二人きりの夜
来ていただいてありがとうございます!
「すごいっ!」
辺りを明るくする火炎の威力に驚いた。影のおばけは炎の中に消えていった。
「まだだ。消えてない」
緊張したようなリヒトクレール様の声に戸惑う。
「え?」
「逃げるよ」
リヒトクレール様はそう言うと私の手を握って走り出した。ちらっと振り返るとゆらゆらした影が再びその形を戻しつつあった。
建物の陰で様子を見ていると、私達を見失った影のおばけはウロウロと歩き回っていた。
「どうやら視界に入らなければ大丈夫みたいだね。行こう」
「どこへ?」
「図書棟の入り口が近い。とりあえずそちらへ行こうか」
「はい」
リヒトクレール様と私は小声で話しながら静かに移動し始めた。
でも歩き始めた私達の目の前の地面から、再び煙のような陽炎のような何かが現れた。
「また……!」
「走るよっ!」
「はいっ!」
私達は白い花のリースを目指して全速力で走った。けれどさっきよりもおばけのスピードが速い。
「……っ速いっ!さっきのとは違う固体か?!」
リヒトクレール様が再び炎の魔法で影を蹴散らした。けどさっきよりも復活が早くて追いつかれそうになってしまう。私達が図書棟に飛び込みドアを閉めようとした時、おばけの黒い腕が伸びて私達を捕まえようとした。
バチンッ
と空気をふるわせるような音がしておばけの腕が弾かれて、私達はなんとかドアを閉めることができた。
「建物の中には入ってこられないみたいだ」
窓から外を窺うとおばけが二体ウロウロと歩き回ってるのが見えた。
「はぁ…………」
私は安心して気が抜けて図書棟の廊下に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
リヒトクレール様の声が優しいことに気が付いた。
「大丈夫です……。あの……リヒトクレール様ですよね?」
「…………うん」
変な問いかけになってしまったけど、リヒトクレール様の答えに私は更にホッとしてちょっとだけ涙が出てしまった。
「良かった……」
「…………立てる?」
「はい」
リヒトクレール様の手を借りて立ち上がり、古書室へ向かった。リヒトクレール様の制服の袖口に私が作ったブレスレットがあるのが見えて、なんだかまた泣きたいような気持ちになってしまった。
古書室に入って一応内側から鍵をかけた。
「鍵なんて役に立つんでしょうか……」
「…………」
リヒトクレール様は古書室の窓から外を見て何か考え込んでる。私は散らかしっぱなしの本やブレスレッの材料や花をそっと片付けた。
「どうしてあの影はあの時扉に弾かれたんだろう。そもそもあれは一体何なんだ?どうして現れたんだ……?」
私に思い当たったのは一つだけ。
「廻魂祭だから……でしょうか?」
「え?」
私はリースの事を教えてくれたおばあさんの話をリヒトクレール様に伝えた。
「廻魂祭は亡くなった人達の魂が戻って来る日です。昔は魔のものに会わないように家の中で過ごしていたそうです」
「あの影は人の形をしていた……。還って来た魂……?それなら襲ってくるのはおかしいから、邪悪な魂、悪霊みたいなものなのか……?つまりあれが魔のものということか……?」
「どうして今ここに出てきたのかはわかりませんが……」
そう。毎年ずっと廻魂祭はあったのにどうして今年だけ?どうしてここに?訳が分からない。
「つまりあのリースには魔除けの意味があって、あの影はそれに弾かれてここへは入ってこれなかったということか。なら、ひとまずここは安全な場所ということになるね」
リヒトクレール様はため息をついて、ふかふかソファに腰を下ろした。
確かに今の所ここにあの影が現れるような気配はない。嫌な感じもしない。ただ、リヒトクレール様が一緒にいてくれるから不安に思わないだけかもしれないけど。私も少し間を空けてリヒトクレール様の隣に座った。
「レイフィーネ姫は祭りには行かなかったんだね」
「はい。なんとなくそんな気分になれなくて。それにロゼとエイスリオ様のお邪魔になっちゃいますから」
「なにそれ?」
リヒトクレール様は少しだけ険しい顔をした。私は二人が最近いい感じなこと、そんな二人が上手くいってほしいと思っていることを説明した。
「早く婚約解消してくれればいいんですけどね」
「今は情勢がそれどころじゃないしね……父がすまない」
「え?いえ!そういう事じゃありません!リヒトクレール様のせいじゃないです。そう、全部エイスリオ様がややこしいことをするからいけないの。ロゼのことがそんなに好きだったのなら、私で妥協すべきじゃなかったんです!!」
自分で言っててちょっと悲しくなってきちゃった。
「妥協なんてことないよ」
「え?」
「レイフィーネ姫はたった一人の女性として選ばれ、大切に愛されるべき姫君だ」
リヒトクレール様の腕が伸びて私の髪に、髪飾りに触れた。あまりにも優しい触れ方にかぁっと頬が熱くなる。
「リ、リヒトクレール様は優しいですね」
優しすぎて勘違いしちゃいそう……。でも良かった。前と同じリヒトクレール様だ。どういう訳かは分からないけれど、きっと元に戻ったんだわ。
「僕は優しくなんてないよ」
自嘲気味な笑みを浮かべるリヒトクレール様はそれきりしばらくの間、押し黙ったままだった。
「ふう……。やっぱりこのソファは座り心地が良すぎるね……まずいな……」
しばらくして口を開いたリヒトクレール様は疲れたようにソファにもたれかかった。
「やっぱり……?」
リヒトクレール様はこのソファが設置されてからは魔法クラブの部室や、古書室へは来てないと思うんだけど……?もしかして私が知らないうちに来てたの?
「うん……うちの城で使ってるものだから……」
「え?じゃあこのソファってリヒトクレール様がくださったんですか?」
「ん…………合間に仮眠をとるのに……いいから……」
リヒトクレール様はよほど疲れていたのかそのまま寝息を立て始めた。そうだったんだ。
「確かにこのソファって気持ち良すぎて眠くなるのよね……」
リヒトクレール様の寝顔を見ていたら私も眠くなってしまって、いつの間にか眠り込んでしまった。
朝になったら学園の人達や先生達が助けに来てくれるから、きっと大丈夫…………。
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