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青輝のラジエル  作者: 秋月スルメ
第一部 来訪、新世界
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第十六話 明かされゆく世界

今回は設定の説明が主となっております。話はほとんど進みませんが重要な設定なので読み飛ばさないでくださいね。

「ううっ……。ここは?」


 カイルが頭を押さえながら身体を起こすと、あたりには白い空間が広がっていた。広大無辺で果てがないかのようにその白は延々と続いている。カイルはその空間を見ると、すぐにその正体に気がついた。この世界にきて初めての夜に見た、彼の精神世界だ。彼はそのことを理解すると、この精神世界の住人であろう名も知らぬ少女のことを考える。すると、まだ来てくれと声にも出していないうちから彼の前にポンっと少女が現れた。


「おわっ! ……なんだ、君か。まだ呼んでないのによくここがわかったね」


「心を読んだもの。それより、さっきは私の忠告を無視したわね」


「さっき……?」


 カイルは不思議そうな顔をして首をひねった。少女はそれを少しあきれたような顔をして見る。彼女は大きくため息をつくと、指をパチンと鳴らした。するとどうしたことだろうか、カイルが頭を抱えて呻く。顔を苦悶にゆがめながら、彼はそうしてしばらく声にならない叫びを上げ続けた。少女は彼の顔を不安げに覗き込むと小声でそっとささやく。


「記憶、戻ってきた?」


「ああ……。くそっ、どうして僕はあんな獣みたいなことに……」


「心のタガを無理にはずして魂の力を直接解放したんだもの。むしろ、今こうして理性を保てている方が奇跡的」


「心のタガとか魂の力とか……。よくわかんないよ、説明してくれないか」


「あなたたち人類は自分たちに関することすらまともに知らないのね。仕方ない、一から説明してあげる」


 少女はあきれたように両手を上げると、その指を鳴らした。白い世界がにわかに黒い闇に沈んでいき、その中に幾千もの光が浮かぶ。赤から青まで虹色の輝きを放つそれらは星のようであった。さらに、カイルの視線の端にはぼんやりと光る帯状の天の川まで見える。白い世界が一瞬にして宇宙空間へと姿を変えたのだ。カイルは驚きのあまり目を見開くと、少女の顔をあっけにとられたように見る。すると、少女はいかにも真剣な顔をして口を開いた。


「ここに写されているのは原始宇宙。今から百三十億年も前の時代の光景よ。あなたたちのことをわかりやすく説明するためにはこの時代まで遡らねばならない」


「百三十億年前って、人類誕生どころか地球ができる以前の話じゃないか!」


「いいから、私の話を聞いて」


 カイルの言葉に、少女はここで一呼吸ほどの間をおいた。カイルは彼女をいくぶんか疑わしい目で見る。しかし少女はしばらくすると、そんなカイルの視線のことなど関係なく話を再開した。


「この時代の宇宙はまだきわめて不安定だった。現代では消滅してしまっている虚数物質がまだこの時代には膨大な量が存在していて、それが宇宙を埋めて混沌の海とでもいうものを構築していたの」


「混沌の海?」


「そう、混沌の海よ。あらゆる可能性が無秩序に入り乱れる場所。高次元量子が極限まで乱れた環境にある場所ともいえる。だけどこの時代、そんな混沌の海にある種の規則性を持ったパルスが生まれた。それはやがて知性を獲得し、膨大な力を持つようになったの。この存在が、のちにあなたたち人類を生み出したのよ」


 少女の話がここで少しばかり途切れた。カイルは一瞬だけぽかんとする。直後、彼は少女をわずかばかりだが馬鹿にしたような視線で見た。その口元は少しばかり歪んでいて、笑いをこらえているようだった。そのカイルを、少女はむっとしたような顔で見つめ返す。彼女はそのまま、怒ったような声でカイルに話しかけた。


「信じていないのね」


「だって、人間は自然の進化の産物だって進化論で証明されているじゃないか。アルカディア世界の住人ならともかく、地球人が神みたいな存在に造られたとかありえないよ」


「進化論は正しい。けれど、その進化自体が仕組まれていたの。たとえば、あなたはミッシングリンクというものを知ってる?」


「さあ、知らないよ」


「進化の間にある欠けてしまった部分のことよ。たとえばキリン。キリンはもともと首が短かったのだけど、木の葉を食べるためにだんだんと首が伸びて今の姿になったといわれているわ。だけど、首の長さが中途半端なキリンの化石は見つかっていない。これがミッシングリンクよ。生物が自然に進化したのならばこういうことはありえないはず」


