秋の始まり
来ていただいてありがとうございます!
「私、絶対にリヒトクレール様に選ばれてみせるわ!」
夏休み明けに顔を合わせたロゼは自信に満ち溢れてて、以前よりももっと綺麗になっていた。お化粧も更に上手になっていて、宝石をふんだんに使ったアクセサリーもロゼにとても似合ってる。ロゼは予定通りにレーヴェ王国でのお茶会や舞踏会に参加したようで、リヒトクレール様の婚約者候補五人のうちの一人に選ばれていた。
「なんでロゼメーア姫が五人の候補の一人なんだ!あまりに失礼じゃないか!」
反対にエイスリオは荒れていた。エイスリオの耳にも婚約者候補の話が入っていたみたい。
「まあ、私の為に怒ってくださってありがとう、エイスリオ様。でも私、絶対に誰にも負けないわ。絶対に婚約者に選ばれてみせます!ご心配なさらないで?レイも応援してくれるでしょう?」
「うん……頑張ってね、ロゼ」
嬉しそうなロゼになんとか笑って見せたけど、我ながら気持ちが入ってない。私って嫌な友達だわ。親友を素直に応援できないなんて。しかもロゼには夏休みにリヒトクレール様と会ったことは言えていない。だって、「リリー様」の姿で来たってことは言ってはいけないってことよね。
「いくら十二か国間の平和の為だとはいえ、こんな風に婚約者選定を公開で行うとは……」
エイスリオはまだ怒ってる。確かにあまりない事だけど、当人達が納得してるんだったら、外野が文句を言う必要が無いと思う。(私なら嫌だけど)正直うるさいから一人でどっかで怒ってて欲しい。
アステールスケーネにある十二の王国の中で絶大な力を持っているのはレーヴェ王国だ。古代にあった巨大な王国の流れを継いでいると言われてる。そしてそれに次ぐ力を持っているのがシュティーア王国。
ロゼの国、ピシース王国はリヒトクレール様のレーヴェ王国を代表とする派閥と対立するシュティーア王国と仲が良い国だ。
ちなみにうちのディデュモイ王国はほぼ中立の国だけど、どちらかと言われればレーヴェ王国寄り。トラゴス王国はシュティーア王国を支持する国だ。こんな感じで王族は争いごとを避けるために対立する派閥の国と婚姻を結ぶことが多い。逆に高位貴族達は王国や家に利益がある婚姻を結ぶ。そんな慣例になっている。
今回驚かされたのは、婚約者候補の中にシュティーア王国の姫君(二年生)が含まれていたこと。他の婚約者の候補者達もシュティーア王国と仲の良い国の姫君達ばかりで、完全に政略の為、争いを生まない為の婚約者選びだった。
図書棟の古書室の窓の外から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
秋の始まりは私にとって辛い季節になった。学園内ではリヒトクレール様が五人の婚約者候補達と親し気に話す姿が頻繁に見られたから。
最近は更にエイスリオの機嫌が悪い。それなのにわざわざ私に話しかけてくる。今日だって教室で
「いい加減に婚約者らしい行動を取ってくれ。無駄な勉強はやめてくれないか」
ロゼがリヒトクレール様のそばにばかりにいるからか、凄くイライラしてて私に当たってくる。
「いつでも婚約解消してくださっていいですよー」
って適当に流して本を読んでるけど。
ロゼはロゼで寮の部屋ではイライラして爪を噛んだり、そうかと思えばお化粧を始めたりする。
「いつもシュティーアの姫君が近くにいて、中々二人きりでお話しできないの。これでは私が不利だわ。学年も違うんですもの……」
いつもピリピリしてる。そうかな?結構リヒトクレール様はみんなと平等に交流してる気がする。今日だってロゼと二人でランチをとってたし。昨日は違う候補者とだったけど。
私はできるだけ二人の近くにいたくなくて、逃げるように図書棟や天文の塔で勉強と研究に打ち込んだ。
机の上にことりとティーカップが置かれ、爽やかな香りがただよう。
