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期待しないと言われたので自由にさせてもらいます  作者: ゆきあさ


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目覚め

来ていただいてありがとうございます!




「レイ、今日もアカデミアへ行くの?」

「うん」

「気を付けてね」

「うん。行ってきます」

授業が終わった後、アカデミアへ行くのが最近の日課になってる。心配そうな顔をしてるロゼとその隣で同じように心配そうな顔をしてるエイスリオに見送られて私は教室を後にした。


「今日はずいぶん寒い……。もうすぐ雪が降るのかも」

どんよりと曇った空を見上げながら石畳の道を急ぐ。今日は途中でお花屋さんに寄って小さな花束を買った。


「レイフィーネ姫、今日もお見舞いですか?」

「はい」

受付の人に挨拶して建物の奥へ進んだ。アカデミアには併設されている病院がある。医術を研究する人がけが人や病人を診てくれる施設で、実験や研究に協力する代わりに安価で治療をしてくれる。悪くとる人もいるけれど、新しい治療法も試すことができるから私は良いことだと思ってる。


「失礼します、リヒトクレール様」

ノックの返事は無いけど、病室へ入り花束をサイドテーブルに置いた。

「今日はお花付きですよ。ほら、廻魂祭の時のリースに使うお花が売ってたんです。後で花瓶を借りてきますね」

眠るリヒトクレール様に話しかけるけどやっぱり返事は無い。


あれからひと月ほどが経ったけど、リヒトクレール様は目覚める気配が無い。


あの騒動の後、リヒトクレール様はこのアカデミアの病院へ運び込まれた。今までにない症例で、普通のお医者様では対処できないから。アカデミアには治癒魔法の研究をしている人や聖魔法に通じてる人もいる。レーヴェ王国へ戻すよりもこちらの方が可能性が高いだろうっていう判断だった。


「あれから本当に大変だったんですよ?」

花を生けながら、もう何度か繰り返した話をリヒトクレール様に向かって話す。リヒトクレール様の上には時計の文字盤のような魔法道具が浮いていて、針はゼロに近い位置を指し示してる。

「私は聖魔法の特訓をして、何とか自由に使えるようになりました。毎日頑張って悪霊を浄化し続けて……」

窓辺に花瓶を置いて少し寒いけど窓を開けた。

「アルガス様もパレルソン先生もファンタス様も他の皆さんも頑張って、リヒトクレール様の中の悪霊を追い出してくれたんです」


アカデミアが総出で知識を出し合って、魔祓いの魔法陣を作ってくれた。弱った(はず)の悪霊の王様を追い出してくれたのがつい一週間前。何故かリヒトクレール様の体から出てきた黒い影は二つの球体だったけど、それをなんか壺みたいなものに封印してた。


「これで安心って思ってたのにリヒトクレール様、全然目を覚まさないんだから。みんな心配してますよ?」

眠るリヒトクレール様のそばに膝をついて穏やかな寝顔を覗き込んだ。胸の上に手をかざしていつものように聖魔法をかける。光の粒が白い掛布の上に落ちていく。私の涙も一緒に。


「もう、時間がないのに」

見上げた先には時計の魔法道具。これもアルガス様達が探し出してきてくれたもので、時間の進み方を操れる道具だった。これとアカデミアの病院の治癒魔法のお医者様が命綱だった。リヒトクレール様の体が健全に保たれる猶予はひと月程とのことだった。ただ、何分にも前例が全くない症例だから、何も保障できないそう。


冷たい風がふわりと花の香りを運んできた。

「そろそろ窓を閉めなくちゃ。リヒトクレール様が風邪をひいちゃうわ」

泣いてる場合じゃない。もう私にできることはやったし、後はリヒトクレール様を信じて待つだけ。でもそれがとても辛い。



窓を閉めたその時、待ち望んだ声が聞こえる。


「……ああ、いい香りだね……」


信じたくて信じられなくて……ゆっくり振り返ると綺麗なエメラルドグリーンの瞳が私を優しく見つめていた。


「また泣いてるの?」













夢を見ていた



暗い水底で、絡みついて離れない闇の中で、身動きが取れずに。それでも心だけは縛られまいともがいて。


やがて闇が語りかけてきた。自分も同じだったと。父の手足のように動いて来たと。それが当然だと思っていたと。…………でも間違っていたのかもしれないと。闇は更に下にある大きな闇を恐れているようだった。


もう少し時間が過ぎて、温かな光が降り注ぐようになった。次第に闇は薄れ心が自由になった。思い出すのは君の事。


あの日、天文の塔で空を見上げていた君。僕の手を取って空を飛んだ君。サンサントル学園へ入学してくるのは王族や高位貴族の子女ばかりなのに。君もお姫様なんだろう?なんて自由な女の子なんだろう。


時々見かける君を気が付けば目で追うようになっていった。ディデュモイ王国の姫君。アプリコットネクター色の髪。婚約者がいることも知った。よくある政略結婚。王族ならば普通なこと。でも君はその運命に抗おうとしていたね。少し眩しくて羨ましかった。


自由に過ごせる最後の夏はとても楽しかった。これが終われば「僕」の時間は終わる。レーヴェ王国の王子としての時間が残される。ずっと覚悟の上だったのに、とても寂しかった。でも「父」の命には逆らってはならない。


それでも君の事が気になって、心配で、くだらない嫉妬もして……。滅茶苦茶な自分を嫌悪した。自分を消してしまいたかった。苦しくて頭の中にある赤く黒い霧の中に沈み込んだ。それなのに……。


君は一瞬でその毒霧を晴らしてしまった。


空から窓へ入って来る姫君なんて聞いたことがないよ!自然と笑みが浮かぶ。


ずっと頭の中で聞こえていた声は鎮まり、僕は「僕」を取り戻した。そして覚悟を決める。何があっても君を守り、父を救い出すと。眠る前、最後に見たのは君の泣き顔だった。僕は君の楽しそうな笑顔がとても好きなのに。


光の中で小さく固くかたくなになっていた闇達はやがて僕の中から消えて行った。一人残された僕は温かな光の中で揺蕩っていた。ふいにどこかでかいだ花の香りが冷たい風にのってやってくる。君を思わせる柔らかな甘さを含んだ……


「……ああ、いい香りだね……」


どうして君は、また泣いているんだろう?




僕は光の世界へ戻ってきた。














ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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