おしゃべりとおせっかい
来ていただいてありがとうございます!
「ただいま、レイ!」
ロゼが街から帰って来たのは夕方を過ぎて辺りが薄暗くなる頃だった。
「おかえりなさい、ロゼ!街はどうだった?」
「楽しかったわ!こんな風に自由に買い物ができるのもこの三年間だけだもの!満喫しないとね。次はレイも一緒に行きましょうね」
ロゼは今日買った品物を共用スペースのテーブルの上に並べながら、楽しそうに説明してくれた。そして私にも可愛い瓶入りの飴菓子をお土産に渡してくれた。
私はロゼの為にお茶を淹れて、夕食前のおしゃべりを楽しんだ。
「私も行けば良かったって思ってたの」
「魔法の練習はどうだった?グラスはいっぱいにできた?」
ロゼの無邪気な笑顔を見て罪悪感にかられた。
やっぱり黙っておくのは嫌だ。ロゼに隠し事はしたくない。それに隠すようなことじゃないし。うん。
「うん!水魔法でBランクを貰えたよ!」
「やったわね!すごいじゃない!」
「うん。実はずっとできずにいたら、リヒトクレール様が通りかかって、コツを教えてくれたの」
「え?リヒトクレール様が?」
「うん、そうなの。フィーリア先生にレポートを提出しに来たんだって。偶然だよね」
「……そう。そうなの。だったら私もレイに付き合えば良かったわ……二人だけでお話できたかもしれないのに……」
ああ!ロゼの元気が無くなっちゃった……!
「リ、リヒトクレール様って誰にでも優しいし、親切でいい方だよね!」
「誰にでも……そうよね。そうなの!そういえば私も前にお茶会で転びそうになった時、助けてもらったことがあって……。『大丈夫?』って仰ってお花をくれたのよ。それ以来ずっとリヒトクレール様に憧れてるの。いくつも来てた縁談もずっと断ってもらってるの……」
頬を染めたロゼはとても可愛くていかにも恋する乙女って感じ。
「へえ!そんな出会いだったんだ!ロマンチックね。縁談がいくつもかぁ……。ロゼってモテモテね。私なんて一つだけよ」
しかもあんな卑怯者から一つだけ!
「うふふ。でもレイだってすごいわよ。あのエイスリオ様と婚約だなんて。エイスリオ様ってけっこう人気がおありなのよ。悔しがってる子達多いと思うわ。彼って背が高くて美形で所作が綺麗で真面目で優秀だし、何よりもトラゴス王国の王太子候補ナンバーワンですもの!」
性格にかなり難ありだけどね……。
「私は別に王妃になんてなりたくないんだけどな……」
普通にお父様とお母様みたいに仲のいい夫婦になりたかった……。
「そうよ!学園にいる間にもっともっと仲良くなればいいのよ!」
ロゼがポンと手を打った。私もそう思ってたんだけどね……。ロゼの笑顔を見てたら何も言えなくなってしまった。私もロゼみたいに恋がしてみたかったな。
「え?エイスリオの研究室へ?」
「正確にはエイスリオ様の尊敬するスコラ先生の研究室ね」
サンサントル学園の先生の中には自分の研究室を持ってる方もいる。地質学のスコラ先生もその一人だ。翌日の放課後にロゼに提案された。……正直、特に行きたくない。
「前にエイスリオ様に誘われたの。一度研究室に来ませんかって」
「そうなんだ」
……私は誘われてないけど。
「エイスリオ様のことをよく知れば、もっと仲良くなるきっかけがつかめるかもしれないわ!」
いや、仲良くしたくないのは向こうの方なんだけどな。親切で言ってくれてるロゼの気持ちを無下にできなくて、仕方なく一緒に行くことにした。
「うわぁ、珍しい形の石がたくさんある!」
研究室の中はガラスケースに収められた石達が所狭しと置かれてる。そのガラスケースには紙の束がくっついていて、なにやら細かい文字や数字がたくさん書き込まれてる。
「こっちの石は宝石かしら……。光っていて綺麗ですね」
「宝石とは違うのですが、自ら発光する貴重な鉱石なんですよ」
ロゼに寄り添って説明をするエイスリオはとても嬉しそう。
「来ていただいてありがとう。俺の研究に興味を持ってくれて嬉しいな」
スコラ先生の研究室は結構広くて、何人もの生徒達が白衣を着てそれぞれの机で石や本に向き合ってる。そういえばエイスリオも白衣を着てる。結構にあってる……かもしれない。
「エイスリオ様はどんな研究をなさってるんですか?」
私の腕を引き寄せたロゼはエイスリオに尋ねた。私にエイスリオの話を聞かせたいみたい。
「俺の任せてもらったのは最近見つかった水を与えると成長する石の研究だ」
「水をあげると成長するの?植物みたい!」
エイスリオは明らかにロゼに向かってしゃべってたけど、思わず声が出ちゃった。
「ああ。確かに植物のようだな。今は定期的に水をやって成長を記録してるんだ」
「へえ……」
思わず普通に会話をしてしまった。隣ではロゼが微笑ましそうに私を見てる。違うよ?興味があるのはエイスリオにじゃなくて不思議石にだよ?説明しても分かってもらえないだろうなぁ……。研究の邪魔になってもいけなから、その日は早々にロゼと二人で研究室から帰った。
「レイフィーネ姫!ちょうど良かった」
ある日の放課後、先生に呼ばれたロゼを待っている私にエイスリオが声をかけてきた。珍しい。
「何か用?」
「…………今から時間あるか?ちょっと頼み事があるんだ」
「何?」
なんだか焦ってるみたい?とりあえず話を聞くことにした。
エイスリオの頼み事は不思議石の水やりだった。エイスリオもロゼと同じように先生に呼ばれてるから、放課後の定時の水やりに間に合わないそうだ。いつもなら研究室の人に頼むんだけど先生の都合で間に合わなくなったそう。今一年生は先生との個人面談がランダムで行われていて、進路指導を受けてるところなんだ。ちなみに私はまだ呼ばれてない。
「いいか?くれぐれも水を与えすぎないでくれ。机に置いてあるティースプーン二杯だ。いいな?頼んだぞ?」
「分かったわ」
エイスリオとは仲良くはないけど、困っているなら仕方ないよね。私はため息をついて研究室へ向かった。
「おい!」
乱暴そうな大声……。聞き覚えがある声に振り向いたら、あの遺跡の所で揉めたあの上級生達がいた。嫌だなぁ。面倒なことになりそう……。
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