二年後 春
来ていただいてありがとうございます!
「来月からアカデミアか。本当にやり遂げるとはな……」
エイスリオが呆れたようにため息をついた。
「何故そのようなお顔をなさるのでしょうか、エイスリオ様?わたくし悲しいですわ……」
わざと丁寧に悲しげに言ってみると、エイスリオが苦虫を噛み潰したような顔になった。
「頼むからやめてくれ……」
そう言いながら周囲を見回す。
卒業式の後、サンサントル学園の講堂の外にはたくさんの下級生達が集まっていた。さっき、仲良くしてくれてた魔法クラブの後輩達ともお別れをすませて、たくさんのお花をもらったばかりだった。お花をもらうのって嬉しいのね。ちょっとだけ寂しいけど、十二の王国合同の舞踏会なんかもあるし、また会える日があるから大丈夫!
「ふふ、リオ様はレイのファンに睨まれてますものね」
花束を持ったロゼがエイスリオを見上げた。
「勘弁してくれ……」
普段から私への態度が悪いからそうなるのよね。まあ、エイスリオはロゼ以外にはかなり素っ気ないから、誰にでも同じ態度なんだけど。こんなんでトラゴスの次期国王様なんて大丈夫なのかしら?
「それにしてもレイってば凄いわ!卒業生代表だなんて!試験で上位をキープしつつ、魔法道具の研究の論文を書いて、聖魔法も他の魔法も使いこなせるようになっちゃうなんて、エネルギッシュよね。親友としても鼻が高いわ!」
ロゼがわがことみたいに喜んでくれてる。本当にいい子よねぇ。ああ、エイスリオにはロゼみたいな素敵なお姫様がいるからきっと大丈夫ね。彼自身はかなり優秀だし。うん、トラゴス王国は安泰だわ。
「でも、アルガス様みたいに全属性の魔法を習得するのはとても無理だったわ」
やっぱりアルガス様は天才なのね。アカデミアには私が努力しても届かない高見にいる人達ばかりなんだ。今更ながらに緊張で体が震える。
「比べる相手が悪いと思うぞ」
「あの方は色々と別格でしょう?」
エイスリオとロゼは同時に励ましてくれた。本当に二人は仲良しだわ。
「アカデミアを卒業したらどうするんだ?」
アカデミアは四年制で結果と希望を出せばその後も残って研究を続けることができる。もちろん、どこかの王国のお抱えになってその道の博識者として働くこともできる。
「できればアカデミアに残ってもっともっと勉強して、世の中の役に立てるように頑張るわ!お姫様としては期待外れだけどね?」
「……もう言わないでくれ。俺が悪かった。あの時はピシース王国に断られて自棄になってたんだ」
「リオ様ったら、そんな……」
えええ?!あのエイスリオが謝った!
「ロゼにしか甘い顔を見せないと評判のエイスリオ様が謝るなんて……!」
私は絶句した……。
「俺の性格が悪いのは自覚しているが、君も相当だと思うけどな……」
再びエイスリオのため息。誰のせいでこういう対応になったと思ってるのかしら?
「…………うん。まあでも、エイスリオ様のおかげでこうなれたって所もあるわ。一応お礼を言っておきます。期待しないでくれてありがとうございます。自由にさせてもらえて良かったわ!」
「…………ものすごく引っ掛かる言い方なんだが、まあ一応お礼として受け取っておく」
あれ?いつもみたいに怒らない?本当に悪かったと思ってくれてるのかしら?
