戦い
来ていただいてありがとうございます!
会議場内がざわめいた。
「待ってくれ!」
「国に戻って相談する時間をいただけないかっ」
いくつかの国の王様達が声を上げたけれど、悪霊の王様は一瞥しただけで無言のままだった。
「望む返事は一つだけ、という事かな」
ファンタス様の言葉にトラゴス王国の人達が息を呑んだ。
「様子がおかしい……?」
「あれ?影霊達が全然動かないですね」
人が襲われると思い、臨戦態勢に入っていたリヒトクレール様と私は走り出そうとして踏みとどまった。ファンタス様とエイスリオも不思議そうに周りを見回してる。動かない影霊達を見てアルガス様だけが笑みを浮かべていた。その意味は悪霊の王様の言葉で判明した。
「封印が復活している……」
あ!そうか、神像が神殿に到着したんだわ!出てきたほとんどの影霊達がだんだん薄くなって消えて行った。会議場のフロアに残っているのは何十体かの影霊だけ。ざっと二十体くらいかしら?その中にはあの巨大な角の生えた異質な影霊もいる。
「数は減ったけど、もしかして強いのが残っちゃったー?」
アルガス様の笑顔が少しひきつってる。
「数が減ったのは良いことだ。戦闘という意味においては」
ちょっと残念そうなファンタス様。この人は本当に……。
「行こう」
リヒトクレール様は近くの影霊に向かって風魔法を使った。ブレスレットを通した魔力の風は銀色の光を帯びて、影霊を消し飛ばした。
「すごい!リヒトクレール様!」
正直、私は本当はものすごく怖かった。だから初めての戦闘であっさりと影霊を倒したリヒトクレール様を見てかなり勇気をもらえたの。
「わ、私も!」
リヒトクレール様に続いて走り出し、少し離れた場所で他の人に襲い掛かろうとしていた影霊に風魔法を放った。銀色の光の風が影霊を霧散させる。
「た、倒せた!良かった」
ホッとした私はリヒトクレール様を追いかけた。後ろを振り向くとファンタス様やアルガス様、エイスリオがそれぞれにみんなを守って戦い始めてる。各国の王様を守ろうと護衛の兵士達が剣を振るったりもしてるけど、やっぱり倒すことはできないみたいだった。
「ちょっと慣れてきたかも」
二体目の影霊を倒して油断していたと思う。
「レイフィーネ!後ろ!」
振り向いたリヒトクレール様が叫んだ。後ろから長く伸びた影の腕が私に迫っていた。魔法を使おうとしたけど間に合わない。終わった……。そう思ったけど腕は私の目の前で弾かれた。
「え?」
「レイフィーネ!避けて!」
リヒトクレール様の声に反応してしゃがみ込んだ。リヒトクレール様の魔法が腕の本体の影霊を打ち倒した。
「大丈夫?!レイフィーネ姫!」
「はい。すみません。油断してしまって」
「お守りが守ってくれたみたいだね」
あ、そうだった。壁掛け型の魔除けを小型化して持っていたんだっけ。ブレスレットも守ってくれたのかもしれない。なんにしても助かったわ。もう絶対に油断しない。
「僕から離れないでね」
「はいっ」
リヒトクレール様は私を引き寄せて、背中に庇ってくれた。もう目の前にはレーヴェ王国の国王様と四体の異形の影霊だけ。ん?心なしか巨大だと思ってた影霊が少し小さくなってるような気がする。もしかして封印が復活したおかげで力が弱まってる?私は油断しないように身構えながら周りを見回した。シュティーア王国の国王様は臣下の人達に守られて壁際に避難して無事みたい。あ、お父様達もいるわ。みんな大丈夫そうで良かったわ。
「父上!どうか目を覚まして下さい!」
リヒトクレール様の声が届いているのかいないのか、レーヴェ国王様は無反応だった。その代わりに動いたのが四体の大きな影霊達だった。
ゆらり……
音もなく動き出し、レーヴェ国王様と私達の前に立ちはだかった。こ、これはちょっと強そうなんですけど?!全身に鳥肌と汗が浮かぶ。けど、引くわけにはいかない。下手をしたらアステールスケーネ全体が死者の国になってしまう。
「外が騒がしいな……」
追いついて来たエイスリオが後ろで呟いた。本当だわ、フロアのドアの向こうに大勢の人の気配がする。
「父上!どうか、ご自分を取り戻してください!!」
リヒトクレール様の必死の呼びかけにもレーヴェ国王様は表情を崩さない。
「とりあえずこの大きいのを倒さないと、話を聞いてもらえないみたいだねー」
アルガス様とファンタス様もやって来た。もう残ってるのはこの四体だけみたいね。あ、外にもいたんだっけ。
その時だった。ドアが開かれて大勢の兵士達がなだれ込んで来た。
「ハワード隊長?」
警備兵隊のハワード隊長が十数人を引き連れて現れたのだった。その手首にはお守りのブレスレットをつけてる。
「おお!ハワード隊長!どうやってここへ?外にもあの大きな影霊がいただろう?ああ、私はこれらを影鬼と呼称したいのだが」
「そんなことは今どうでもいいでしょう!」
エイスリオが鋭く突っ込んだけどファンタス様は華麗にスルーした。
「外にいた影鬼とやらは我々が何とか倒しました」
ハワード隊長はファンタス様の提案を受け入れてくれた。
「なんとかブレスレットの材料をかき集めてあれから総出でブレスレットを作りました。間に合ったのは五つだけですが、魔法が使える兵士に装備し影鬼を撃破しました」
私が渡したブレスレットを見て作ってくれたんだ!材料、どこにあったんだろう?
「頼もしい援軍が来てくれたねー」
「学園の警備はどうなってるんだ?!」
エイスリオがハワード隊長に詰め寄ったけど、街の中には影霊は一体も出現してないとのことだった。
「ふうむ。つまり悪霊の王の命令でしか影霊達は動かず、命令の範囲はある程度限られるということか……。おまけに封印の効果で一定の強さの影霊しか出現できず、力も弱められる、影霊達にもランクあり、と」
ファンタス様、こんな時にメモなんて取らないで欲しい……。
「来るぞっ!」
リヒトクレール様が叫んだ。ほらね、そんな場合じゃないんだから!四体の影霊達、改め影鬼達との戦いが始まった。
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