魔法クラブ
来ていただいてありがとうございます!
「魔法クラブ?!」
「うん。メンバーがそれぞれ自分の好きな魔法について研究するんだ。時々発表会をしたりしてねー。学園北の天文の塔で各自活動してるから良かったら来てみてね」
この学園にはそんな素敵なクラブ活動があるの?色々なスポーツのクラブとか文化系のクラブがあるのは知ってたけど、いまいち興味が持てなかった。義務でもないから特にクラブに入ろうとは思ってなかった。迂闊だったわ!アルガス様に誘われて、さっそく放課後に見学に行こうと決めた。
「魔法クラブ?そう、レイは魔法に興味があるのね」
ロゼが意外そうに呟いた。
「そういえば小さい頃からずっと魔法で空を飛ぶ練習をしてたわね」
「うん!ロゼも一緒に行く?」
「うーん……私は魔法学の授業だけで十分だわ。悪いけど遠慮しておくわね」
ロゼが苦笑いしてる。そうだよね。私達は魔法が使えるけどそれだけ。特に魔法を生かして何かをするわけじゃないから、王族や貴族で魔法を好む人は少し変わった人に見られてしまう。
「そっかぁ。残念。じゃあ行ってくるね」
「あ、あの……レイ……」
「ん?」
「エイスリオ様とあれ以来お話してないみたいだから気になってて……。私のせいで……」
「ロゼのせいじゃないよ。特に話す事もないから話をしてないだけだから。じゃあ行ってくるね!」
「あ、レイ……」
まだ何か言いたそうなロゼを置いて私は授業終わりのざわめく教室を後にした。
魔法クラブの部室は北の天文の塔の中にある。私が最初の頃に登って空を見てた塔の中。あの時は入り口に鍵がかかってたから外から魔法で上がったんだけど、今日は鍵が開いていて中に入る事ができた。ひんやりした暗い塔の中に重たい扉の部屋がある。きしむドアを開けて入ってみると、中はおびただしい数の本、本、本!そして様々な道具達が所狭しと置いてある。
「明かりがついた!」
一歩中へ足を踏み入れると私のいる場所が明るくなった。どうやら魔法の明かりが自動で点滅するようになってるらしい。これも魔法?
「いらっしゃーい!」
広い部屋の奥からアルガス様の声がして、やがてワゴンを押したアルガス様が姿を現した。
「来てくれたんだね。ちょうどお茶を淹れたところだったんだよ。一緒にどうぞ」
なんとか座れる椅子を引っ張り出してきて、私とアルガス様はお茶を一緒に飲むことになった。
「アルガス様はシュテーア王国の公爵家の方なんですよね」
「うん。僕の家は学者が多く出てるんだー。おじい様も叔父様も叔母様もお兄様もみんな何かを研究したり調べたりしてるよー」
「アルガス様は鉱石の研究をしてるんですか?」
スコラ先生の研究室に出入りしてるくらいだものね。
「ううん。僕が研究してるのは考古学。石の研究はその補助のため。魔法の研究もそう」
「じゃあ、あの遺跡を調べたりもしてるんですか?」
「うん。昔は考古学を志す人が多かったんだけど、今はかなり少なくなっちゃってるんだー」
アルガス様は寂しそうに笑って頭をかいた。昔に栄えた大きな王国について調べるのが好きなんだそう。
本と魔法道具に囲まれてアルガス様とお話をしていると、床の一部が丸く光り始めた。
「何事?!」
「大丈夫だよー」
私が驚いていると、人影が光の中から現れた。っていうか床から人が生えてきた?!
「やあ、レイフィーネ姫」
「えええ?!リヒトクレール様?!どうしてここに?!」
出てきた人を見てさらにびっくり!!
「彼も魔法クラブのメンバーだよー」
アルガス様の説明にもう言葉も出なかった。
「今のって魔法陣ですか?」
私はリヒトクレール様が現れた辺りの床を覗き込んだ。
「うーん、ちょっと違うかなー。魔法の扉みたいなものだよ。彼専用のね」
「僕もこのクラブの一員なんだけど、ここに出入りしてると知られるとちょっと面倒なことになってしまうから、内緒にしてね?」
リヒトクレール様は人差し指を口元に宛て、片目を瞑った。うーん、かっこいい。ロゼがいたら卒倒しちゃってたかもしれない。
「人がたくさん来て大騒ぎになって、魔法の研究なんて出来なくなっちゃうからねー。頼むねー」
確かに。この事が知られたらリヒトクレール様狙いの女の子達がたくさん押し寄せてきて、魔法の研究どころじゃなくなっちゃう。
でもまさかリヒトクレール様がクラブのメンバーだったなんて。ロゼにも内緒にしないといけないんだ。ちょっと気が咎めるけど、このクラブは楽しそうだし魔法の道具にも興味がある。だからロゼには申し訳ないけれど、リヒトクレール様のことはロゼにも話さないことに決めた。
その日は二人から不思議な魔法の道具をたくさん見せてもらって、とても楽しい時間を過ごした。私は魔法クラブに入ることを決め、次のミーティングまでに研究テーマを決めてくることになった。
「どんな研究にしようかな……。やっぱり得意な風魔法の応用かな?それとも覚えたての水魔法?あそこにあった魔法道具の研究でもいいってアルガス様が言ってたよね?どうしようかな?」
ワクワクする!学園に来て以来一番楽しいかも!
「レイフィーネ姫」
「あっ……」
天文の塔を出て一度教室に戻ろうと廊下を歩いていたら、エイスリオとばったり会ってしまった。ああ、楽しい気分が台無し……。自分の顔がこわばっていくのがわかった。
「…………」
「どうして無視するんだ」
「ごきげんよう、エイスリオ様。失礼いたします」
「ちょっと待て!」
話すことなんてないから、挨拶だけして教室に行こうとしたらなんと腕を掴まれてしまった。
「魔法クラブを見学に行ったそうだな。あのクラブはやめておいたほうがいい。王族としての勉強には特に役には立たないだろうから。そんな無駄な時間を使うなら苦手科目を一つでも減らした方がいい。クラブに入りたいのなら、刺繍のクラブとか他にもあるだろう?魔法クラブは……こう言うのは申し訳ないが変人の集まりだから、君には参加して欲しくない」
私はエイスリオの手を振りほどいてわざと丁寧に言ってやった。
「私が何をしようとエイスリオ様には関係ありません。私は自分のやりたいことを自由にやらせていただきます。お気に召さないのでしたらどうぞ婚約を白紙に戻してくださいませ」
「まだ怒っているのか……。水やりの件、疑ったことは悪かった。しかしあの上級生達に自分からちょっかいをかけたのが悪いんだぞ?ロゼメーア姫のように先生を呼びに行けば良かったんだ。それなのに……」
呆れたようにため息をつくエイスリオの言葉にカチンときた。
「はあ?悪いのはあいつらの方でしょ?私は悪い事なんて一つもしてないわ!ちょっかいって何?ロゼみたいにって何?そんなにロゼがいいなら、ロゼに結婚を申し込めばよかったじゃない!私、絶対貴方なんかと結婚しない!もう私に話しかけないで!」
「レイフィーネ姫!」
私はエイスリオを無視して走り出した。悔し涙が浮かんでくる。
信じられない……。この人の中では全部私が悪いことになってるんだ。やっぱり無理。絶対にこの人だけは無理。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




