もう一つの決着
来ていただいてありがとうございます!
「我が国の王子から捨てられたはねっかえり姫ですからね。瑕疵と言えるでしょう?」
我が国……。真ん中の赤髪の男子生徒の後ろに、隠れるように立ってる黒髪眼鏡の人はトラゴス王国の貴族だったのね。
「…………」
うわ!今なんかゆらって出たわ?リヒトクレール様の体から。まさかまだ悪霊の王様の欠片とか残ってたりしない?アカデミアの人達がしっかり封印してくれたから大丈夫のはずよね?私はそれを押さえるようにリヒトクレール様の胸にそっと手を当てた。そしてそのまま彼らに向き直る。
「エイスリオ様との婚約解消は元々私の方から申し入れていたことです。私がアカデミアに入ることを目標にし、その目途が立ったことでお互い納得の上、円満に手続きがすんでおります。そのような仰り方をされる謂れはございませんわ」
なるべくお姫様に見えるように堂々と毅然と反論してみせた。お母様が言ってたっけ。はったりも大事だって。あれ?違ったかしら?まあいいわ。私だってこういう言葉遣いもできるんだから!
「…………ち、ちょっと魔力が高いからっていい気にならないでもらいたいですね。アカデミアだなどと!学力は遠く及ばないでしょうに」
あ、それはそう!今回の騒動で聖魔法の適性があるってわからなかったら、私の頭じゃとても届かない場所だったんだものね……。ちょっとは彼らを怯ませられたかなって思ったけど、これは痛いところを突かれちゃった。
「お前達は今回の経緯を知ってなおその言葉が出てくるのか……」
リヒトクレール様、視線で彼らをどうにかできそうな感じになってる!怖い怖いこわいっ!今度は前に出ようとするリヒトクレール様を止めるために腕にしがみついた。さすがに暴力は駄目。
「超古代の悪霊が出てきて、会議が荒れたとかなんとか……。それを鎮めたのがレイフィーネ姫とリヒトクレール様だったとか……?」
あ、この馬鹿にしたような顔は信じてないわね?あの時の目撃者は主に会議に参加していた王族や高位貴族、それから警備の兵士さん達だけ。そうか、この人達はあの場で起こったことをよく知らずに話しているんだ。呆れた……。王族や貴族の情報収集能力は必須かつ重要なスキルだってお母様が言ってたけど、こういう事なのね。私だけならいざ知らず、リヒトクレール様を貶めたことは許さないわよ?といっても私にできることは、お父様を通じて相手の国に抗議していただくことだけなのがちょっと情けないけれど。
「貴女のせいで僕達はそれぞれの王国からお叱りを受けたんだ。もうじきになんらかの処分がくだされる!貴女のせいでね!」
「私のせい、ですか?」
それって一体何の話?赤髪の生徒はあろうことか指までさして私を非難してきた。
「ちょっと遺跡に触ったくらいで大騒ぎにしてくれて!」
ああ、春の課外授業の時のことね。三人のうちの薄い紅色の髪の男子生徒が赤髪の生徒の後ろから私を睨みつけてる。ちょっと何で嘘を言ってるの?
「触っただけではありませんでした。私がお止めしなければ、あなた方はあの石碑を破壊なさる勢いでしたわ。それにあの石碑にはあなた方のせいでしっかりと傷がついてしまっていました」
あの石碑の傷が悪霊が出てくる原因の一つだったのよね。あの時点でそんな大事なものだとは知られてなかったとはいえ、そもそも遺跡のような貴重なものを傷つけるなんて人としてありえないことだわ。
「完全な逆恨みだな。くだらない」
リヒトクレール様が吐き捨てるように呟いた。
「逆恨みだと?僕達は家を追い出されるかもしれないんだぞ?!」
「くだらなくなんかない!」
「こんなことで平民に堕ちるなんてありえない!」
「レイフィーネ姫が大袈裟に騒ぎ立てたせいだ!」
「責任を取れ!」
この人達、自分達がしたことを棚に上げて私に文句を言いに来たの?
