湖上のお城
来ていただいてありがとうございます!
冬休みは今までの人生で一番忙しかった。
新年になってからレーヴェ王国に招待されて、現国王陛下や元国王陛下と元王妃陛下にお会いしたの。
何度もお礼を言われてものすごく恐縮してしまった。婚約のご挨拶だけのつもりだったのに、王宮を挙げてパーティーを開いてくれてとても歓待してもらえた。嬉しかったし楽しかったけど、ちょっと疲れてしまった。きちんとお姫様やるのって結構大変なのね。
深夜に一人きりになってやっとホッとして、そっとバルコニーに出て雪景色と星空を眺めてた。レーヴェ王国はアステールスケーネでもかなり南の方にあるんだけど、今滞在させてもらってるお城は高地にあるからそれなりに雪が降るし寒い。王族の皆さんが静養なさる時に使う離宮で大きな湖の島の上に建てられてる白亜のお城。風のない今夜は星が湖面に映ってとても綺麗。
「ふう……。皆さん親切でいい人達ばかりで良かった……」
寒いけど、澄んだ空気が心地よくて気分がすっきりする。
「それは良かった」
「え?」
どこから声が?それに今のって……
「リヒトクレール様?」
星空を背にしてリヒトクレール様が降って来た。じゃなくて飛んできてふわりと私の部屋のバルコニーへ降り立った。肩掛けが鳥の翼みたい。
「風魔法って便利だね」
「お、驚きました!」
「なかなか二人きりになれないからね。夜這いに来たよ」
「よ……、もう!冗談ばっかり!どうしたんですか?なにかありましたか?」
「ううん。本当にレイフィーネの顔が見たかっただけ」
「……そ、そうですか……。嬉しいです」
冬休みに入ってからはサントル市での各国のパーティーやお茶会に呼ばれることがあってちょっとバタバタしてた。年末年始にはディデュモイへ帰ったし、リヒトクレール様もレーヴェ王国へ帰っていたからあまりゆっくり話ができていない。
「大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫です……でもほんとはちょっとだけ。お姫様らしくするのって苦手なので」
自分から白状してしまった。呆れられてしまうかも。
「最近随分頑張ってたね」
あ、頑張ってたのバレてた……。
「リヒトクレール様に恥をかかせたくなくて。私らしくないですよね。あはは」
「そろそろやめない?」
「え?」
お姫様らしくするのはやっぱり似合わないかしら?ちょっと落ち込むわ……。
「二人きりの時だけでいいから、敬語やめない?」
あ、なんだそういうこと?でもリヒトクレール様は年上だしいきなり話し方を変えるのは……。
「でも……」
「もっと仲良くなりたい。いつものいきいきしてる君が好きなんだ。ああ、もちろんドレスを着てるお姫様の君も好きだよ。僕のフィーネ」
「リヒトクレール様……」
「僕のこともリヒトでいいよ。ほら、呼んでみて」
「リヒト……様」
「ふふ、次は様無しで呼んでね」
い、いきなりは難しいわ。
「はい、頑張ります……頑張るね」
星明りの中でもリヒトクレール様が嬉しそうに微笑んだのが分かって私も嬉しかった。
心地よい沈黙がおりて、柔らかな風が湖面を揺らす。
「寒くない?おいでフィーネ」
「え?」
抱き寄せられてふわっと頬があたたかくなる。
「リ、リヒト様?」
「大丈夫。今夜は何もしないから安心して」
な、なにもって……なに?!抱き上げられて窓辺の長椅子に二人で座って、一緒に大きな肩掛けにくるまった。動揺しているとリヒト様がぽつりぽつりと話し始めた。
「フィーネが来てくれてみんな本当に喜んでるんだよ」
「はい。でもこんなに歓迎していただいて少し戸惑ってます」
今夜なんて大勢での晩餐会だったし、明日の夜は舞踏会。お茶会なんかも午前と午後にあったりして、たくさんの人達が合いに来てくれた。レーヴェ王国はこれが普通なのかしら?全力でお客様を歓迎するのが慣習とか?もしかしてうちの国はのんびりしすぎ?そう言うとリヒト様にちょっと笑われてしまった。
「予定を詰めすぎてしまったことはごめん。でも本当にみんな君に感謝していて、会いたがってるんだ。君がいなければレーヴェ王国は大変なことになってしまってた。そしてアステールスケーネもね」
「そんなことは……。あの事件を解決したのはみんなの力があったから。それにリヒト様が……」
自分を犠牲にしたからなのよね。思い出すと胸が痛くなる。
「まだわかってないんだね。君があのブレスレットを作らなければ、僕の異変に気が付いてくれてなければ、魔除けの飾りを調べてくれてなければ、聖魔法の雨であの影鬼を弱らせてくれなければ……」
「リヒト様……?」
「父も僕も今ここにいられなかった」
リヒト様の腕に力がこもる。
「こんなに穏やかであたたかい時間を過ごすことは叶わなかった」
「そんな、全部偶然見つけたあの本のおかげで……。それに」
エイスリオ王子との婚約を解消したくて、好きにやってやろうってやけになってたからなのよね。あれ?これってエイスリオ王子のおかげなの?いやいやいや、きっかけはそうだったけど、あいつのおかげっていうのは違うわよね!うん。絶対違う!ただエイスリオ王子も頑張って影鬼達と戦ってたし、今度その件に関してはお礼を言うべきかもしれない。
「こら、二人でいるのに誰のことを考えてる?」
おでこを指で軽く弾かれてしまった。
「え?いえ、エイスリオ王子には嫌な思いをさせられましたけど、そのせいで頑張れたのもあるかなって」
「…………エイスリオ王子と婚約解消したこと、後悔してる?」
「全然!全くそんなことはありません!!」
「……!」
「本当に清々してます!エイスリオ王子は私の天敵です!最後まで人を利用してくれちゃって!!ロゼの為だから今は我慢してますけど、いつか絶対見返してやる!」
怒りがぶり返してきたわ!わなわなと体が震えてくる。
「ぷっ……」
リヒト様が楽しそうに笑ってる。あ、これって王子様の微笑みじゃないほうだわ。
「ロゼが結婚したらエイスリオ王子がセットなんてすっごく嫌だわ……」
今でもロゼはエイスリオ王子とべったりでちょっと寂しい……。
「セットって……イスとテーブルみたいだね。それに本当に嫌そうな顔してる」
「だって本当に心底嫌ですもの……。エイスリオ王子と結婚しないで済んで本当に良かった。本当に大好きな人と結婚できることになって、私、幸せです」
王族や貴族の政略結婚は当り前だものね。私は運が良かったわ。
「うん。僕もだ」
見上げたリヒト様の顔が綺麗で思わず見惚れてしまう。
「……ねえ、ひょっとしてフィーネは僕を煽ってる?」
「え?あおって……?」
今、リヒト様とものすごく密着してる状態なんだって改めて自覚した。
「あ、いえ、そんなつもりは……!」
慌てて少し体を離そうとしたその時、突風が吹いて窓をカタカタと揺らした。驚いて窓を見るとそこには……
「流れ星……!」
「ああ、そういえば冬の流星群の時期だったね」
湖にたくさんの星が降ってくる。
「すごく綺麗……」
「そうだね……来年も二人で見よう。再来年もその次の年もずっとずっと一緒に」
「嬉しい……約束ね」
リヒト様と私は降る星を数えながら、これからのことを、幸せな未来のことを話し続けた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