 カイルはむむっとばかりに呻った。彼は頭をフル回転させて少女の言うことを検討してみる。人類を生み出した超越存在、ミッシングリンク。そして人類を生み出すために仕組まれた進化……。荒唐無稽だが、カイルには少女の言うことはある程度は筋が通っているように思えた。それに、今まででも異世界に来ているという不可思議現象を彼は体験している。今更ではあるが、少女の言うことは真実かもしれないとカイルには思えてきた。


 少女はそんなカイルの心情を察したのか表情を緩めた。彼女は再び指を上げると、空中でぱちりと鳴らす。すると今度は青い星の映像が映し出された。青の中に緑の大陸と白い雲の広がる光景は衛星写真などで見慣れた地球の姿に相違なかった。カイルは間近で見るその姿に神々しさを感じると、視線を奪われてしまう。少女はそんなカイルの方を見ながらわずかばかりほほ笑んだ。そしてたたみかけるように話を再開する。


「今から三億年前、地球で海ができあがってきたころに神は地球に隕石を落としたわ。その中に含まれている有機アミノ酸があなたたち生命の素となった。そしてその生み出された生命は進化の果てに人類、ホモサピエンスへと行き着いたの。神はそうして生まれた最初の人類をアダムと名付け、自身の持つ力を分け与えた。さらに神は彼にあなたたちが魂やアストラルと呼ぶ高次元の意識体をも与えたのよ」


「……それって要は人類はキリスト教で言われてるみたいにほんとに神の子供だったってこと?」


「そういうことよ。だから神の系譜を引くあなたにはさっきみたいな力があるの」


「でもさ、地球にはあんな能力を使える人間なんていなかったよ?」


 少女の顔が曇った。彼女は大きく眉をゆがめると、肩をすくめる。その口からはとてもとても大きなため息が漏れた。カイルは何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、顔を不安げにゆがめる。すると少女は顔を引き締めてカイルの方を見つめた。カイルもまた、真剣な表情をして彼女の視線にこたえる。


「嘆かわしいことに、力を与えられた人類は傲慢になった。彼らは超高度文明を築きあげてエデンと呼ばれる巨大国家を造ったものの、それは数千年のうちに滅び去ってしまったわ。神はそのことを反省し人類の力に制限をかけ、肉体の制限を超えた力を使えないようにしたの。だから地球でのあなたたちはほとんど力が使えないのよ。逆に、この世界のあなたたちの肉体は能力が割合高いから魔法という形である程度力を使える」


「なるほど……」


 カイルは納得したような顔をして、ふむふむとばかりに何度もうなずいた。少女はそれを見て満足そうに顔をほころばせる。そうしてほほ笑んだ彼女は、まだ足りていない説明を補足するために再び話を始めた。


「ただし、この世界ではその封印は緩んでしまっているわ。だから感情がある程度高まってくると、抑えきれない力がああして暴走してしまうことがある。しかも厄介なことに理性や知性はもともと力を抑えつけるために人に与えられたものだから、魂の力とは相反する関係にあるの。ゆえに、力が暴走した状態になると理性や知性は失われてしまう」


「へえ、それは厄介だなあ……。でも、地球じゃしっかり封印がかかっているのに、どうしてこの世界だと封印が緩んでるのさ」


「それはね……。この世界が不完全な神によって造られた世界だからよ」


「不完全な神?」


「ええ、そうよ……」


 少女は額に皺を寄せると、顔をうつむけた。肩はすでに竦められていて、小さく震えている。まるで、何かを嘆き悲しんでいるかのようだ。その悲痛な様子を目の当たりにしたカイルは殊勝な表情になると、少女の方にまっすぐなまなざしを向ける。すると、少女は顔を上げて指を鳴らした。周りの景色が歪み、再びどこか別の場所のものへと変わっていく。


 カイル達の視界に映し出されたのは異様な機械の群れだった。四角い箱型の機械が、白い部屋に見渡す限りに広がっている。その一つ一つは人間の背丈を倍したほどの高さと学習机ほどの幅や奥行きがあり、異様なまでの存在感を放っていた。銀のメタリックカラーの表面が部屋の蛍光灯をいやに反射して、つけられているランプなどが不気味に輝く。カイルはそれに嫌なものを感じ取ると、少女の方を見た。


「これは?」


「あなたがプレイしていたアルカディアを構成しているコンピュータの一部よ。本質的なことを言ってしまえば、愚かな人間が造り出した神への祭壇といったところかしら」


「神への祭壇って、アルカディアはただのゲームだったんじゃないのか!」


 カイルは茫然と立ちつくした。もはや、言葉もない。彼はうつろなガラス玉のような目でひたすら少女を見つめる。今まさに、彼の中では何かが音を立てて崩れていこうとしていた。つい先日まで遊んでいたアルカディアの世界が急速に遠ざかっていく。想い出はまたたく間に色あせて、セピア色に変化していった。彼はもう、何がなんだかよくわからない。少女はそんな混乱するカイルの方に近づいていくと、その頭に人差し指を当てた。その瞬間、彼の頭の中がスッとさえていく。にわかに落ち着きを取り戻した彼は、青い顔と荒い息をしながらも光のある目で少女の目を見た。


