歴史とおとぎ話
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結果として戦争にはならなかった。
レーヴェ王国の隣国クレープス王国は元々穏やかな国民性の中立の国でどちらの派閥にも加わっていなかった。だけど両国は国境にまたがる鉱山の利権でたびたび揉めていて、クレープス王国が勝手に開発を進めてレーヴェ王国の利益を脅かしていたというのが宣戦布告の理由だった。レーヴェ王国が国境の軍備を増強し始めたことに脅威を感じてか、鉱山を含む領地の一部を割譲して戦争を回避する道を選んだ。戦いとなれば、クレープス王国はレーヴェ王国の武力にとても敵わないことは明白だったから。
その後レーヴェ王国は反対隣のヴィエルシュ王国に関税に関する条約の改定を申し入れ、自分達に有利な条件で条約を結びなおしてしまった。今まではこんな強引なことはしてこなかったのに一体レーヴェ王国の国王様はどうしちゃったのかしら……。そしてリヒトクレール様は何を考えているんだろう……。
学園内の雰囲気は酷いもので、アステールスケーネの潜在的な緊張や不満が表面化したようだった。
レーヴェ王国に賛同する人、非難する人、口をつぐむ人……、更には自国と利益が対立する他の国のことまで文句を言い出す人等、反応は様々だった。
「リヒトクレール王子は俺を非難していたが、自分が生徒会長になるために対立派閥の姫君達の好意を利用していたんだ。あいつは卑怯者だ」
エイスリオは他人の事は言えないと思う。ここに私という貴方に利用されてる被害者がいますよー?どうせ婚約発表以来ずっとロゼが悲しんでるのを見てて怒ってるだけでしょ、エイスリオは。
「リヒトクレール様には幻滅しましたわ……。国王陛下をお止めせずに加担するようなことをなさるなんて」
うーん。でも私達って基本的には国王様の命令には逆らえないわよね。特にレーヴェ王国の今の国王様はちょっと強引で怖い方だって聞いてるし。
「……リヒトクレール様はお父様に逆らえなかったのかもしれないわ」
「レイフィーネ姫はあいつを庇うのか?レーヴェ王国が隣国に行っていることは侵略と同じだぞ」
「それは……」
「その行為を肯定するつもりか?」
「そんなつもりはないけど……」
エイスリオに詰められて何も言い返せない。今回のことはレーヴェ王国が酷いのは間違いないから。私の国が同じようなことをされたら、私だって怒ると思う。話し合いもせずにいきなり武力行使するって脅してくるなんて……。やっぱり変じゃない?
「しっ!お声が大きいわ、エイスリオ様。そのような強い言葉を使ってはいけませんわ。このクラスにもレーヴェ王国を支持する生徒達がいるのです。争いごとは避けるべきです」
「そうですね。ロゼメーア姫の仰る通りだ。俺が軽率だった。すまない」
微笑みあう二人……。なんだか怪しいわ。エイスリオはずっと元気のないロゼを励ましてきたみたいだしロゼの雰囲気も前より柔らかくなってる。二人の間に何かが生まれつつあるのかもしれない。
学園内で見かけたリヒトクレール様はまるで別人になってしまったみたい。前は笑顔で女の子達に囲まれていたけど、今は自分で選んだ新生徒会メンバーに囲まれて終始無表情。引継ぎは来年のはずなのに、今からもう生徒会室で執務を行ってるそうだ。非難してくる生徒達をほぼ無表情で冷たく言い負かしてたりしてる。前生徒会長のシュティーア王国の王弟子息は何も言わないのかしら……?婚約者のキャスリーヌ様も全然姿を見ないし、一体どうなっちゃってるの?
