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虹色のグラス

来ていただいてありがとうございます!




「水が出ない……」


ポタン、ポタンと指先の空間からグラスへ滴り落ちる水。全然出てこない訳じゃないから確かに適正はあるんだろうなって思う。今日は大好きな魔法の授業の日なんだけど、私はかなり苦戦していた。


魔法には属性、適正、ランク(一番下がCランク→Sランク)があって、私の適正魔法は風と水。風魔法は以前の授業でA判定を貰っていた。小さい頃から発現していた風魔法は上手くいくけど、水魔法がいまいち。水をグラスに一杯出すのにも苦労してしまってる。


「気長にやってくださいね、レイフィーネ姫。風魔法の方のコントロールはとてもお上手なんですから、水魔法だってきっとお上手になられます。大丈夫ですよ」

「はい。ありがとうございます。フィーリア先生」

様子を見に来てくれた魔法実技の先生の優しい言葉が心に染みるわ……。


「諦めた方がいいんじゃないか?君には風魔法があるだろう?やっぱり二属性を同時になんて無理だ。別に魔法を極める必要なんてないんだから、それよりも他の苦手科目を克服した方が建設的だ」

小さなさざれ石を結晶化させて、手のひらに乗るほどの魔法宝石を作り出したエイスリオが先生と私の元へやって来た。

「まあ!まあ!これは素晴らしい結晶ですね!とても澄んでいて美しいですよ!」

エイスリオは鉱石とか貴石とか宝石に関する魔法が得意らしい。エイスリオは地属性魔法で私と同じAランク判定を貰ったみたい。周りの生徒達もエイスリオが作り出した魔法宝石を見て歓声を上げてる。うう、悔しいけど確かにとっても綺麗な石だわ。


「何をどう勉強していくかは自分で決めるわ。口出ししないで」

集中しないと魔法が途切れちゃうんだから邪魔しないで欲しい。

「それでは将来的に俺が困るんだ。俺はトラゴスの第一王子なんだから、妃があまりにも不出来では……」

「だったら、すぐにでも婚約解消してくれて構わないわ。っていうかそうして!そして私の邪魔をしないで!」

「はあ……。どうしてそうなるんだ。俺は普通に王国を治めていきたいだけなのに……」

「私だって普通に仲良くできる人と暮らしていきたいだけよ」

私はエイスリオを睨みつけた。

「…………」

エイスリオは無の表情で私の席から離れて行った。


「じゃ、じゃあ、レイフィーネ姫、頑張ってね。今日はこのグラスが一杯になったら終わりですから」

先生は私達の言い合いに口を出すことも出来ずにオロオロしてたけど、エイスリオが去るとホッとしたように他の生徒の様子を見に行った。ちょっと申し訳なかったけど、人が頑張ってるところに水を差すようなことを言うエイスリオが悪いと思う!私は半分くらい水のたまったグラスを見てため息をついた。


窓の外で歓声が上がった。席を立って外を見ると、ちょうどロゼが水魔法で広範囲に雨を降らせ、虹を出現させているところだった。水玉の宝石がキラキラと輝いてロゼのパステルブルーの髪を飾ってる。

「綺麗……。ロゼの水魔法もAランクね」

いいなぁ、みんなロゼを見て褒めてる。綺麗とか、凄いとか言われてるみたい。あ、エイスリオもロゼのそばに立ってる。いつの間に?……私が風魔法で空を飛んだ時は、Aランク判定だったのに、はしたないとか言われちゃったっけ。頑張ってるんだけど、なかなか思うような評価はもらえないみたい。


結局時間内にグラス一杯の水を貯めることはできなくて、私の水魔法のランクはCだった。つまり今の所はほとんど役に立たないってこと……。




悔しいから、フィーリア先生に許可を貰って放課後に再チャレンジさせてもらった。ロゼはクラスの子達と一緒に街へ行くらしい。アクセサリーを買うんだって。この学園ではお化粧や制服のアレンジやアクセサリーをつけたりすることは自由。髪型も。学園の女の子達はみんなとってもおしゃれで指輪やイヤリング、髪飾り、ネックレスなんて当り前。制服のスカートにレースをつけたりオーガンジーでふんわりさせてる子なんかもいる。


