くだけ。さ、やってみて……」


「よしっ……」


 カイルは腕まくりをすると少し気合いを入れた。そして叩くかのように勢いよく水晶に手を置く。するとまた、さきほどの水晶と同じように中で火花が散った。目がチカチカとするような光が散発的に放射される。


 だがやはり大きいだけあってこの水晶はさきほどの水晶とは違った。火花はやがて収まっていき、代わって無数の文字が現れる。それは筆記体のような文字でカイルには読めなかったが、ミースは次々と流れていくそれを真剣に見つめていた。一言一句見逃すまいと、目を光らせながら。


 文字が通り過ぎるたびに、ミースの顔付きは険しくなっていった。その大きな瞳は不安を表すかのように曇って、白く狭い額の皺はどんどんと深まる。さながらそれはよほど悪い夢でも見ているようで、はたから見ているカイルも不安に駆られてきた。


 そうしていると、ようやく文字の川は流れを止めた。ミースは顔を上げて、カイルの方に目を向ける。彼女は何度も、しつこいほどに文字を写したメモと彼の顔を見比べた。そして半ば、愕然としたような驚きを持って口を開く。


「うっ、嘘。レベル五百、種族パターン……アンノウン。能力データまで異常だわ。これは一体……。もしかしてカイルは『ヒト』じゃないの……?」



 今回は最強物でお決まりのイベントです。テンプレものとしてこれは外せませんからね。


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