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新緑の課外授業

来ていただいてありがとうございます!




「ここアスケールステーネ地方はかつては巨大な一つの王国があった土地です。もう皆さんご存じですね。今現在はね、中央の中立地帯を取り囲むようにその王家の血を継ぐ十二の王国があります。十二の王国は互いに争うことが無いように同盟を組み、盟主を一年ごとに選出してきました……」


うう、眠い……。今は歴史の授業中なんだけど、そんなのお昼ごはんのすぐ後に持ってきちゃダメでしょ。豊かな白髪のおじいさん先生のお話は歴史書には必ず最初に出てくる内容だ。本当に昔、ここには大きな一つの王国があってそれが分裂して今の世界になったんだって。あ、だめ。ほんわかした話し方だからもっと眠くなってくる。


「……というわけでね、季節もいいですしね、ここから少し南西にあるエリン高原に当時をしのぶ古王国の史跡がありますので、明日はね、そこでの課外授業を予定していますよ。……参加は自由ですが交流会も兼ねていますからできるだけ参加してください。参加しない場合は歴史書のレポート五枚分を提出してくださいね」


これって……遠足とかピクニックみたいじゃない?!レポートよりも外に出る方がいいわ。エリン高原って綺麗な場所だって聞いたことがあるもの。楽しみ!



授業が終わると教室の中は課外授業の話題でもちきりになった。

「ロゼはどうする?もちろんエリン高原へ行くでしょ?」

「ええ!もちろんよ!だって全学年合同の行事ですもの!」

「あれ?そうだっけ?」

ロゼの瞳がいつもよりキラキラ輝いているのはそのせいだったんだ。

「君はきちんと先生の話を聞いてないんだな……」

私はロゼと話しているのにどうしてエイスリオまで会話に入ってくるのかしら。


「エイスリオ様はどうなさるんですか?」

ロゼの質問にはにこやかに答えるエイスリオ。

「俺は不参加だ。エリン高原は以前に行ったことがあるから。それよりも研究室に顔を出したい」

エイスリオは傾倒する先生がいるらしくて、その先生の研究室に入り浸ってるんだって前にロゼに言ってた。なんでも不思議鉱石の研究をしてるらしい。

「でも、それだとレイは寂しいわね」

ロゼが心配そうにしてる。でも。


「別に大丈夫だろう」

「全然平気よ」

エイスリオと私の返事が重なった。エイスリオは少し不愉快そうだったけど、本当にエイスリオが一緒じゃなくても気にならないもの。






課外授業は思った以上に交流会だった。


風が吹き渡る緑の豊かなエリン高原はとても気持ちのいい場所だった。午前中に高原に散在している遺跡、昔の建物の残骸のような遺構を見学しながら先生の話を聞いた。そしてお昼の時間に出発前に渡されたランチボックスを食べようとしたら、いきなりひとりぼっちになってしまった……。


最初はロゼと一緒にいたんだけど、自由時間になったら急に男子生徒達が(上級生まで)ロゼの所に集まって来た。ロゼは美人だし、まだ婚約者や恋人もいないから人気があるのは当然だよね。ロゼはリヒトクレール様の所へ行くって言ってたのに、みんなに囲まれて動けなくなってて、ちょっと笑顔がひきつってる。私は集団からはじき出されてしまった。



そのリヒトクレール様といえば、離れた場所でやっぱり女子生徒達に囲まれてる。大きな輪になって一緒に昼を食べることにしたみたい。モテる人達って大変だなぁ……。そんな風に思ってたら、一度リヒトクレール様と目が合った。私は一礼してみんなから離れた。


婚約者とか恋人がいる生徒達はそれぞれで昼食をとってるし、お目当ての人がいる生徒は話しかけたりして、カップルができたりしてるみたい。

「どうしよう。私まだロゼ以外に仲いい人がいないんだよねぇ」

十二か国の王族、貴族の交流の場だと言っても、ちょっとした派閥(グループ)みたいなのはあるから、私が仲良くしたくても嫌な顔をされてしまうこともある。私のいるクラスでもそんな感じでもうグループができていた。


一応婚約者がいる身だから、男子生徒と気軽に友人にもなれない。

「レポート提出よりずっといいと思ったけど、そうでもなかったかなぁ……」

空を見上げてふいに気が付いた。小高い丘がある。あそこへ行けば一人でも気持ちよくご飯が食べられそう。誰も私の方を気にしてないのを確認してから、魔法で飛んで丘の上に昇った。