「案外あれが奴の本性だったんじゃないか?」
「いつも笑ってたのは俺達を見下していたからだ」
「僕は前からあの薄ら笑いは気味が悪かったんだ」
そんな風に言い合う人達に言い返したくなるけどロゼに止められた。
「レイ、気持ちはわかるけど、今はあの方を庇っては駄目よ。貴女まで目の敵にされてしまうわ」
「でも!…………そうね」
たたでさえ、うちの国はレーヴェ王国寄りだと言われてシュティーア王国やクレープス王国やヴィエルシュ王国の生徒達からは距離を置かれるようになってしまってるんだものね……。
「もしかしたら、本当に変わってしまったのかもしれないわ。私達の知らないところで」
「…………」
「優しかったあの方はもういないのかもしれないわね」
「平常心、平常心。とりあえず戦争は回避されたんだし、大丈夫、大丈夫。私は勉強しなくちゃ」
私は更に放課後や昼休み時間まで古書室にこもるようになった。
「勉強……意味あるの?こんな状況で……。今までの平穏って当り前じゃなかったんだわ」
学園ではみんなが仲良くしていたと思ってた。それが今は……。落ち着かない気持ちになって勉強が手につかない。
「こんな時は少し休んじゃおう!」
私はふかふかソファにボスンと座り、左手首のブレスレットを見つめた。
「リヒトクレール様、本当に変わっちゃったのかしら……ん?あれ?」
何となく既視感を感じて髪飾りを外した。バレッタの裏側に何か……。
「あ、これってお守りのブレスレットと同じ文様だわ」
貰った髪飾りを見ていたら、髪飾りに使われてるプレートにお守りのブレスレットと同じ紋様が小さく彫られてるのに気がついた。
「持ち主の無事を祈る意味がある超古代語だったはず……」
この髪飾りにもお守りの意味を込めてくれたんだ……。ってことはこれってもしかして手作り?やっぱりリヒトクレール様は優しい人なんじゃないの……?
私はお守りのブレスレットの事が書いてある本を取り出して眺めた。女の子がブレスレットをかざして魔のものを退けてる。よく見たら、魔のものの後ろに流れ星みたいなものが描かれてる。
「赤い星?」
超古代語の赤と思われる紋様。
「赤いほうき星……?」
バタンッ
とドアが開いてアルガス様が飛び込んで来た。
「大変なことが分かったよ」
「ア、アルガス様!驚きました!!」
普段はおっとりしっとりのアルガス様がノックも無しに飛び込んでくるなんて珍しいわ。
「ごめん、ごめんねー!でも聞いてよー!」
なんだかすごく興奮してるみたい。
昔、このアステールスケーネには一つの大きな王国があった。そして時と共に王国は次第に分裂していき、今の十二の王国が存在する姿になった。その過程では今みたいな揉め事や戦争なんかもあった。私達が歴史として学ぶのは主にその分裂し始めた頃からの史実だ。
「実はねー、もっともっと大昔にこんなことがあったんだー」
ある時、国王の弟が狂気に落ちた。弟は誠実で人望の厚かった兄国王に嫉妬しこれを弑し、自らが王位について圧政を敷いた。臣下達は力を合わせて王弟を打ち倒した。
「でもねー王の弟を倒したその後が大変だったんだよー」
「え?どうしてですか?悪い国王はいなくなったんですよね?確かに混乱した国を立て直すのは大変だったでしょうけれど……」
「それがいなくならなかったんだよー。悪霊になっちゃったんだ」
「ええ?!」
そんなことあるの?
「よっぽど王位に執着してたんだろうねー。魔のものを引き連れて悪さをするようになっていったんだよー。それでその時に現れたのが」
「赤いほうき星……」
「正解!!って何で知ってるのー?」
壊された石碑や神像に記された文字、お守りのブレスレットの紋様、それらをアルガス様やパレルソン先生、そしてアカデミアの協力者達が解析した結果、壊された遺物達は古代の悪霊を封じるために作られたものだと分かったのだそう。
「まるでおとぎ話みたいですね」
「興味深いよねー」
話せるだけ話して満足したのかアルガス様は古書室を出て行った。アルガス様には今の外の状況はあまり関係ないみたい。
「歴史上、こういう事は数多く起こって来たからね。愚かな人達ばかりじゃない。みんなで話し合って仲良く生きていくためにこの学園は生まれたんだから、今回もきっと大丈夫だよー」
そう言って笑ってた。
「よし!行ってみますか!」
私はもう手っ取り早く確認しようと思った。元々悩んだり考えたりするのは性に合ってない。夕方の生徒会室にはまだ明かりが灯ってる。ドアからは入れてもらえないだろうし、ここは風魔法で飛んでく!私は最上階にある生徒会室のバルコニーに降り立った。窓の鍵はかけられてなかった。
「どうして来たの?」
私を迎えたのはとても冷たい声だった。
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