「あ、ほら!レイ、お迎えが来てるわ!」
ロゼが門の方を指差した。リヒトが笑って手を振ってる。
「あ……!」
「卒業式の当日に結婚式か……リヒトクレール王子はさぞ焦れて待ちかねてただろうな」
意地悪そうに笑うエイスリオ。
「卒業なさってからの一年間はレイが誰かに取られちゃうかもってとっても心配だったんじゃない?」
「もう、ロゼまで!」
ロゼまでからかってくる。ほんとにエイスリオに似てきてるわね。ちょっと困るわ。
「じゃあ、ロゼ、エイスリオ様、また後でね!」
私は二人に手を振ってリヒト様が待つ学園の門まで走った。一度振り返って校舎と寮、天文台と図書棟とを見て頭を下げた。
「三年間お世話になりました!」
「お待たせ、リヒト!」
「卒業おめでとう。僕のフィーネ」
リヒトが優しく抱きしめてくれた時、周りの生徒達から何故か歓声が上がった。
「急ごう」
「ええ」
私達は待っててくれた馬車に乗り込んだ。
今日この後、リヒトと私は北の神殿で結婚式を挙げる。小規模な式なので列席者は少なめになってて、ロゼとエイスリオ、アルガス様やパレルソン先生とアカデミアの関係者の人達。急いで支度をしなくちゃ。その後はサントル市にある国際役場で婚姻の届けを出して新居の城へ。ドレス選びや新居の家具選びは私は学業、リヒトはお仕事と並行しながらだったから大変だったけど、楽しかった。
「問題なのはこの後なのよね……」
揺れる馬車の中、私はリヒトの隣で小さくため息をついた。実はこの後ひと月ほどの間、お互いの母国での行事に時間を取られてしまうの。最初の十日間はレーヴェ王国で、その後の十日間はディデュモイ王国でそれぞれ結婚披露のパーティーや舞踏会、記念式典、それに何故かパレードなんかも予定されてるらしくて、リヒトと二人で首を捻ってた。王太子とその妃でもないのに大袈裟すぎると思うんだけど……?
「まあでも仕方ないさ。フィーネは人気者だからね」
「それを言うならリヒトだってそうでしょう?」
実はあれからリヒトのお父様は熱望されて国王の位に戻った。だから今はリヒトも王子様に戻ったの。でもリヒトは王太子にはならなかった。今は魔法に精通した人を集めた組織の指揮を取ってる。名称は『アステール魔法師団』。アカデミアと連携して十二の王国があるアステールスケーネ全体を守るためにリヒトが提案、主導して作った組織。
実は私も技術提供をしてたりする。技術提供っていっても魔法道具を色々調べて使えそうなものを提供したり、魔法石に聖属性を付与したりっていう小さな事ばかりだけど。あれ以来封印の石碑や神像の為に特別なお社も建てられて警備も強化されてるし。もう大丈夫よね。ちなみに今から向かう北の神殿の警備責任者はハワードさんが着任したんですって。
「春休みは二人でゆっくり過ごせると思ってたのに……」
「僕もだよ。……でもやっとだ。これからはずっと一緒にいられる……」
「そうね。嬉しい」
私はリヒトにそっと体を預けた。結婚式の後はちょっとハードスケジュールだけど、何故か双方の両親達が乗り気で準備をしてくれてるから、結婚式のこと以外はお任せしてしまった。お母様が「貴方達はアステールスケーネの為に頑張ってるんだから、そのくらいは私達に任せてちょうだい」って言ってくれたので甘えてしまった。
馬車は順調に北の神殿へ到着し、身支度を整えた私はリヒトと以前にお世話になった神官様の前で結婚式を挙げた(神官様はくらいが上がって今は神官長様になっていらした)。
「……とても綺麗だ。僕の花嫁さん。その白いドレスもエメラルドのネックレスも良く似合ってる」
「ありがとう。私の旦那様。これからよろしくお願いします」
二人で神殿を出ると、大勢の人達が花吹雪を準備してくれていた。舞い散る花、花、花……!
