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期待しないと言われたので自由にさせてもらいます  作者: ゆきあさ


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逢魔が時

来ていただいてありがとうございます!



薄暗い部屋の中、生徒会長の机に座っていたリヒトクレール様はゆっくりと立ち上がった。幸いというか部屋の中には他に誰もいなかった。


「何しに来たの?勉強は?婚約解消に向けて頑張ってるんじゃなかったの?それともやっぱりエイスリオと結婚することにした?彼って顔は良いし真面目だし条件は悪くないよね」


言葉の内容は意地の悪いものだけど、綺麗なエメラルドグリーンの瞳は何の感情も映さず曇っているようだった。


「聞きに来たんです」

「何を?」

「どうしてレーヴェ王国がこんな事を始めたのか」

「聞いてどうするの?」

「わからないけど……みんな混乱しちゃってて、学園の中もたぶん外でも……。それに!リヒトクレール様が心配なの。前と全然変わってしまったから!」

「僕は元々こうだよ……。君が僕の何を知ってるの?普段は笑顔を作って人当たりを良くしていただけだ」

疲れたように息をついて机にもたれるように手をついた。

「でも、夏休みは北の神殿ではあんなに楽しそうにしてたのに!」

リリー様の姿だったけど、あの神殿での様子は作り笑顔にはとても見えなかった。

「…………」

ほんの少しだけリヒトクレール様の瞳が動いたけど、またすぐにふっと光を失くした。


「…………レーヴェ王国の王家は十二の王国の中でも古代の王国の血を濃く受け継いでる」

「はい、知ってます」

「父も……祖父も先祖達も皆そのことに誇りを持ち、その矜持を受け継いできた。そして我が王家には創立以来の悲願がある」

「悲願……?」

「アステールスケーネに再び一つの王国を築くこと」

そんな……!十二の王国がそれぞれにうまくやっているのに今更統一するの?


「そんなことは……」

「うん。無理だよね。でも祖父の代までは妄執のようにそう言っていたそうだよ。現国王である父は現実的ではないと言っていたけれど、シュティーア王国が十二か国同盟の主権を握る現状については快く思ってはいなかった。それで僕に生徒会長になるように命じたんだ」

「やっぱり……。リヒトクレール様は国王様に逆らえなかっただけなんですね」


「そうでもないんだよ。結婚なんて所詮自分の思い通りにはいかない。それに誰と結婚するかなんて僕にはどうでも良かった。だから父の命じた通りに対立した派閥の姫君を誘導して僕らの敵にならないようにしてきたんだ」

諦めたようなリヒトクレール様の顔が苦しそうな表情に変わる。


「予定通り生徒会長選挙まではみんなに良い顔をして気を持たせて……。シュティーアの姫君を落とせば終わりだった。その後の事は父に任せればいいと思ってた……」

「予定通りに婚約したのでは……?」

ロゼやその他の女の子達は悲しんで、キャスリーナ様は嬉しそうだった。


「好きじゃなくても大切にすればいいと思ってたのに……」

キャスリーナ様の事、好きじゃなかったの?仲良さそうに笑ってたよね?

「……できなかった。愛してもいないのに結婚なんて、一生を共にするなんてできない。シュティーアの姫君に口付けをせがまれて、思わず突き飛ばしてしまった」

ふわぁ……!く、口付けって……!キャスリーナ様って大胆……。顔が熱くなって思わず頬を押さえた。でもリヒトクレール様、婚約者(女の子)を突き飛ばしちゃったの?リヒトクレール様を見ると少しだけ笑ってる?でもそれはほんの一瞬だけで、すぐに元の辛そうな表情に戻ってしまった。


「物凄く……非難されて、本当は他に好きな人がいるんだろうってなじられて、思わず魔法を使ってしまった」

「魔法を?」

何の魔法を使ったんだろう……。まさか魔法を使って突き飛ばしたとか?さすがにそれはやりすぎだわ……。


「…………心を操る魔法。洗脳の魔法……」

「そんな魔法があるんだ……でもそれって……」

「学園に来てから魔法の天秤で判明したんだ。幼い頃は無意識に使っていたらしい。でも学園でははずっと封印してきたんだ。魔法のせいで誰かに好意を持たれるなんて嫌だった」

そうだよね。友達だと、好かれてたと思ったら自分が魔法でそうしてたのかもしれないなんて、私だって嫌だわ。


「…………エイスリオに偉そうなことを言ったけど、僕が愚かだった。本当に好きな人以外を愛し慈しむなんて僕にもできなかった……。魔法を使って操る方が気が楽だった……でも……」

俯きがちだったリヒトクレール様が顔を上げた。


「苦しいよ、レイフィーネ」


「リヒトクレール様……!」

私の方へ伸ばされた手を掴もうとしたその時、リヒトクレール様の顔が歪んだ。瞳の色が赤い光を帯びている。

「リヒトクレール様?」

苦しそうに胸を押さえてる。何かがおかしいみたい。



「来るな……!」


「父も変わってしまっていた。夏に帰国したら祖父と同じように、いやそれ以上に妄執にとりつかれて……。アステールスケーネは一つになるべきだと……。僕も……そうなるべきだと……だから……僕はこうするしかなくて……」


「リヒトクレール様、どうしたんですか?なんでそんなに苦しそうなの?」

後ずさりするリヒトクレール様に近づこうと一歩踏み出した。


「頼むから来ないで……邪魔をしないでくれ……僕は君を見ていると……揺らいでしまう……だからっ!」

リヒトクレール様が腕を振ると、突風が向かってきて私は窓の外の空に押し出されてしまった。



なんなの?最後に見えたリヒトクレール様の周りにあった赤黒い影は……。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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