一年後 冬
来ていただいてありがとうございます!
窓枠にも雪が積もり始めてる。
もうすぐリヒト様はサンサントル学園を卒業してしまう。
「学園で一緒に過ごせるのもあとちょっとかぁ……」
「レイ?何か言った?」
「ううん。何でもない。これ美味しいわ!」
「でしょう?トラゴス王国が輸入した最高級品をエイスリオ様がくれたのよ」
今日は久しぶりにロゼと寮の部屋でお茶会なの。最近は試験があったり、アカデミアでのお手伝いが忙しかったりでなかなかゆっくりできなかった。冷たいクリームの下の熱いココアに火傷しそうになりながら、濃厚な甘さを楽しんだ。エイスリオからの差し入れと聞いてちょっと引っかかるものがあったけど、ココアに罪はないわよね。
寮の私とロゼの共用スペースの部屋は、暖炉に火が入れられてとても暖かい。テーブルの上には街のお菓子屋さんで買ってきたこの時期ならではの焼き菓子が並んでる。冬は果物があまりとれないから、木の実やドライフルーツのお菓子がメイン。そして最近のロゼと言えばお菓子作りにはまっていて、寮の食堂の厨房を時々借りてるみたい。
「このケーキも美味しい!ロゼったらまた腕を上げたわね。一流のお菓子職人みたい!お姫様なのにすごいわ!」
私は綺麗は花の形のクリームと真珠のようなチョコレートがデコレーションされた真っ白なケーキを見つめた。
「これなんて、食べちゃうのがもったいないくらいだわ!」
「それは褒めすぎよ。せっかく作ったんだから早く食べて」
「そうね。いただきます。…………うわぁ!美味しいわ!甘さもくどくなくて、なんだかお花の香りもするみたい」
「ほんの少しだけ花酒を使ってるのよ」
「エイスリオ様も喜んでるでしょうね」
「ええ。彼、結構甘いものがお好きなのよ」
「なるほど!それでロゼはお菓子作りに目覚めたってわけね。愛の力ってすごいわ!」
「もう!からかわないで」
「ふふっ。本当にこのケーキ美味しい」
「ありがとう」
ロゼとのおしゃべりは楽しい。このまま一晩中でも話していられそう。
外は少し風が出てきたのか窓ガラスがカタカタ鳴って、雪が打ち付けてる。
「そういえば、リヒトクレール様には何か贈り物をしたの?」
「ううん、まだ。忙しいみたいで最近は学園に来てないから」
「そうなの……」
明日は雪花節。アステールスケーネでは家族や親しい人に贈り物をする習慣がある日。寒い季節は流行り病にかかりやすくて体調を崩しやすいから、無事な顔を見せましょう、せめて連絡を取り合いましょう、ってみんなで集まるのが昔からの慣習だったんだけど、いつからか贈り物をしあうようになったそう。そして今は恋人同士がメインのイベントになってきてるの。
「リヒト様、明日は学園に来るといいんだけど……」
一応私も贈り物を準備してる。実は星水晶に聖魔法を付与できるようになったからそれと緑清石という宝石と一緒に加工してもらってお守り代わりのタイピンを作ってもらった。でもラッピングしてもらった小箱は私の机の上に置いたまま。
「リヒトクレール様、今なんとかって組織を立ち上げるのでお忙しいのよね?でも恋人を放っておくなんて許せないわ」
「アステールスケーネを、みんなを守るための組織だから、急がないといけないもの。仕方ないわ」
一年前のような事件に対応できるように十二か国が共同で作る組織で、リヒト様が指揮を執ってるの。リヒト様は悪霊の王の直接の被害者であり、一番近くでその脅威を感じた人だからってことで頼まれたみたい。
「でも……!」
ロゼはほっぺを膨らませていても可愛い。
「大丈夫!もし明日会えなかったら、男子寮のお部屋に届けてもらうから。そんなことよりもロゼのことを聞かせて!結婚式の準備を始めたんでしょう?ドレスはどんな感じなの?式典は?パレードは?」
ロゼはエイスリオ王子と結婚して王太子妃に、ゆくゆくはトラゴス王国の王妃になる予定だから結婚式にまつわる様々な行事がとても盛大で華やかになるはず!きっとトラゴス王国を挙げてのお祭りみたいになるわ!私も招待してもらえるみたいだから、今からとても楽しみなの。
「もう!そんなに矢継ぎ早に聞かないで!ドレスはね、エイスリオ様と相談してピシース王国のスタイルのものと……………………」
一年半後、卒業してから半年後の秋の季節の結婚式のことを話し始めるロゼ。幸せそうなロゼは以前よりさらに可愛らしく、美しくなったと思う。悔しいけどエイスリオのおかげなのね。会えば腹が立つことが多い人だけどそこだけは認めてあげようかな。ロゼのエイスリオへの愛のこもったケーキを食べながら、あたたかいロゼの声に耳を傾けた。
「フィーネ!」
翌日授業終わりにリヒト様が私の教室までやって来た。どうしたんだろう?頬が赤い。急いでるみたい?久しぶりに会えて嬉しい……!そう言おうと口を開こうとした時、
「来て!」
腕を引かれて門まで連れて行かれた。慌てて鞄だけは持ったものの、教科書を何冊か机の中に入れっぱなしな気がする……。馬車に乗ってもリヒト様からの説明は無し。
「あの、リヒト様、どこへ行くの?」
「すぐに分かるから……」
尋ねてもちらりと私を見てから少し顔を赤らめて目を逸らしてしまう。
雪の中をしばらく走って馬車が止まり、下りた先には木々に囲まれた一軒の邸宅があった。
「ここは……?」
「こっちだ」
また何も説明なしでその邸宅の中へ手を引かれた。エントランスの片隅まで行くと床が光った。
「あ、これって魔法の扉?」
言い終わる前にリヒト様と私は遠くに山を望む湖畔の城の前に立っていた。
「え?え?え?ここってどこ?」
「僕達の城だよ」
「え?」
目の前のお城は小さいけれどとても綺麗なお城で、粉雪が降り続いてる。
「さあ、寒いから中へ入ろう」
またリヒト様に手を引かれて城の中へ入る。
「あ、この感じ……」
外でも感じたけど、とても澄んだ空気が流れてるような気がする。とても居心地のいいお城だと思った。
「気に入った?」
「うん、とても!でも……」
「突然連れてきてごめん」
リヒト様は私を湖の見えるバルコニーへ連れて行った。既視感がある。一年前のレーヴェ王国の離宮に似てるんだわ。
「前に一緒に話したよね。二人で暮らすならこんな場所がいいって」
「覚えていてくれたの?」
「あれから、色々探し回ってようやく準備ができたんだ。家具や内装はフィーネの希望を聞きたいからこれから二人で決めて行こう」
そう言い終わるとリヒト様は私の前に膝をついた。
「結婚してほしい。フィーネが来年卒業したらすぐに」
「卒業したらすぐに?」
「嫌?」
「そんなことない!嬉しい!アカデミアを卒業してからだと思ってたから……」
「それだと僕が我慢できない。アカデミアへはここから通えばいいから」
リヒト様は私の手を取って小さなエメラルドの指輪をはめた。
「約束だよ」
「約束ね」
「覚悟して。これから忙しくなるよ、未来の花嫁さん」
そう言ってリヒト様は晴れやかに笑った。
「はい。よろしくお願いします。あ、そうだわ!」
リヒト様の贈り物に比べたらとてもささやかだけど、私も鞄の中の贈り物を渡すことができた。遠くない未来の幸せを思いながら二人で笑いあった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!
あと一話で終わります