「綺麗……でも何でこんなに……?」
「凄いな……でもどうしてこんなに人が……?」
思いがけないことにリヒトと二人で動けずにいると、ロゼがエイスリオと一緒にニコニコと笑いながら近づいて来た。
「驚いた?皆さんお祝いしたいって集まってくれたみたいなのよ」
サントル学園の生徒達もたくさんいるみたい。
「二人はサントル市の英雄だからねーそれー!」
アルガス様や、他の列席者の方々も私達に花吹雪を振りかけて祝福してくれた。
「アルガス様!」
英雄は言い過ぎだけど、あの事件のせいで私やリヒト、アルガス様やエイスリオは少し名前の知られた人になってしまってるの。
「おめでとー!幸せになってねー!レイフィーネ姫はこれからアカデミアでよろしくー!」
「ありがとうございます!アルガス様、これからよろしくお願いします」
舞い散る花は風にのって青空へ舞い上がり、北の神殿はそれからしばらくの間、花々の良い香りに包まれ続けた。
リヒトが用意してくれたサントル市のお屋敷は郊外の瀟洒な邸宅で、今の季節には薄い夕日色の花が咲き誇る木々に囲まれた美しい土地にあった。
「さあ、僕の奥さん、家に帰ろう」
リヒトはそう言って私を抱き上げて玄関のドアをくぐり、そのまま魔法の扉で湖のお城へ移動した。
「静か……。誰もいないの?」
「うん。今夜は二人きりだよ。これからまた忙しくなるから今夜から数日は静かに過ごそう」
働いてくれてる人達はお城の中を整えておいてくれていて、また明日から来てくれるらしい。
二人で湖の畔を少し散歩して夕食を済ませ、暖炉に火を入れて寄り添って座った。
「春とはいえ、まだ夜は少し寒いね」
「うん。でもこうするとあったかい……」
私はリヒトの腕に抱きついて頬を摺り寄せた。
「……珍しいね。フィーネから僕にこんなに近づいてきてくれるなんて」
「リヒトはベタベタされるのは嫌かなって思って……。ほら、キャスリーナ様の時に」
「あ!あれは違う!!彼女の事は政略で……!その、好意がなかったから、それで苦痛だっただけで!……でもそうか。婚約者同士になってからもあまり甘えて貰えなかったのはそのせいか……!」
リヒトは顔を覆ってしまった。
「ううん!恥ずかしかったのもあるの。その……照れちゃうっていうか……」
うちの両親は仲が良かったというか良すぎてちょっと照れちゃうこともあったけど、私もできればあんなふうになりたい。
「……でも、もう今はリヒトのつ、妻で、リヒトは私だけのリヒトだから」
私は思い切ってリヒトの頬にキスをした。
「…………っ。もう無理だ。ごめん」
「え?!」
リヒトは突然立ち上がると私を抱き上げ、そのまま星明りの照らす寝室へ連れて行った。
その夜私達は今まで以上に仲良くなって、その後何年も何年もずっとずっと仲良く暮らし続けた。
後世の歴史書より抜粋
その年未曾有の災厄に見舞われたアステールスケーネ地方では、まだ学生であった王族や貴族の子女たちの力を得て再び平和を取り戻した。
それ以降、あらゆる魔法を使いこなす天才博士が先達からの知恵を得て結界を復活強化し、金の獅子と呼ばれた魔法騎士が率いるアステール魔法師団が、地下の魔のものからも外敵からもこの聖なる都市を守り抜いた。このアステール魔法師団は聖なる魔法を使う姫君がその力を分けた魔法道具を用い強力な力を有した。金の獅子は聖なる姫の夫で、妻を守るために獅子奮迅の活躍をしたと伝えられている。
アステールスケーネの十二の国々はこれに協力することにより更に結束し、より協力関係を深めることとなった。
聖なる姫と金の獅子の居城の場所は公には秘密とされ、新たな封印結界の要として存在し続けた。またその子孫たちもこの地の平和に貢献した。アステールスケーネ地方の平和が今日まで保たれたのはこの時代に生きた彼らの力が大きいといえるだろう。
終
ここまでお読みいただいてありがとうございました!
ちょっと体調不良で投稿に時間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
お読みくださった皆様が少しでも楽しんでいただけましたらとても幸せです。
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