潜入
来ていただいてありがとうございます!
「おじい様、影霊が増えてるじゃないかーっ。今は昼間なのに」
ごく小さな声でアルガス様が叫んだ。
私とリヒトクレール様、アルガス様とファンタス様は空から会議場の二階へそっと潜入した。会議場の周りを大きな影霊のようなものが歩き回っていたから。みんな会議場の中に閉じ込められてしまってる。アルガス様もファンタス様も空を飛べてたのには驚いちゃった。何故か一緒に行くと言い張ったエイスリオは飛べないから、アルガス様に抱きかかえられてここまでやって来た。
今、私達は会議場の建物の二階にある控室から一階の会議場の様子を見てる。一階の会議場は吹き抜けになっていて、二階部分はバルコニーのように会議場を取り囲むような構造になってる。広いフロアに大きな円卓。以前に観月のダンスパーティーが行われたのはこの一階のフロアだった。
眼下では四体の大きな影霊に守られたレーヴェ王国の国王様とシュティーア王国の国王様が対峙して話をしている。パレルソン先生の話では、レーヴェ王国の国王様の中の悪霊は十二の王国全ての主権を自分に渡して支配下に入るように命じてきたというから、何とか説得を試みてるところなんだと思う。他の人達はその様子を遠巻きに見てるだけ。
「なんだ?あの影霊は?影霊なのか?実体があるようじゃないか!あんだあのねじ曲がった角は!尻尾まで生えているぞぉ。おおっ!あれが魔のものという存在か?」
ファンタス様はよく見ようと扉の陰から身を乗り出そうとするから、押さえるのが大変だった。
「ファンタス様、危ないですよ!それに声を抑えてくださいっ。ほら、いっぱい人が倒れています。見つかったらまずいです!」
会話してる二人の周りに、倒れてる人達がたくさんいる。たぶんレーヴェ王国の国王様を取り押さえようとして返り討ちにあってしまったのね。
「会議場へは入れたけどこれからどうしようかー」
「ここからなら俺の国の人間がいる場所が近い。こちらの知っている事を説明して各国に協力を仰ごう」
アルガス様の問いかけにエイスリオが答えた。一応エイスリオにはこちらへ来る道すがら状況を説明してある。
「うーん、説明しても打開策があるかなー?」
影霊や悪霊には剣や普通の魔法は効かないみたいだから、普通の兵士では太刀打ちできないだろう。神像が神殿に届いて封印が元に戻ればなんとかならないかしら……。
「…………僕は父と話がしたいです」
リヒトクレール様はパレルソン先生の話を聞いてからずっと思いつめたような顔をしてる。私は思わずリヒトクレール様の袖の辺りを掴んでしまった。
「リヒトクレール様、今の国王様は本当の国王様じゃないです。近くへ行くのは危ないかもしれません」
冷たい手が私の手を握って、リヒトクレール様は少しだけ笑った。
「大丈夫。どんなふうになってしまっても父は父だから」
「ではひとまずトラゴス王国の方々の所へ行ってみようか」
ファンタス様はあちらこちらのポケットから魔法道具を取り出して身につけた。
「みんなも気を付けてねー」
アルガス様もエイスリオもブレスレットを確かめるように見た。リヒトクレール様も空いた方の手で上着のポケットに触れた。万が一戦いになった場合、それぞれの判断で逃げようということになった。
「なにせ我々は戦い慣れていないのだからね。自分の身を守ることが最優先だよ」
ファンタス様って昨夜は襲い掛かって来る影霊達を倒してデータを取りまくってたって聞いたけど、本当に戦い慣れてないのかしら?
「そうか……。超古代の悪霊か。にわかには信じがたいが、穏やかなレーヴェ国王の変容やあの化け物たち、昨夜の騒ぎはそれで全て説明がつきそうだ。それにアカデミアの研究者が言うのなら間違いは無いのだろうな」
トラゴス王国の国王様、つまりエイスリオのお父様はやや疲れた表情でため息をついた。
「レーヴェ国王、いや、悪霊の王は他の王国が自分の支配下に入ることを命じている。自分がこの地の唯一の王だと主張している。そして従わねば全ての国を昨夜のサントル市と同様に化け物達に襲わせると言っているのだ」
「恐怖で人心を支配しようというのか。卑怯な!」
エイスリオは憤っているけれど、現状とても効果がある脅しになってる。悪霊にとっては人の国だろうと影霊の国だろうと自分がアステールスケーネの王様になれればいいのかもしれないし。
会議場の隅で様子を窺っていると、二人の王様の話し合いは決裂してしまったみたいだった。
「これ以上の問答は無用だ」
レーヴェ国王の姿を借りた悪霊が宣言した。
「これより我が配下の者達を世界に解き放つ」
たくさんの赤黒い影が会議場の床から次々と湧き出した。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