私は特に何もしてない……。お化粧は苦手だし、アクセサリーは空を飛ぶ時に落としたりするかもしれないし、何より重たくなるのが嫌だったから。

「リボンくらいはつけた方がいいのかな……」

髪に触れてみた。

「空を飛ぶ時にほどけて落としてしまったらもったいないよねぇ……」

私はため息をついた。


「でもやっぱり一緒に街へ行けば良かったかな……。アクセサリーはともかく珍しいものが各国から集まってきてるって聞いてたから入学前は楽しみにしてたのに。私ってバカ……」

この中立地帯にはいくつかの街があって、それぞれの王国とこの中立地帯の自治を担う組織(各王国から役人が派遣されてる)から許可を得た商人がお店を開いてる。中でも一番大きな街がこの学園のある街で一番賑わってる街でもあるんだ。


「まあ、この先街へ行くチャンスはいくらでもあるんだから、今日はこれを頑張ろう!うん!」

私は目の前のグラスと向き合った。

「水魔法だってAランクを貰ってやるんだから!」

私は気合を入れ直した。



でも、出ない……。

「うう、やっぱり無理なのかなぁ……」

「やあ、熱心だね」

「きゃあっ!!」

突然、後ろから声をかけられてすっごくびっくりした!!


「驚かせてごめん」

「リヒトクレール様!」

教室のドアの所に立っていたのはリヒトクレール様だった。私は慌てて周囲を見回したけど、他に生徒はいないみたい。ホッとして深く息をついた。

「どうしたの?レイフィーネ姫」

「い、いえ。何でもありません」

誰もいない教室でリヒトクレール様と一緒にいるところを見られたら、袋叩きにされてしまう。


「水魔法の練習かな?」

リヒトクレール様は机の上の半分ほど水の入ったグラスを見つめた。

「はい。でもなかなかうまくいかなくて……」

「そう……レイフィーネ姫は風魔法を使う時はどんな風にするの?」

「どんな風に……?えっと風を呼ぶとか、空気を動かすとか……?」

ほぼ感覚で魔法を使ってたから、言葉にするのは難しいな……。


「水ってどこからくると思う?」

「え?どこから?」

考えたこと無かった。

空気(ここ)にも水があるんだよ?」

そういってリヒトクレール様は(くう)を指さした。

「……空気の中に」

「それだけじゃないけど、最初はそれを意識して水を集めてみたらどうかな?」

リヒトクレール様のエメラルドグリーンの瞳が何故か挑戦的に笑っているように見えた。「できるかな?」って言われてるみたい。ちょっとだけ負けん気に火が付いた。


「水を集める……」

そして何となく、できるような気がした。私はグラスの上に両手で器を作った。周りの空気から水を取り出すイメージを浮かべる。

「あっ!」

水の球体が両手の中に浮かんでいた。そっと手を離すとパシャンって音がしてグラスに水が溢れた。

「できた!!できたできた!!やったー!」

私が喜ぶ声と同時にグラスは虹色に輝いた。


「おめでとう!Bランク合格だね。まさか今日始めて、ここまでできるとは思わなかったよ。レイフィーネ姫はすごいね」

リヒトクレール様が笑顔で拍手をしてくれていた。褒められたー!嬉しい!

「ありがとうございます!リヒトクレール様!おかげで何となく水魔法の感覚がつかめました!」

「どういたしまして。実はフィリーア先生にレポートを提出しに来たら、君の事を見てあげて欲しいって頼まれてね。お役に立てて良かったよ」


あ、なーんだ。そういう事か……。って何がっかりしてるの、私は!とにかくコツは掴んだ気がする。良かった良かった!


「よーし、後は練習あるのみ!Aランク目指して頑張るぞ!」

「頑張れ」

私がおーっ!っと拳を上げると、リヒトクレール様も同じように拳をあげてくれた。なかなか付き合いのいい人ね。


流れでリヒトクレール様と一緒に帰ることになったけど、正直誰かに見られてないか不安だった。挙動不審になってたかもしれない。

「髪飾り、魔法で固定する方法を今度教えてあげるよ」

「え?」

別れ際、校舎を出るところでリヒトクレール様にそんな風に言われた。

「そうすれば空を飛んでも落ちないようにできるから。じゃあ、またね」

「あ、はい。ありがとうございました!さようなら」

私は頭を下げて何とかお礼と挨拶をした。



リヒトクレール様、いつから私の独り言を聞いてたの?恥ずかしすぎるんだけど……。















ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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