這い出すもの
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廻魂祭
この世界では亡くなった人達の魂は空の彼方の異なる世界を廻っていてこの日に戻って来ると言われている。良い魂も悪い魂も。
昔からこの日の前後三日間には家の入口や窓に明かりを灯して迷わないようにしたり、故人の好物を作ってお供えしたり、家族で故人のことをお話したりする穏やかなお祭りが行われる。程度の差こそあれどの国でも共通のお祭りだ。いつしか収穫祭と合わさって、美味しい食事やお酒を楽しむようになっていった。
「……か。そして今では街の広場に屋台が出たり市が立ったりするようなにぎやかなお祭りになったのね」
私は廻魂祭について書かれた本を閉じた。リヒトクレール様を助ける方法を探しているうちにこの本を見つけて休憩のつもりで読んでしまった。古書室の窓から夕暮れの街並みが見える。いつもなら暗くなっていくはずの街はもうすぐ迎える廻魂祭のために明るいまま。薄暗くなってしまった古書室の明かりつけて、もう一度本を開いた。
「あ、これって……」
開いたページにはリースの挿絵。今はかなり廃れてしまっているけど、昔からこの時期にランタンなどと一緒に玄関のドアにこれが飾られていたらしい。白い生花を使った可愛らしいリース。
「そういえば、時々飾ってるお家を見たっけ。可愛いなって思って……って、これって超古代文字だわ……!」
リースの形が魔除けを意味する超古代文字を象っていることに気が付いた。
「ということはこのリースにも魔除けの意味があるのかしら?」
気になった私は街へ出てリースを飾っているお家を訪ねてみた。出てきてくれたおばあさんはとても驚いていたけれど、私が学生でこの辺りの風習について調べているというと、快く話を聞いてくれた。このリースの作り方を教えてくれたおばあさんのおばあさんが、魔のものを寄せ付けないお守りだと教えてくれたそう。
「やっぱり!」
「昔は廻魂祭の時には魔のものに近づかれないように家の中でじっと過ごしていたものだけど、今は時代が変わったのねぇ。こんなに賑やかなお祭りになるなんて……。ご先祖様もびっくりね」
そういっておばあさんは穏やかに微笑んだ。
「お話を聞かせていただいてありがとうございました」
私はおばあさんにお礼を言ってその家を後にした。
「このブレスレットや魔除けの飾りやリースに、リヒトクレール様にとりついてるものを退ける力が本当にあればいいのに……」
本の挿絵には魔のものを退ける力があったように描かれているのに、リヒトクレール様と話した時には何の効果もなかった。あまつさえ私のブレスレットはリヒトクレール様が私に作ってくれたものだ。
「上手くいかないなぁ……。それとも何かが足りないのかしら……」
私はブレスレットを見ながら、ランタンがいっぱいの明るくて人通りが多い街を歩いて帰った。
「ああ!良かった!やっと帰って来たのね!レイ!」
街から帰って来て、寮の中が妙にざわついてるなって思ってたらロゼが慌てた様子で近づいて来た。寮の廊下ではあちらこちらで女の子達が話し合ってる。
「どうしたの?ロゼ。何かあったの?」
「聞いた?キャスリーナ様とリヒトクレール様の婚約が破棄されて、キャスリーナ様は従兄のキャスバル様と一緒に帰国されたそうよ!さっきエイスリオ様が教えてくれたの!」
「…………ええっ!?」
キャスバル様って前生徒会長よね?何でいきなりそんなことになったの?ああ、でももしかしたら、キャスリーナ様の様子がおかしいことに気が付いてシュティーア王国が手を回したのかもしれない。だってリヒトクレール様はキャスリーナ様に魔法をかけてたんだもの。
「それとこれも彼が教えてくれたんだけど、シュティーア王国がレーヴェ王国に非難と異議を申し立てたって。今度の議会で取り上げられるそうよ」
「議会で?」
廻魂祭の前日にはこのサントル市の会議場で十二か国会議が開かれる。いつもの会議とは違って、議論が交わされることのない儀礼的なもので、各国の国王様達が集まって偉大な先人達ために祈りましょうという場だったはずだわ。そこでレーヴェ王国を糾弾するつもりなのね。
「ええ。賛同する国も多いだろうって。多分私の国も……」
ロゼは少し表情を曇らせた。あれからもレーヴェ王国は色々な国に不利な条件の約束事をさせようと動いていたから、各国に不満がたまって結束するのは当然よね。
「そう……。これでレーヴェ王国が収まってくれたらいいんだけど」
そう言いながらも私はリヒトクレール様の事が心配でたまらなかった。
その夜、酒に酔った一人の男がサントル市の裏路地の暗がりに座り込んでいた。男は石畳の隙間から何かがゆらゆらと湧き出し、自分の方へ這い寄って来るのを見て目を擦った。次に目を開けた時、そこには何もなく、ただ冷たい石が敷き詰められた道があるだけだった。安心したのも束の間、男の視界は赤黒く染まりそこから何も分からなくなった。
翌朝になって通行人に発見された男は、呼吸し生きてはいるものの目覚めることは無かった。
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