「落ち着いた?」


「なんとかね……」


「そう、ならば話をつづけるわ。アルカディアは神を生み出すことを目的として作られた装置なの。量子コンピュータで原始宇宙の混沌の海を再現し、さらにそこに億単位の人間の意識体を投入することで自分たちに都合のいい神を造り出そうとしたのよ」


「そ、そんなこと不可能だろ! それにどうしてそんなことを!」


「装置制作のヒントとなる預言書があったの。エデン文明の時に造られた第四エノクと呼ばれるその預言書は、大戦期にナチスによって管理していたユダヤ人の手から奪い取られた。そしてその当時から現代にいたるまで神を生み出すための研究はドイツから日本へと舞台を移しながらも連綿と続けられ、その結果アルカディアが誕生したの。アルカディアがVRMMOを装った理由は、おそらく多くの人間の意識を投入する必要があったからでしょうね」


 少女の口調は重々しかった。カイルはその話を聞き終わると、いつになく神妙な面持ちになる。彼の額には深い皺が刻まれて、口は真一文字に結ばれる。彼はそのまま、固まってしまったかのようにしばらくの間黙っていた。少女もまた、カイルと同様に静かに黙っていた。だが、やがてカイルの方がゆっくりと薄く口をあける


「……もしかして、さっきいってた不完全な神っていうのはその研究の結果生み出されたものなのか?」


「そうよ、連中の思惑は成功して不完全ながらも神が生まれた。だけど、その神は制御不能になってしまってね。その結果、新たな神はアルカディアの膨大なデータを利用して新たにこの世界を生み出したの。始祖と呼ばれる存在はこの時この世界に取り残されたプレイヤーたちのことなのよ」


「そうだったのか……。これでどうしてこんな世界が存在するのかの謎がわかったよ、ありがとう。でもさ、ついでに聞いときたいんだけどなんで僕だけがこの時代に来たのかな? ほかのプレイヤーとは違うみたいなんだけど……」


「この世界が創造された瞬間、あなたの魂の力が神の力に反発して時を超えたんでしょうね。でも、どうしてただの人間であるはずのあなたにそこまでの力があるのかは私にはわからないわ。でも、あなたの力は今後の役に立つ。そのぐらいの力がなければ咎人を倒すことは不可能だもの」


「咎人ってこの間もいってたけど、一体なんなのさ?」


 少女はすぐさまカイルから目をそらした。彼女は露骨に顔を曇らせると、そのままそっぽを向いてしまう。カイルはそんな態度を示した少女を不思議そうな顔をしてみていた。すると、少女がなにやら早口で言う。カイルはそれを聞き逃さないように、耳をすませた。


「咎人の正体についてはまだ明かせない。ただ言えることはあの機械兵など比べ物にならないぐらい強いということと、勝つためには私の力が必要ということ。アルガイネに来て、その時に咎人のことを教えてあげるわ。だからそれまでの間は力の制御に気をつけていてね」


 少女はそれだけ言うと、指を鳴らした。映し出されていた風景が消えうせて、白い世界へと回帰する。カイルはその変化に目を奪われていた。その隙を見ていたのかはわからないが、カイルがそうして横を見ている間に少女の姿は薄くなっていってしまう。カイルが少女の存在を再び意識したときには、もう少女はうっすらと蜃気楼のような状態になっていた。


「ちょっと待って! 最後に名前だけでも教えてよ!」


「……ラジエル……」


 春風のように透き通る声と意味深げな名。それを残して少女の姿は白にかすんで消えた。カイルは何か決意を固めたような目で、少女が消えた後の何もない空間を見据える。その時カイルの目はとても鋭く、燦々とした光にあふれていた。そしてしばらくすると、彼の意識もまたぼやけて白にのまれていった。意識は深層心理の下にある精神世界からぐんぐん浮上して、どこかぼやけたようであった身体の感覚が鋭敏になっていく。こうして、カイルは現実の世界へと帰っていったのであった--


……正直、今回書いた設定をここで明かすのは迷いました。

ですが、この作品は設定がかなり多いのでここらで少しずつ明かさないと最後までに広げた風呂敷がたたみきれない可能性があります。なので今回このタイミングで設定を一部明かすことにしました。


むろん、今回明かされなかった設定については今後の楽しみということでお願いします。

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