「うわぁ!いい眺め!!」

私は近くの岩の上に腰かけて(歴史的遺構じゃないのは確認した)、ランチボックスを開けた。

「うわぁ!美味しそう!!」

中には数種類のサンドイッチと瓶に入ったお茶、小さな焼き菓子まで入ってた。



「風が気持ちいい……。綺麗な景色だし、空が広い。お弁当も美味しかったし、大満足だわ。確かここは昔お城があったんだよね」

このエリン高原にはお城の残骸の岩と石碑がたくさんあるんだっけ。私は丘の上から午前中の授業で見学しなかったみんなのいる場所から離れた遺跡の方へ目をやった。

「あれ?」

小高い丘の上から何人かの男子生徒達がお城の残骸と石碑の方へ向かって行くのが見えた。


ここからじゃ顔なんて判別できないけど、その人達が魔法を発動するのは分かった。

「地属性魔法かな?何するつもりなんだろ……え?」

お城の残骸……なんとなく柱かなって思ってた石に魔法を当てて砕き始めた。

「ちょっとちょっと!大事な昔の遺跡だから大切にしてくださいって先生が言ってたのに、何してるの?!」

私は慌てて先生の方を見たけど、引率の先生達も集まってお昼を食べていて気が付いてないみたい。


目を戻すと今度は男子生徒の一人が石碑に魔法を当てようとしてるのが見えた。迷わず風魔法を発動し、魔法の風を送って男子生徒の魔法の発動を止めた。そして自分も丘の上から飛び立った。

「なんだ?!僕の魔法が消えた?!」

私は驚いてる男子生徒と傷つけられそうになってた石碑の間に降り立った。

「何だよ、お前?!」

「赤いリボン……。一年生か?」


濃紺のタイ……この人達三年生だわ。しかも地属性の魔法みたいだったから、たぶんうちの国とはあまり仲が良くない国の人達だ。これはちょっと厄介かもしれない。


「先生が遺跡は大切にするように仰っていました。先ほど魔法を使って遺跡を傷つけていらしたように見えましたので……。そういったことはおやめになられた方がいいと思います」

私は覚悟を決めて一息に言った。誰か気が付いてこちらへ来てくれるように願ってできるだけ大きな声で。


「ああ、そのオレンジ色の髪、君がディデュモイ王国のはねっ返り姫か!」

「魔法で飛んでくるなんて噂にたがわぬお転婆ぶりだな」

「エイスリオ様もなんでこんなのを選んだんだか……」

「大体こんな石、大して価値なんかないんだ。砕いて大地に帰してやるのが親切ってもんなんだよっ!」

「あっ!」

上級生一人が魔法を放ち、今度は石碑を傷つけた。咄嗟に風魔法でガードしようとしたけど、間に合わず、今度は石碑に小さな傷がついてしまった。

「なんてことを……」

古代の文字が一部消えてしまった。酷い……。まだ解析途中の遺跡もあるって先生が言ってたのに!

「そんなんだから、女子生徒に相手にされないんですよ!!」


「なんだとっ?!」

「生意気な!!」

「女のくせに!」

しまった……。ついカッとなって余計なことを言っちゃった。さっきロゼの周りに集まって来た中にいた人達だったから、相手にされなかったのかなって思っちゃったんだよね……。怒り方からして図星だったみたいだけど。


「このっ!」

上級生の一人が腕を振り上げた。


嘘!殴られる?


驚いて思わず目を瞑ったけど、衝撃は全く来なかった。

「学園在籍中とはいえ、一国の姫君に手をあげるのは重罪ですよ、先輩方」

恐る恐る目を開けると、リヒトクレール様が上級生の腕をひねり上げていた。助かった……。殴られたら痛いのもあるけど、国際問題になってしまう所だった。


リヒトクレール様の後からやって来た先生方に話を聞かれたから、私は丘の上から見てた事と今起こったことを説明した。でも彼らはニヤニヤ笑いながらしらばっくれてきた。


「嫌だなぁ。僕達は何もしてません」

「そちらの姫君が言いがかりをつけてきたんですよ」

「そうそう。ちょっと羽虫がいて追い払ってあげただけですから」


「先輩方、正直に仰った方がいいですよ。傷つけられた遺跡には魔力の痕跡が残っています」

リヒトクレール様が怒りの混じった声で、私を庇うように前に出た。

「そうだね。痕跡を調べれば誰の仕業かすぐに判明するね」

先生も白髪を撫でながら上級生達を見ている。


「…………っ」

言葉につまった上級生達は渋々遺跡を傷つけたことを認めた。でも私を殴ろうとしたことは頑として認めなかった。

「君達、いい加減に……!」

リヒトクレール様は彼らに食って掛かろうとした。

「リヒトクレール様!もういいです。私が彼らを煽ってしまったせいだから、とりあえずは遺跡を傷つけたことを反省してもらえればいいです」

「しかし!」

「大事になるのは色々と良くないと思うので。助けてくださってありがとうございました」

「レイフィーネ姫がそう言うのなら……」

リヒトクレール様は納得してなかったけど、なんとかその場は収まった。


「レイフィーネ姫は勇気があるんだね。少し羨ましいな……。でもあまり危ないことはしないようにね」

リヒトクレール様は私の頭をぽんぽんと撫でて、みんなの所へ戻って行った。リヒトクレール様は本当に優しい人だわ。結構離れた場所にいたと思ったけど、助けに来てくれたんだから。ロゼや他の女の子達が好きになるのも当たり前だよね……。




波乱含みの課外授業はその後は大した問題も起こらずに無事に終了した。後日あの上級生達には反省文三十枚が課されたと白髪のおじいさん先生、パレルソン先生が教えてくれた。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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