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期待しないと言われたので自由にさせてもらいます  作者: ゆきあさ


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未だ潜むもの

来ていただいてありがとうございます!


※レイフィーネ不在です




リヒトクレールはある日の午後、ファンタスに呼ばれてアカデミアに来ていた。


こじんまりとしているが心地の良い応接室へ通されるとアルガスがソファでくつろいでいた。

「やあ!リヒトクレール王子!」

「アルガス先輩もいらしてたんですね。あと、僕はもう王子じゃありませんよ」

リヒトクレールは苦笑いしたが、アルガスに悪気が全く無いことは理解していた。

「あー、そうだっけ!ごめんねー。あれ?今日はレイフィーネ姫は一緒じゃないの?」

「彼女は呼ばれていません。今頃は街でロゼメーア姫と買い物をしていると思います」

「いいねー。勉強を頑張るのはいいけど、息抜きも必要だよねー」

「そうですね」

熱心に勉強や魔法道具の研究を頑張っている最近のレイフィーネの様子を思い出し、リヒトクレールは微笑んだ。

「ずいぶん優しい顔になったね。いい傾向だよ」

アルガスがしみじみ言うのを聞いて、リヒトクレールは自分の頬をさすった。


(以前はそんなに険しい顔をしていただろうか?)


周囲には気づかれていなかった自分の葛藤をアルガスには見抜かれていたのかと思うと、リヒトクレールはその洞察力に秘かに舌を巻いた。

「レイフィーネ姫のおかげだねー」

「そうかもしれません。いえ、きっとそうなんでしょうね」

「うんうん。良かったねー」




「やあ!君達!お待たせしたね。呼び立ててしまってすまない!そろそろ落ち着いた頃かと思って色々話を聞きたくてね」

部屋へ入ってきたファンタスは何故かワゴンを押していた。どうやら食堂からお茶を運んで来たらしい。ガチャガチャと茶器が音を立てるのを聞いてアルガスがさっと立ち上がり、乗っていたトレーを受け取った。

「おお!アルガス君!すまないね!」

テーブルの上にお茶のカップと菓子が並べられ、さっそく三人の話が始まった。



ファンタスは影霊と影鬼に関する考察と書かれたノートと悪霊の王についてまとめたらしいレポートの束をテーブルの上に置いた。

「さてリヒトクレール殿下、差し支えなければ私にも眠っていた時に見たものの話を聞かせてくれるかな?報告書は読ませてもらったが、やはり実際に話を聞きたくてね」

ファンタスはやや言いにくそうにしていたが、リヒトクレールは特に気にした様子もなく話始めた。「すべては僕の主観によるものですが」と前置きをして。


「元々僕は父である国王の命に従わなければと自分の意思で考えていたと思います。そう教育を受けていましたし、それがレーヴェの為になると。でも夏に入る前頃でしょうか、声が聞こえるようになりました。父に従えと。その声はどんどん大きくなっていきました」

「神像が壊された頃かな?変だと思わなかったのー?」

「ええ。最初は夢の中ででしたし、中に入り込まれておかしくなっていたのでしょうね。色々あって……父の望みをかなえなければと、その声の中に自分の意識が沈み込むようになっていきました。僕の中に最初からいたのは悪霊の王に支配されたその息子だったのではと思っています」

「だから、『父に従え』ということか。同じ王子同士、同調したのかな」

ファンタスは悪霊の王のレポートになにやら書き足した。

「そこをレイフィーネ姫にすくい上げてもらったんだねー」

「…………はい」

リヒトクレールは今までにない柔らかい微笑みを浮かべたが、そのことに気付いたのはアルガスだけだった。


「悪霊の王を取り込んで眠っている間に感じたことは……彼は父を、悪霊の王を愛し、同時に恐れていたということでしょうか。僕の中にあった闇達はレイフィーネ姫の力で弱められてやがて僕の中から消えていきました」