「大丈夫?レイフィーネ姫」
「何がですか?アルガス様」
「うん。最近少し根を詰めすぎな気がしてねー。無理してない?」
私の前に座ったアルガス様がお茶を飲みながら、心配そうに微笑んでる。お礼を言ってから、私もお茶に口をつけた。
「無理なんてしてないです。私は一日も早く結果を出さないといけないんですから」
そうしないとこの胸の痛みを感じる資格すらないような気がしてる。私はそっと左手首のブレスレットに触れた。
「これが北の神殿の文献かー。僕も読んでいい?」
「もちろんどうぞ」
私の手元には北の神殿からお借りしてきた数冊の古代魔法の本がある。神官様が親切な方で、定期的に本を数冊送ってくれるって約束してくれた。大切な本なのに破格の対応をしてくれてとてもありがたい。ただ、やっぱりこの本達も古代魔法の記述が一部載ってる程度の本が多くて、抜粋してつなぎ合わせる作業が必要になってくる。
「そういえばレイフィーネ姫の夏休みの研究、先生方に好評みたいだねー。凄いよ」
「ありがとうございます」
実は北の神殿で調べた古代魔法のレポートをまとめて先生に見てもらった。古代魔法は道具を使う面白いものが多いんだけど、目につくのは魔除けとかお守りみたいな護身用の魔法だった。昔の人達はおばけとか幽霊が怖かったみたい。今回はその事についてまとめてみた。もちろんリヒトクレール様と一緒につくったブレスレットについても色々調べて、実物と一緒に提出した。そのレポートがかなり評価してもらえて嬉しかった。
「僕はアカデミアに進むつもりだけど、レイフィーネ姫もどう?」
「アカ……っ!簡単に言わないでください!」
アカデミアはサントル市にある、滅茶苦茶頭の良い人だけが入れる最高学府で、入学するのはとても難しい。難しすぎて「天上のアカデミア」と呼ばれているほど。だけど卒業すればその道の一流研究者として認められ、人生安泰という物凄い学園なの。
「私なんてとても無理ですよ。定期試験で三十位にも入れないのに……」
「うーん。でも入学条件は成績だけじゃないでしょー?この研究を突き詰めて行けば道が開けると思うよー。レイフィーネ姫はまだ一年生なんだしね」
「そうでしょうか……」
確かにアカデミアに入れるとなれば、私の意思も通りやすくなるし、結婚を強いられることも無くなる。
「星みたいに遠い目標ですね……」
私は夜空を見ながら、女子寮へ戻った。
「リヒトクレール様、今日も来なかったな……」
もしかしたらリヒトクレール様が部室に来るんじゃないかって淡い期待もあるんだけどダメみたい。リヒトクレール様はいつも五人の婚約者候補の姫君達と一緒にいるから。
もう来ないのかな……。魔法クラブをやめちゃったりとか?それとも次に来るときは婚約者が決まった時……?また胸がずきんと痛んだ。
そして気になってることがもう一つ。
『リヒトクレール王子ってさ、この前見かけた時、様子が変だった気がするんだけどな。僕の気のせいかな?』
帰り際にアルガス様が呟いてた。私もずっと心配だった。いつもの笑顔のように見える。でも、どことなくなんだけど表情が固いような、暗いような、変な感じがしてる。
「女性が一人で出歩いていい時間じゃない」
ぼんやり考え事をしてたから気が付かなかった。女子寮の前にエイスリオが怒ったような顔で立っていた。
「では、夜も遅いので失礼します。ごきげんよう」
通り過ぎようとしたら、立ちはだかられた。なんか言いにくそうにしてる。
「……………………今度の観月のダンスパーティーには参加したいんだ。頼む。一緒に来てくれ」
なんと、エイスリオに初めてお願いをされ頭を下げられた。
でもやだ。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