「黙れ。それ以上その汚い口を開けば容赦はしない」
リヒトクレール様の言葉に三人は口撃の矛先を変えた。
「は!貴方になにができるんですかね?レーヴェ王国の権威は今回の件で失墜した」
「これからは我がシュティーア王国が一強なんだ!」
「もう王子でもないくせに!」
いくら学園が自由な交流の場だからってこれは酷い。かなり興奮してるみたいだから止めないと!これ以上言わせては絶対に駄目だわ。
「おやめなさい!いくら学園内といえどその仰り方や態度は不敬ですわ。立場をわきまえなさい!」
思わず強い言葉が出ちゃった。でもこのくらいは仕方ないわよね。この人達の為にもならないもの。
「…………っ」
良かった、ようやく黙ってくれたわ。
「はあ……まったく……。僕のお姫様はかっこいいね」
「リヒトクレール様っ?!」
なんで今こめかみにキスしたのっ?!ふわりと肩が温かくなってリヒトクレール様が上着を着せかけてくれたことに気が付いた。……あったかい。からまれたせいで長く外にいたから体が冷えてしまっていたみたい。
「ありがとうございます、リヒトクレール様」
「いい加減にしろ」
「レイ、大丈夫?こんな寒い所にいたら冷えてしまうわよ」
ふいにかけられた声に振り向くと、いつの間にかエイスリオとロゼが外へ出て私達の所へ近づいてきていた。
「ロゼメーア姫がレイフィーネ姫を探していたんだよー」
「アルガス様!」
二人の後ろからひょいっとアルガス様が顔を見せた。
「一体何をしている?大声で無知を晒して恥ずかしい奴らだ。お前がグレイリー伯爵家の六男だな。どうやら反省の色は無いようだ」
エイスリオが後ろの黒髪眼鏡の生徒を睨んでる。やっぱりあの人ってトラゴス王国の貴族だったんだ。
「は!貴方は今、婚約解消のせいで王太子候補から外されかかっているくせに!偉そうにしないでくださいますか?」
ええ?私との婚約解消をそこまで責められてるの?それにこの人何?自分の国の王族にまでこんなに失礼な態度なの?
「あの方はエイスリオ様の敵対勢力の側の貴族なのよ」
驚いていると私の隣でそっとロゼが耳打ちして教えてくれた。そっか、トラゴス王国も色々あるのね。
「そうなの……。でも何で婚約解消でそこまで……?」
「本当に君には自覚がないんだね。アステールの聖女様?」
「…………はい?」
リヒトクレール様は一体何を言ってるの?聖女って何?
「お前達はレイフィーネ姫に感謝すべきだ。彼女がいなければお前達は大罪人。下手をすれば死罪だったんだ」
三人に向き直ったリヒトクレール様が静かに告げる。
「はあ?何故ディデュモイの姫に感謝なんかしなくてはならないんだ!」
「それが分からないことがもう罪なんだよ」
リヒトクレール様は憐れむように静かに三人を見つめた。
「……仕方ないなー。無知ゆえの温情ってことで平民になるくらいで許すことになってたけどなー。全然反省してないみたいだから、国際裁判にかけることになってしまいそうだねー。守りの石碑を傷つけただけではなく、浄化の神像を壊したのも君達だよねぇ?」
「そ、そうなんですか?アルガス様」
「うん」
アルガス様の言葉にさっと青ざめる三人組。「そんなことはっ」とか「証拠なんてない」とか「裁判なんて大げさだっ」とか叫んでる。
「知らないとは言わせないぞー?目撃者もいるし証拠もある。アカデミアの知識や技術をなめない方がいいよー」
口調はそのままだけどアルガス様はかなり怒ってるみたい。それは当然だわ。まさかこの人達が神像まで壊していたなんて思わなかった。驚いたのと同時に怒りが浮かんでくる。全部この人達のせいだったんじゃない!リヒトクレール様が苦しんだのも全部!
「恩人ともいえるレイフィーネ姫にからんで不躾を働くとは……。このことはシュティーア王国にも報告をさせていただく。追って沙汰を待て」
エイスリオが言い渡すと、三人はとうとうその場にへたり込んだ。
「さあ、もういいでしょう?こんな所にいたら皆さん冷え切ってしまうわ。今夜は楽しいパーティーなんですから、心ゆくまで楽しく過ごしましょう」
ロゼの一言で気を取り直した私達は温かい講堂の中へ笑い合いながら戻った。
後に三人は裁判にかけられて、遠い遠い流刑地へ送られることが決まった。
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