「封印成功ー!!」

「はい。アルガス先輩やアカデミアの方々には感謝してもしきれません」

「えへへへー!」

アルガスは嬉しそうに誇らしそうに笑い、ジャムののった焼き菓子を一つ口に放り込んだ。


「なるほど。再封印の時に影が二つあったのはそういうことか」

ファンタスはレポートの分割の言葉に二重線を引いて、分離と書き直した。

「悪霊の王は影霊を取り込んで力を強めてるのかもしれないですねー」

「そうだな。影霊が一人分の悪意で生まれたものだと仮定すると、あの大きな影鬼達がその集合体だとも考えられるな。全く別の魔物だとしてもあの影鬼達の力は強大だ。それらを従えていたということは……全く恐ろしいな」

アルガスの言葉を受けてファンタスはノートに何かを書き込んでいく。


(レーヴェ王国の内部で国王である父の突然の変容に、誰からも否の声が出なかったのは何故だろうと思っていたが、僕のように王の意思を受けた影霊に憑かれていたとすれば説明が付く。またはもしかしたら、父にも僕と同じように洗脳の力があるのかもしれない……)



「あれからおじい様達と調べたんですけど、あの石碑と神像と北の神殿はお互いが力を高めあって補い合って完成する封印だったんですよー」

アルガスはどうやら祖父のパレルソンやアカデミアの考古学や歴史学の研究者と共に更なる遺跡の解明に取り組んでいたようだ。

「うーむ。春に石碑が一つ壊されてすぐに影響がなかったということは、まだ他の封印が十分に機能していた。しかし更に神像が壊されてじわじわと悪霊の力が湧き出し始めたということかな?」

「もしかしたら人心が乱れていたのはそれが原因かもしれません。春以降、街や学園内で言い争いのようなものを見かけることが多かった気がします」

リヒトクレールは二年生に進級してからの事を思い返していた。


「もしかしたら、そういうのも悪霊の王の仕業だったのかもしれない。そしてそういったものを悪霊の王の力として力をつけていたのかもしれないな」

「え?人間の喧嘩がですかー?」

「人間の悪意そのものがだよ。古来より魔物は人の憎悪や悲しみを糧とすると聞くからね」

「あーなるほど。それが悪霊のエサですかー」

「餌とはこれまた……。できれば力の源などと言ってもらいたい」

「エサでよくないですかー?」

「うーむ、それだと風情が無いな……」


二人の会話の間にリヒトクレールはさらに思い出していた。


(そういえば、観月のダンスパーティーでも貴族同士の諍いが起こっていた。あんな場で貴族が表立って喧嘩を始めるなんて滅多にない事だ。あの時はフィーネにあんなものを見せたくなくて、すぐにあの場を離れたけれど、思えばあれもそういうことだったのかもしれない)




「あの……僕もお二人にお話ししたいことがあります」

「どうしたのー?」

「なにかね?」


「実はまだ気配を感じるんです。この土地の下に」

「悪霊の気配?」

「はい」

リヒトクレールの表情が厳しくなった。


「そうか」

アルガスとファンタスは顔を見合わせた。

「実は調べてて分かったことがあるんだけどね、今回の悪霊の王は全力じゃなかったみたいなんだよ。北の神殿が無事だったから、悪霊は力の一部しか出せなかったのかもしれないんだー。石碑を詳しく読み解くと、悪霊の王が従えてた影鬼は数十匹を下らなかったみたいなんだ。あの程度だったからこのアステールスケーネ全体は無事だったのかも」

「!」

二人の真面目な顔が推測ではなく確実性を秘めていることを物語っていた。


「では……まだ悪霊の王は滅んでいない、ということですね」

リヒトクレールは唇を噛みしめた。

「おっかないですね……」

「だが、封印は生きている。そこまで心配する必要は無いと思うがね」

さすがのファンタスもまた影霊を調べたいなどとは言い出せないようだった。


「しかしながら我々はレイフィーネ姫にもっと感謝した方がいいだろうな。あの石碑が完全に破壊されていたら、被害はもっと早く甚大になっていただろうから。そしてあのブローチにリースにお守り。更にレイフィーネ姫が聖魔法を使えたから良かったものの、そうでなければ確実に被害者が大勢出ていただろうからね」

「偶然というにはあまりにもすごいですねー。まるで何かに引き寄せられたみたいだ」



あの時、悪霊の王の憎悪の剣先はレイフィーネに向けられていた。そのことにリヒトクレールは戦慄する。

「…………僕は守るための組織を立ち上げます」

リヒトクレールは愛しい少女の笑顔を思い浮かべ、静かに決意した。












ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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