アカデミアの変わり者
来ていただいてありがとうございます!
街は廻魂祭の準備で賑わっている。
この時期は北の神殿での神事の時のように家々の戸口や窓辺にランタンなどが灯され、夜通し明るい。心なしか冷たい風が吹くこの季節でも空気がほんわりと温かい感じがする。
「…………やっぱりこの時期はどこでも同じようなんですね」
「レイフィーネ姫はサントル市は初めてだもんね」
私はアルガス様と一緒に夕方の街を歩いていた。今日はアルガス様にアカデミアに連れて行ってもらった。
リヒトクレール様の事をアルガス様とパレルソン先生に相談したら、すぐに動いてくれてアカデミアの研究者の人達に話を通してくれた。そして私に会いたいというちょっと変わり者の研究者がいると言われた。
「憑依だね」
私の話を黙って聞いていたその研究者は開口一番にこう言った。彼の名前はファンタス様。おばけや幽霊、魔物や悪魔といった怖いものを専門に研究してる人だった。
「ひょうい……?」
「うーん、リヒトクレール王子の中に何かが入り込んでる状態の事かな?」
「だいたいあってるよ、アンガス君。とりつかれているという表現が正しいかな」
ファンタス様は少し白髪の混じり始めた黒髪をかき上げながら、灰色の目を輝かせた。
「変わってしまった言動、性格、そして赤黒い影……実に興味深い!」
「そんな……」
なんでそんなに楽しそうなの?私はこんなに心配してるのに……。
「ちょっと変わってる人だから気にしないでー」
アルガス様がこっそりと耳打ちしてきたので、渋々ながら頷いた。
「アカデミアなんて所詮、優秀な変人の集まりさ!」
…………聞こえちゃってたみたい。ファンタス様は気を悪くした風もなく言葉を続けた。
「そのリヒトクレール王子にとりついているのは、封印されていた存在だろうね」
「え?あの石碑と神像の?!」
ファンタス様とアルガス様が言ってるのはあの傷つけられたり壊されたりした遺跡の事?
「そうさ!時期も一致するだろう?」
「最初に石碑が傷つけられた時は春でしたよー?」
「リヒトクレール様は夏休みまではいつもと変わらない様子でしたし……あ」
あ、でも待って。北の神殿の街で最後に見たリヒトクレール様の顔はいつもと違ってた気がする。それに観月のダンスパーティーの時!あの時も瞳の色が一瞬赤くなっていたし様子も変だった。もしかしてあの時にはもう何かに入り込まれていたとか?
「思い当たる節がありそうだね?」
「思い当たるというか……たぶん……でも……」
断言できるほど自信が無い。
「徐々に蝕まれていった可能性もある。ずっと抵抗していて力尽きようとしているのかもしれない」
「……っ!」
ファンタス様の厳しい表情に思わず息を呑んだ。リヒトクレール様、苦しいって言ってた……。あれはもしかして抵抗していたから?
「そうなったらリヒトクレール王子はどうなるんですか?」
アルガス様とファンタス様を交互に見比べた。
「完全に乗っ取られたら、彼は消えて別人になってしまうだろうね……」
衝撃を受けた。
どうやってアカデミアを出て学園の近くまで帰って来たか覚えてない。ああ、街が明るいなって気が付いたら廻魂祭が近いんだって思い出したの。
「大丈夫だよ。まだ確定じゃないし、ファンタス様がリヒトクレール王子を助ける方法を調べてくれるって言ってたから」
「……はい」
「僕もおじい様と一緒に色々調べてみるから」
「……ありがとうございます」
涙で明るい街がぼやけて見える。なんでこんな事になったの?ファンタス様の推測が正しければリヒトクレール様はリヒトクレール様じゃなくなっちゃうかもしれないんだ。そんなのは嫌だ!
「レイフィーネ姫は本当にリヒトクレール王子の事が大好きなんだねー」
「……へ?え?なんで……?」
一瞬で頬に熱が上がった。
「見てれば分かるよー。それにたぶんリヒトクレール王子も……辛かっただろうね」
そうだ、辛いのはリヒトクレール様だわ。
「私、私も調べてみます!何かできることがあるかもしれませんし!」
私はグイッと涙を拭った。泣いてる場合じゃないわ。
「うん。元気な方がレイフィーネ姫らしいよー。一緒に頑張ろうー!」
「おーっ!!」
私はサンサントル学園の前でアルガス様と別れて女子寮の部屋に戻り、その夜は北の神殿から送られてきた本を片っ端から読み返したのだった。
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