雪の夜のお茶会
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窓の外は雪景色。
私とロゼは女子寮の二人の共用の部屋で二人でお茶を飲んでいた。街でたくさん買い込んだお菓子をテーブルに並べて、学期末の試験を終えた私達は楽しくて開放的な気持ちになっていた。
「ちょっと遅くなったけど婚約おめでとう!ロゼ」
ティーカップで乾杯。
「ありがとうレイ。……でもなんだかごめんね」
「謝る必要なんてないわ。私は婚約を解消してもらえて万々歳だもの」
「そんな……」
「私はロゼが大切にしてもらえて、幸せならそれでいいわ」
まあそれはそれとしてエイスリオのやり方は腹が立つけど。はー、ロゼが用意してくれたこの紅茶、美味しい……。いい香りの湯気にとげとげした気持ちがすーっと消えて行った。
「でも驚いたわ。まさかレイがリヒトクレール様と婚約するなんて。……いいの?王太子候補を辞退していらっしゃるのよ?」
ロゼはお茶を飲みながら心配そうに上目遣いで見つめてきた。
「うん。それはどうでもいいの。私はアカデミアに行くつもりでいるから」
まだ確定じゃないし厳しい道だと思ってるけど、それを目指して頑張るわ。
サンサントル学園にくるような女の子達にとっては、王子妃、王妃になることはステータスで憧れの一つだから、ロゼが気にするのは当然なの。だけど正直私にはあまり興味が無いし、逆に王妃になるのは私には荷が重いとすら思ってた。リヒトクレール様がどう思ってるのかは聞いてみないとわからないけど……。
「リヒトクレール様は……色々大変だけど、大丈夫そうで良かったわ……」
ロゼは綺麗なアイシングのかかったクッキーを一つ口に運んだ。ロゼも経緯を知って色々複雑そうだったけど、今は安堵の表情を浮かべてる。
心配していたレーヴェ王国やリヒトクレール様に関しては同情的な意見が多かった。学園内でも同じで、当事者から直接話を聞いた生徒達、主に王族や高位貴族の更に上の身分の方々の子女達はリヒトクレール様を責めることはなくて、むしろ労わるような声が多かった。逆にあまり事情を詳しく知ろうとしない生徒達の中にはリヒトクレール様を批判する人もいるみたい。
大昔の悪霊が出てきて、一国の王様の体を乗っ取ってたなんて、自分の目で見ないとなかなか信じられないわよね。これを機に超古代の歴史を詳しく知ろうとしたり、衰退しつつある魔法についての研究も復活させようって動きも出てきたみたいで、アカデミアのその分野の研究者達はとてもはりきってる。
「エイスリオ様はトラゴス王国の方々から、かなり責められたらしいわ」
「え?どうして?」
「もう!全然自覚がないのね。レイは貴重な聖魔法使いなのよ?」
「え?でもアカデミアにも何人かいるわよ?」
確か他の国にも聖魔法が使える人はいるって聞いてるんだけど……?つやつやした小さなチョコレートを一つ口の中に放り込んだ。
「もう!それだけじゃないでしょう?レイは影鬼とかいう化け物を倒したんでしょう?それだけの力の持ち主なのよ?どの王国もレイのことを欲しがってるのよ」
「ああ、それで縁談がたくさんきたのね。全部断ったけど」
そんなの「私」じゃなくて私の能力が必要だってことよね?大事にはしてもらえるだろうけど、それだけだろうし。それで私と婚約を解消したエイスリオが責められてるのね。同情なんてしないけどロゼに迷惑がかかるのは嫌だわ。大丈夫なのかしら……。
「それにしても、ちょっと勿体なかったわねぇ。だってシュティーアの第二王子様も申し込んでこられたんでしょう?あの方ってとても美しい方なのよ?まだ婚約者もいらっしゃらなくて大人気なのに!」
実はロゼは各国の王族や貴族や果ては騎士階級の美形な殿方についてとても詳しいの。なんでもロゼのお母様、ピシース王国の王妃様がそういう情報に明るいらしい。
「もう、ロゼったら!そんなこと言ってるとエイスリオ様に言いつけちゃうわよ?」
「ふふふ、このくらいなら大丈夫よ」
「あら!愛されてるのね。私とは大違いだわ」
「もう、意地悪ね。ふふふっ」
「あははっ」
お茶のおかわりを注いで楽しいおしゃべりは続く。
「そういえば年終わりのダンスパーティーのドレスはどんなのにするの?」
ロゼが夜明け色の目を輝かせて尋ねてきた。
サンサントル学園ではその年の最後の授業の後、講堂でダンスパーティーが開催される。その後は十日間ほどの冬のお休みに入って、ほとんどの生徒は自分の国に帰って新年を迎える。
年終わりのダンスパーティーは毎年新生徒会が主催するんだけど、今回はあんな騒動になって中止になると思ってた。リヒトクレール様も生徒会長を辞退して混乱してたし、代わりの生徒会長もまだ決まってない。でもシュティーア王国の前生徒会長が頑張って指揮をとってくれて、無事に開催にこぎつけたんだそう。
「そういうロゼのドレスはどんなの?」
「エイスリオ様がね、お披露目も兼ねてるからっておそろいのアクセサリーをつけようって準備してくれてね……」
ロゼは照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
「へえ、素敵ね!」
「レイのその髪飾りだってリヒトクレール様の贈り物でしょう?」
「あ、うん。そうなの」
私は右サイドにつけた髪飾りに触れた。実はこの髪飾りは二代目。最初にもらった髪飾りには星水晶にひびが入ってしまったから、今は大事にしまってあるの。申し訳なくてリヒトクレール様に謝ったらこれを贈ってくれた。
「エメラルドの髪飾りなんて、愛されてるわねぇ」
あ、今のちょっと意地悪そうな笑顔、エイスリオに似てた……。ちょっとやだな……このままロゼがエイスリオみたいになったら……。一緒にいると似てくるって話をどこかで聞いた気がするけど本当かしら?
「それで?ロゼのドレスの方は?どんななの?」
「……青と空色のドレスよ」
私が尋ねるとちょっと言い辛そうにしてるロゼ。
「なーんだ!エイスリオ様だって独占欲丸出しじゃない!ロゼの方がずっと愛されてるわ!」
「そ、そうかしら……」
「それでそれで?ロゼはエイスリオ様のどこがそんなに好きになったの?」
「え?え?その話題にいくの?」
「だって気になるんだもの。私にはつっけんどんだったエイスリオ様がロゼにはどんなに甘々になってるのか」
「甘々って……そんな……」
「…………」
雪の夜はしんしんと深けていき、翌日私達が目覚めたのは朝食の時間が過ぎたお昼に近いくらいの頃になってしまってた。ちょっとだけ寮母さんにしかられたけど、試験明けのお休みの日だったってことで大目に見てもらえた。
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