生徒会選挙と婚約発表
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「厳正なる選挙の結果リヒトクレール王子が次期生徒会長に選出されました」
現生徒会長のシュティーア王国王子の言葉に拍手が沸き起こる。サンサントル学園の生徒会は新年と共に代替わりをするんだけど、生徒会長の選挙は秋の終わりに行われる。
「さすがリヒトクレール様だわ!優しいし、人望も厚くて学園のリーダーにピッタリよね」
「これで来年一年はレーヴェ王国がリーダーだな」
「ここ数年はシュティーア王国だったから、久しぶりですわね」
生徒集会で発表された結果にみんな納得の表情で話し合ってる。
サンサントル学園の生徒会長選挙には特別な意味がある。周りの十二の王国は他の諸外国に対抗するために、同盟のようなものを組んでいる。毎年、そのリーダーとなる国がこの生徒会長選挙の結果で決められる。サンサントル学園の生徒会長になった生徒の王国がその年の十二か国のリーダー、議長になって引っ張っていくという慣習がある。これは王国同士が争わない為の策の一つとしても考えだされたんだそう。
今年は対抗馬となるシュティーア王国の姫君であるキャスリーナ様が立候補されず、他の候補者もいるにはいたけど、リヒトクレール様の人気には敵わなかった。
そしてその数日後、かなりの人数の女子生徒を悲しませることが起こった。リヒトクレール様とキャスリーナ様との婚約が発表されてしまったの。覚悟はしてたけど私も何かで頭を殴られたような感じだった。ロゼはショックでずっと泣き続けてる。私の前では見せないけど、朝起きた時に目が赤いことが多い。私は魔法クラブの部室へ行かなくなった。もしリヒトクレール様が来たら、おめでとうございますって言わなくちゃならないから。
いつも通りの秋晴れの朝、でも少しだけ重苦しい朝。
「レイは今日も放課後は図書棟へ行くの?」
「うん。今回北の神殿から送ってもらった本が面白くて!」
「そういえばこの前作ってた魔よけの壁掛け?これも可愛いわよね」
ロゼは私達の共用の部屋の壁にかけてあるお守りの飾りを見つめた。
古代の人達がよく家に飾ってた魔よけのお守りは香木を八芒星の形に組んで、水晶や乾燥させた木の実などをくっつけて作るもので、本来は玄関に吊り下げてたらしい。アレンジは割と自由でリボンをつけたり、中にはとても高価な宝石をつけたりするものもあったらしい。私は街で買ってきた可愛い布とビーズとで飾り付けをしてみた。見るたびにいい気分になって、我ながらいい出来だ思ってる。
「次はどんなものを作るの?」
「あー、次は作るものじゃなくて、何て言ったっけ……『式神』?っていう魔法を試してみようかなって思ってるの」
「シキガミ?聞いたことがないわ」
「うん。なんか言うことを聞いてくれる召使みたいなものらしいの。怪我や病気の治療もしてくれるんですって」
「へえ!なんだかすごいのね」
私達はリヒトクレール様の話をしなかった。ロゼには新しい縁談が続々と舞い込んでいるらしいし、私は勉強と古代魔法の研究で忙しかった。婚約解消の為だけじゃなくて勉強も研究も楽しくなり始めていた。
「あー!いたいた!おおー本の山だねー」
もはや私の研究室みたいになってしまった古書室には、北の神殿から借りた本が机にいっぱい積まれてる。
「アルガス様!どうなさったんですか?」
珍しくアルガス様が図書棟へやって来た。アルガス様はもっぱらフィールドワーク派であまりここへは来ないのに。
「おじい様……じゃなかったパレルソン先生がレイフィーネ姫と話したいって。これからちょっと一緒に研究室へ来てくれる?」
「はい。もちろんです」
私はアルガス様と一緒に図書棟を後にした。パレルソン先生に呼び出されるなんて……。私、何しちゃったんだろう?レポートはもう提出したけど、不備があったのかしら……?考えながら歩いていたら、見たくないものを見てしまった。
「まあ……リヒトクレール様ったら……」
キャスリーナ様とリヒトクレール様が仲良さげに歩いているところだった。また胸がずきんと痛んで思わず顔を背けた。
「やっぱりおかしいねー」
「え?」
アルガス様を見ると難しい顔をして考え込んでる。
「何がおかしいのですか?リヒトクレール様……ですか?」
「うーん。それもそうなんだけど、キャスリーナ姫が変……」
「え?いつも通り天使のようにお美しい方だと思いますけど……」
アルガス様ってば変だなんて失礼なこと……あれ?遠目だけど、なんだか変……。目や表情に生気が無いみたい。それに二人を包むように何かもやもやしたものが取り囲んでるように見える。何?あれ……。
「変……でしたね」
「うん……とりあえず今はおじい様の所へ行こうか」
「……はい」
「超古代語?ですか?」
パレルソン先生のお話はお小言じゃなかった。良かった。
「そうなんです。古代語よりも更に古い言語があるんですね。各地の遺跡にはその言語が刻まれてるものがあるんです」
「そんなものがあるんですか」
「古代語や古代史は何故か忘れられた学問と呼ばれ、巨大王国のことは伝説や神話のような形でしか残されてないのです。その歴史の研究には苦労が伴いましてね……」
パレルソン先生は古代の王国を懐かしむように遠くの空を見た。
「今回壊されていた神像にも春の課外授業で傷つけられた石碑にも超古代語と思われる文字があったんだよ」
アルガス様とパレルソン先生はそれらを綺麗に修復して、さらに解読を進めたいそうだ。
「それでね、レイフィーネ姫は最近古代語の本をたくさん読んでるでしょ?だからちょっと手伝って欲しいんだ。何かヒントになるような情報無いかな?」
「そんな!私なんてお役に立てるとは思えません。ただでさえ古代語の辞書片手に苦労してるのに……」
「そんなことはありませんよ。あのブレスレットや魔よけの飾りは良くできていましたよ」
パレルソン先生が優しく褒めてくださって嬉しいけど、超古代語なんて私にはちんぷんかんぷんだわ。私は机の上に置かれた超古代文字の写しを見た。
「……あれ?この文字ってお守りに彫る紋様と似てる……?」
「そういえばそうですね。似ていますね……」
パレルソン先生も私のブレスレットと超古代語の写しを見比べた。私のブレスレットはリヒトクレール様が作ったもので、私が作ったものよりもずっと綺麗に本に忠実に文様が彫られてる。
「それらの文献を見せてもらえる?」
「は、はい!アルガス様。すぐに持ってきます!」
私は思い出せるだけ超古代語と似ているあの文様が載ってる本を持ってパレルソン先生の研究室へ戻った。
それからパレルソン先生とアルガス様は頑張って石碑や神像に記された超古代語を解読した。そしてあの二つが何かを封印する要になっていたことを突き止めたそうだ。今、修復を急いでいるけれど神像の方は破損が酷くてかなり時間がかかってしまうらしい。それにしてもそんな酷いことをしたのは誰なの?まったくもう!
そしてその数日後、冬の始まりを思わせる肌寒い日に衝撃的なことが起こった。レーヴェ王国が突如として隣国に宣戦布告をした。
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