第一話
笠井小羽は迷っていた。
梅雨明けの晴れの下、気難しげな顔をしながら下校している。
原因はさっき帰り道で見かけた小物のバッグを交番に届けるか否かだろう。
小羽は一度、わざわざ家と反対方向にある交番に足を運ぶのが、面倒であったため無視したが、すぐに罪悪感を責められ、100mを進んだあたりでついに足を止めた。
失くした人が困っていると考えたら、小羽は面倒でもやはり交番に届けようと後ろを振り向いた。
そして一歩踏み出し彼は穴に落ちた。
――――
「ぅーん・・・・・・」
真っ暗な部屋の中で小羽は目を覚ました。
背中の感触からいすに座らされていることは分かったがなぜか体を動かせない。
腕や足が何かで固定されているのだろう。
(・・・・・・誘拐?)
小羽がそう考えていると急に視界が白くなった。
「っつ?!」
目に痛みを感じながらも前方の急に照らされた明かりを小羽は見る。
そこにはウサギが立っていた。
なぜこんなところにウサギが、と疑問を浮かべる小羽に
「ようこそ、アリスの子孫」
とウサギが若い青年の声で言った。
小羽は目の前のウサギが喋ったことを否定しようと、驚きながら慌てて周りを確認するが
「驚いているね」
と口を動かして喋るウサギを見て畏怖を感じた。
「おやおや、そんなに怯えなくても」
とウサギは苦笑したのだろう。しかし小羽にはその皺の寄った顔が怖くて仕方なかった。
「まあとりあえず、名前を教えてくれるかな?」
とウサギは固まっている小羽に向かってきた。小羽は怖くて口が動かせなかった。
そんな様子の小羽を見て、ウサギは仕方ないというような動きで、ポケットの中からアメを取り出し包みを剥がして
「ほら。食べなよ」
と小羽の口の中にアメを入れた。
最初は味なんて分からなかった小羽だが、徐々に口の中に広がっていくアメの甘みのおかげで、少し冷静になれた。
「・・・・・・笠井小羽」
かすれた声で呟くように小羽は言ったが、ウサギには聞こえたらしい。
「そうか、小羽君か!」
と嬉しそうに言う。
そんなウサギの様子を見てかなり安心した小羽は周りを確認した。
腕は椅子の手摺のところで頑丈そうな金属で固定されている、足も同じだろう。
逃げることはできないと考え、小羽は目の前のウサギに目を移す。
よく見るとウサギは彼の知っているウサギと比べてかなり大きかった。
中学男子の中でも小柄な小羽の腰くらいはあるほどの身長を、しっかりと
二本の足で支えて立っていた。黒い短パンに白いシャツを窮屈そうに着ている。
喋ることといいなんとも奇妙なウサギだなと小羽が考えていると
「そろそろ落ち着いたかな?」
とウサギが尋ねてきた。
自分が落ち着くまで待っていてくれたのかと思うと、欠片ほどあった恐怖も消えた。
「うん、もう大丈夫」
「それは良かった、やっぱりお菓子は偉大だよね」
ウサギはポケットからアメを取り出し、ウサギの手で起用に包みを剥がし口に入れた。
喉につまらないかなと小羽は思いながら尋ねる。
「ここは何処なの?」
「ん、ちょっとした休憩所のようなところだよ」
「どうして僕はここにいるの?」
と尋ねるとウサギは嬉しそうに言う。
「アリスの子孫だからだよ!」
初めて小説を書き、投稿しました。ファンタジー物です。
至らぬ点が多くありますが、暖かい目で見てもらえれば嬉しいです。